第38話 この国の闇の話
僕はベッドに横になって天井を眺めている。
原因不明の食あたりなのだ。でもリサが調合してくれた薬のおかげでかなり楽になってきた。
不思議な事に白ヒゲのオジサンも原因不明の腹痛で今日は仕事を休んでいるそうだ。
きっと、彼が作ったチャーハンが原因だろう。
あんな不味いチャーハン食べたら誰でもお腹壊すだろう。
僕の横ではリサが心配そうに看病してくれている。
「勇者様、具合はいかがですか?」
「リサさんの薬の効果が効いて、だいぶん楽になりましたよ」
「それは良かったです! それにしても白ヒゲオジサンのチャーハンは美味しかったですけど、勇者様のチャーハンも食べてみたかったです」
昨晩は僕が作ったチャーハンがあまりにも美味しくて全て二人で食べてしまったんだよな。
――ん?
白ヒゲのオジサンのチャーハンはみんな食べた。
僕のチャーハンは、僕と白ヒゲのオジサンだけしか食べていない。
食あたりの原因は僕が作ったチャーハンなのか?
気付かなかった事にしよう。
僕は話題を変えた。
「今日、白ヒゲのオジサンは薬草園での廃棄物回収の仕事をお休みしたみたいですね」
「はい。お薬を飲んでもらったから明日には復帰できそうです」
「一日休むと仕事が溜まって明日が大変そうだな。一体なぜこのような事になったのだろうか?」
リサは、(勇者様が原因ですよ)と喉まで言いかけた。
二人で話をしていたら、部屋をノックする音が聞こえた。
リサが扉を開けるとマジソンが立っていた。
「翔馬さん、お見舞いに来ましたよ!」
リサは笑顔で部屋の中に迎え入れた。
「マジソンさん、今日はお仕事お休みですか?」
「ギルドからの緊急依頼を受けて終わって急いできました。翔馬さんの具合が心配で!」
マジソンが僕を親切にしてくれる事に照れを感じていた。
転生前は、具合が悪くても心配してくれる人いなかったから、マジソンの素直な優しさに感動さえ覚え始めていた。
(彼は、結構いい奴なんじゃ?)
「ギルドからの緊急依頼って何?」
僕が尋ねると、マジソンは嬉しそうに答えた。
「ギルドに黒縁のメガネの職員いるでしょう。あの人からのご指名の依頼で、薬草園の廃棄物の回収をしてきた。誰かさんが担当者を病人にしてしまったから、その代理です!」
やっぱり、彼は好きではない。いつも僕には嫌な言い方ばかりする。
さっきの感動は返せよ!
僕は思いつくかぎりの皮肉で返す事にした。
「そうなんだ。ギルドでの直接依頼は相当珍しいね。マジソンは能力も高いから適任なんだろう」
マジソンは、照れながら頭を掻いていた。
「いや、僕も最近頑張っているから、認められているんですよね」
おい、そのまま素直に受け取ったぞ。
皮肉が全く効かないな。
マジソンは、思い出したように話を始めた。
「そう言えば、最近この街で物資不足が深刻になり始めているの知ってますよね」
「うん、少し前からその話を聞くようになってる」
「同時に、職人が強制的に連行されているので、この街での仕事が滞っているらしいですね」
「確かに、ダンジョンでも同じような事言ってたな。例の悪徳侯爵が原因だろう」
マジソンは頷いた。
「話によると、そのフォルファード侯爵が自分の為に街中の職人を集めて作業を強制しているらしいです」
「なんて野郎だ。侯爵は何を考えているんだ! このままだとこの街が衰退してしまうぞ」
リサは悲しそうに会話を聞いていた。
「どうにかなりませんか?」
リサの訴えかける願いも、残念ながら叶う事は難しいだろう。
マジソンは首を静かに横に振った。
「フォルファード侯爵の目的が分からないので、今は誰もどうする事が出来ないのです」
リサは口を尖らせ、疑問をマジソンにぶつけた。
「そのフォルファード侯爵様って、いったいどのような人なんですか?」
「侯爵は、先代の国王ガリヤザインの忠臣だった人です。
その先代王が亡くなった時に二人の息子、正室の子の第一王子のスタリウスと、側室の子の第二王子ジェイスコムの間で後継者争いがあったのです」
僕は良くある話だと思って聞いていたが、ふと疑問に思った。
「普通なら正室の子でもある第一王子が次の王になれるんじゃないの?」
「普通ならばね。でも後継者争いに勝ったのが今の国王、第二王子であるジェイスコムなんですよ」
リサと僕は目を丸くした。
「えっ、第二王子の方が後継者に!? 王としての能力が非常に高かったとか?」
「実は、その時の有力な貴族数名による汚職が表面に現れたのです。
第一王子は処罰をしようとし、第二王子は黙認しました。
その結果多くの貴族が第二王子を支持する代わりに汚職に手を染めていったのです」
僕は貴族社会の汚さにいら立ちを感じていた。
「あの悪徳侯爵も同じように汚職をしたのか?」
マジソンは首を横に振った。
「実は、フォルファード侯爵は第一王子派だったのです。
後継者争いに負けた第一王子派の貴族は地方に飛ばされました。
フォルファード侯爵もこのフォレスト領の領主に左遷されたのです」
僕は、更に混乱してきた。
「なおさら意味が分からない。左遷したこの領地で自分も同じような事を始めたのか?」
マジソンは首を傾げた。
「侯爵の本心は分かりません。
ただ、現国王を憎んでいるのは確かだと思います。
もしかしてこの地で力を貯めて将来的に国王に刃を向けるのかもしれません」
僕とリサはこの話を聞いてゾッとした。
「これは、私の憶測ですから。本当は王国の政から身を引いて金儲けを目指しているだけかもしれませんよ」
僕はそちらの方が悪徳侯爵には似合っていると思った。
今までの街での噂や状況を見ても『自らの資産を増やす』事に熱心なんだろう。
強制的に連行された職人たちもきっと何処かの鉱山で金でも掘らされているに違いない。
「ところで、後継者争いに負けた第一王子はその後どうなったの?」
マジソンは真面目な表情で僕に答えた。
「どこかの地方に家族ごと島流しされ幽閉されたと聞いています。
この争いがおおよそ15年ほど前の話なので、今どうされているかまでは分かりません」
マジソンからこの国の嫌な部分の話を聞いてしまった。
さっきまでは食あたりでお腹が痛かったのだが、今はその話を聞いて胃がキリキリと痛む。
横にいるリサも同じなんだろう。さっきからお腹をさすって話を聞いている。




