第37話 死闘、究極の料理対決
「翔馬さん、お邪魔しまーす!」
僕の宿屋にマジソンのにこやかな声が響き渡った。
「のんびり俱楽部」での初のダンジョン攻略が無事終わった為、二人でお疲れ会をする事にしたのだ。
宿屋の主人にもその事を相談すると快く受け入れ、食事の用意までしてくれた。
一緒にリサや三人の山賊も参加する事になったのだが、何故か宿泊者の白ヒゲのオジサンも加わる事となった。ちなみに名前は知らない。
マジソンの頬は自然と緩み、ハチミツ酒が注がれたグラスを手にすると、ゆっくりと席を立ちあがった。
「おかげさまで私達のパーティは初ダンジョンをクリアする事が出来ました!」
食堂内に拍手が鳴り響いた。
白ヒゲのオジサンもまるで自分の様に喜んでくれていた。名前は知らないけれど。
「では、これからも頑張りましょう。カンパーイ!」
一斉にグラスを高く掲げ、盛大に乾杯の声をあげた。
美味しいはちみつ酒を飲み、とろけそうな煮込み肉にかぶりつく。
リサは、シャキッとした触感のサラダを味わっていた。
盗賊達は、肉汁が滴る焼き串刺し肉を堪能している。
白ヒゲのオジサンは、大麦パンにバターを付けて歓談していた。
マジソンは好物のジャガイモバターを頬張っている。
その光景は僕にこの世界での幸せを与えてくれていた。
(こんな生活がいつまでも続けばいいのにな)
ぼんやりと、雰囲気を楽しんでいたら、白ヒゲのオジサンが僕の隣の席に座ってきた。
「全く関係無いワシも食事会に誘ってくれて、ありがとうな!」
「このような食事会は人が多い方が楽しいですから!」
「そう言ってくれると、うれしいよ」
「ところで、オジサンは何をしに、この街に来たのですか?」
「ワシは、『王立薬草園』の廃棄物を回収する仕事をしているんじゃ」
リサはサラダをモグモグさせながら話に加わってきた。
「私も何度か行った事あります! どのような廃棄物を回収するのですか」
「そうじゃな、効果が薄れた魔力を集める魔道具とか、魔力の悪影響で異常成長したので封印された植物とかだね」
リサと一緒に薬草園に行った時に見た、植物の成長を促進する魔道具の事を思い出した。
僕は彼に尋ねた。
「その魔道具は、植物の成長に悪影響を与える事もあるのですか?
「うーん、まれに悪影響がでる事もある。まとめて回収するけど結構な量になるね」
魔道具と言っても完全でないんだな。人の手ではコントロールできない面も魔法にはあるのだろう。
薬草園繋がりでリサと白ヒゲのオジサンは話が盛り上がり、いつの間にか僕も含めてお酒の量が増えていった。
だが、気が付くと話題がチャーハンの話になってる。
僕と白ヒゲのオジサンは、その話でヒートアップしていた。
「いやいや、若者よ、チャーハンには牛肉だけを入れるのがいいんじゃ!」
白ヒゲのオジサンは、席を立ちあがり宿屋の主人に何か話しかけて厨房へと消えていった。
しばらくするとお皿に盛られたチャーハンを満面の笑顔でテーブルに持ってきた。
「食べてごらん、この牛肉チャーハンを!」
リサ達もそのチャーハンを食べた。
「これ、美味しいです!」
白ヒゲのオジサンはリサ達の感想を聞き、頬を緩ませていた。
僕も彼のチャーハンをスプーンですくい、口に運んだ。
(確かに、牛肉の風味が口の中全体に広がる。そして黒コショウが良いアクセントとなっている。)
僕はスプーンをテーブルに置き、重い口を開いた。
「あれだけ言っておきながら、この味か? 確かに美味しいが味が平面だ。全く話にならないね」
白ヒゲのオジサンは顔を真っ赤にして僕に殴りかかろうとした。側にいた盗賊達がオジサンを抑え、なだめている。
僕は静かに席を立ちあがる。
「どうやら、あなたは本当のチャーハンを知らないようだ。その椅子に座っていな。この私が本物のチャーハンというものを食べさせてやろう!」
宿屋の主人の肩を叩き、一緒に厨房へと入っていく。
主人は、棚の中から小瓶を取り出し手渡した。
「これは、味付け調味料だ。ほんの少し入れるだけで味が増すから使ってみな」
主人は僕の肩を叩き厨房を後にした。
さて、本物のチャーハンとやらを作ろうではないか!
基本、作り方は同じだ。違いは牛肉でなく、ソーセージを使用するところだ。
ソーセージには牛豚の混合肉が使われている事が多い。多彩な肉を入れる事で風味も立体的になる。最後に、宿屋主人からもらったこの調味料をほんの少し入れて、完成だ!
完成したチャーハンを皿に盛り、白ヒゲのオジサンの前に置く。
全体が黄金に輝き、緑と赤色の具が宝石を散りばめた様に美しかった。
さあ、味わうが良い。本物のチャーハンとやらを。
『本当に美味しいのかよ』と、白ヒゲのオジサンは半信半疑で見ている。
チャーハンをスプーンですくい、ゆっくりと口へ運ぶ。
その瞬間、彼の目が大きく開き動きが止まった。
スプーンが指の間を滑り、テーブルの上に落ちた。
「な、なんと。こんなチャーハンは初めてだ。
これが本当のチャーハンなのか!?
立体的な肉の味の中に、爽やかな風味が広がるぞ!」
僕は、腕組みをして頷きながら聞いていた。
(うん、うん、そうだろう。立体的な風味の中に、爽やかな…。爽やか? 知らんぞ、そんな風味!)
僕もスプーンでチャーハンを食べてみた。確かに爽やかさが出ている。
これは旨い! あれか、宿屋の店主が渡してくれた調味料の風味か!
その後二人は、残りのチャーハンを奪い合うように、残らず食べた。
しまったな。他の人の分まで食べ尽くしてしまったぞ。
翌朝、ベッドの上ではお腹を押さえて苦しんでいる僕と、白ヒゲのオジサンがいた。
「ソーセージの中まで火が通っていなかったのかな。」
あまりの痛さに二人とも死にそうになっていた。
死闘、究極の料理対決は両者ダウンで幕が下り終焉となった。




