第35話 平和なダンジョン
マジソンとの冒険者パーティ「のんびり倶楽部」は初のダンジョン攻略中である。
目的はダンジョン内にある『秘宝の間』にある宝物。
その途中、巧妙な罠や恐ろしいモンスターの襲来などを乗り越えて進まなければならない。
歩くこと20分。
「マジソン君、暇だね」
「暇ですね」
「僕達のすぐ前を先行している冒険者パーティがすべての罠の解除、モンスターの退治をしているから、やる事ないね」
「家の近所を散歩するよりも、ここの方が安全ですよ」
「そうだよね、街の治安が悪い路地ではカツアゲされるからね」
僕達が進んでいる通路には、解除された罠や倒されたモンスターの死骸が残っているだけだ。
「折角だからリサさんが作ってくれたお昼のお弁当食べない? マジソンの分もあるよ」
「えっ、僕の分まで! ありがたく、いただきます!」
二人はその場にしゃがみ込み、お弁当を食べることにした。
僕は、リサが作ってくれたお弁当箱を開けた。
お米の上には挽肉でハートマークが描かれている。
それを見て僕のテンションは爆上がり!
マジソンも僕の弁当箱を覗き込んできた。
「これ『ハート』じゃないですか! リサさんは翔馬さんの事をやはり!」
「いやいや、そんな事ないよ。そりゃ同じ村から来ているし、僕にはいつも微笑むし!」
僕は鼻の下を伸ばしながら、照れていた。
「さあ、マジソン君も遠慮なく食べて! リサさんの手作り弁当だから!」
「では、遠慮なくいただきます!」
マジソンも弁当の蓋を開けた。
「あっ、僕もハートだ!」
今の僕の気持ちはね、そうだね。
マジソン君ごと、このダンジョン吹っ飛ばしてもいいかなと本気で考えてしまった。
そんな気分爆下げの僕の気持ちも知らず、彼は嬉しそうに話しかけてきた。
「翔馬さん、リサさんって可愛らしいところあるじゃないですか!」
「そうだね」
「なら、いただきます!」
マジソンが一口食べた。スプーンの動きが一瞬止まり、眉を少しひそめた。
「マジソン、お弁当美味しい?」
直ぐに答えは出ないようだ。
「は、はい。美味しいです…。」
本当は苦いんだろう。
それもそのはず。僕がね、今苦くなる魔法を君のお弁当にだけかけたんだよ。
何でそんな事したのか?
そりゃ、単なる嫌がらせだよ!
僕だけ美味しいお弁当を食べ、休憩を終えると先に進むことにした。
と言っても、今まで通り安全な通路が続くだけなんだけどね。
「本当に、何もないね」
「ダンジョンでお宝を本気で取りに行くなら、出来るだけ他の冒険者よりも先行しなければいけないね」
今回のダンジョンで唯一、得ることが出来た経験である。
さらに数時間が過ぎると、先行していた三人の冒険者に追いついた。
彼らが僕達に気づくと声をかけてきた。
「初めまして! 私たちは『静粛な夜空』というパーティをしている冒険者です」
僕達も挨拶をした。初対面だからこそ礼儀正しくしないと。
「こちらこそ、初めまして。僕達は『のんびり倶楽部』というパーティです」
パーティ名を聞いた三人は視線を僕達から外し「フッ」と一瞬笑っていた。
僕は見逃さなかった。名前を付けるセンスが無い事は認めるが、やっぱりダサ過ぎたか。
「と、とても素晴らしいパーティ名ですね」
無理に褒めてくれた。
お世辞とはわかっているが、褒めてくれている。きっと彼らはまともな冒険者たちなのだろう。
そう思い、横にいるマジソンを見ると、目を輝かして喜んでいた。
「やっぱり良い名前ですよね!」
マジソンやめろ!
ほら、彼ら反応に困っているじゃないか!
てか、お前このパーティ名気に入っていたのか!?
そういえば、山賊のアジトを殲滅して冒険者ギルドで噂になった時も、お前は嬉しそうに喜んでいたよな。そう思うと恥ずかしくて冒険者ギルド行けなくなったかもしれん…。
そんな事より、このダンジョンでの情報を彼らから聞かなければ。
「このダンジョンいかがですか? 僕達は直ぐ後にいたので、何もなく来れたのですが」
彼らのリーダらしい冒険者が答えてくれた。
「そうなんですね。私たち初心者パーティなので詳しくは分かりませんが、簡単な罠と弱いモンスターがいただけですよ」
「このダンジョンは初心者用らしいので『宝物の間』までは簡単にたどり着けそうですね」
「はい、私達も同じ考えです。でも油断しないよう気を付けないとですね」
「ところで、もう今日はここで一泊しますが、みなさんはどうなされますか?」
「私たちも一泊しましょう。出来るだけ人数が多い方が、もしもの為には良いですから」
さすが、まともな冒険者だ。
基本通りに危機管理に則した行動をしている。
僕達は、夕食の準備をはじめる。
薪に火をつけ鍋で具材をゆでる。
マジソンも別の鍋で何かを調理しているようだ。
料理が完成した。彼らのグループはカボチャ鍋だ。この街では一般的で人気のあるメニュー。
僕達も分けてもらい食べてみる。
「これは美味しい。カボチャの甘みとトロリとした汁。これは何だろう?きのこだ!」
スプーンの動きが止まらない。素材そのものを持つ味を上手く融合した料理だ。
ダンジョンの中でこれほどの料理が食べられるのは、うらやましい。
食事は人生の中でも基本。きっと彼らはいい冒険者のパーティになれるんだろうな。
マジソンも調理していた料理が完成したらしく、彼らに振舞っていた。
「この、串焼きポテトバター美味しいですよ。皆さんもどうぞ!」
僕は、転生前の日本でよく食べていた名物料理を、この世界でも味わえるなんて思ってもみなかった。
「このジャガイモにバターと塩加減がたまらなく美味しいんだよな」
本当ならば、塩でなく醤油があれば最高だけど、流石にそれは求め過ぎかな。
夢中に食べていたが、彼らの反応は薄かった。
「あれっ?このポテト食べないのですか?」
「あっ、はい。折角勧めて頂いたのですが。
ジャガイモ料理はあまり口にすることが無く、食べ慣れていないので…。
本当に申し訳ございません。」
「大丈夫ですよ。ダンジョン探索中に、普段と違うものを食べるのは危機管理的にもあまり良くないからですね。気になされずに」
食べ慣れていない料理には手を付けない世界なんだな。
転生前では地方に出張に行く度にその土地の名産を食していたが。
食事の時間も終え、就寝する事にした。
薪の光と影がダンジョン内の壁を揺らし照らしている。
パチパチと火が燃える音だけが優しく響いている。
みんなで枕を並べて睡眠するのって思えば転生前、高校の修学旅行以来かもしれない。
何か少し楽しくなってきた。
静かに横になっているが全員まだ眠りについていない。
そして僕がその静粛を破り、口を開いた。
「ねぇ、恋バナしない?」




