第32話 伯爵の悩み
僕達4人は、応接室でこの街における深刻な話になってしまっている。
たしかこの屋敷に来た理由はマーガレット令嬢へ薬を届けるだけのはずだったが。
マルデリア伯爵はため息をつく。
「最近、食料品の値上がりで庶民の生活が苦しくなってきている」
「値上がり? 不作という話は聞いていないけど」
僕はギルドで耳にした情報を思い出しても、やはり作物の不作なんて聞いていない。
「不作でなく、必要量の商品が街に出まわっていないのだ」
「物流に問題があるのですか?」
伯爵は苦い表情をした。
「実は、とある人物により故意的に商品が止められているらしい」
僕とリサは驚いて顔を見合わせた。
「何故そんなことを? 一体誰が?」
この街を食糧不足にする理由が分からない。
敵がこの街を兵糧攻めにでもしているのだろうか?
伯爵の言葉が止まった。何か思いあたる節があるのだろう。
「確証はないけれど、今この街に視察で訪れている侯爵様が関係している気がする。
ほら一度、勇者殿もお会いになられたと思う」
勇者は思い出した。村の広場で出会ったあのオッサン。
「確かに。あの人ならば、やりそうだな。でも、何の為にそんな事を?」
伯爵は腕を組み考え始めた。
「それが良くわからない。ただ、しばらくあの方の側にいて気が付いたのだけど、いかに領民の財産を自分のものにするかばかり考えている。そんな感じのお方だ」
その侯爵の行動には不満を抱いてしまった。
実際、リサも不服そうな表情をして訴えた。
「どんなに平民が努力しても、その成果を奪い取る何て酷すぎます」
「リサさん、私も同じ気持ちですよ」
マーガレットもリサの意見に賛同した。
「だけど待ってくれ。これは単なる推測だから侯爵が犯人という事でない」
「お父様、大丈夫です。私たちにお任せください。悪い奴なんて、こちらの勇者様が!」
「だ・か・ら、待て! お前が先走りして余計な事をして、領地没収されたらどうするんだ!」
「あら、私に侯爵殿を始末しろと言っておられるかと勘違いしましたわ」
僕は、親子漫才を聞きながら思っていた。
あのオッサン侯爵ならば痛い目合わせても良いかな。手を貸すぜ!
なんせ嫌な奴で僕は嫌いだからね。
でも、それをするとリサがとても嫌がるから、しないけどね。
親子喧嘩も静まり、伯爵が改めて僕達に話をした。
「とにかく、この街で原因不明の物資不足が発生している。
誰が何の目的で。今後その事に気を付けて情報を集めてもらいたい」
僕はふと思いついてしまった。
「この街で食糧不足が酷くなり領民の生活が苦しくなったとしよう。
領民がその状況を侯爵に訴えたら、この街を治めている伯爵には統治能力がないと判断して解任、全接収する。
それが侯爵の目的だとしたら?」
そこにいる全員が驚き顔を見合わせた。
伯爵はその考えに納得し頷いた。
「その可能性が強いな。となると今後私に対する何らかの罠や妨害活動があるかもしれない。
その策に嵌らない様に気を付けるとしよう」
この街で起き始めている出来事が大問題にならなければいいのだけどな。
その為に早めに今回の件を収束させなければいけない。
僕とリサは伯爵のお屋敷を後にすることにした。
マーガレットって本当にリサの事好きなんだな。門のところまでお見送りをしてくれている。
新しい親友とお話が出来て笑顔になっているリサに僕は話しかけた。
「リサさん、仲のいいお友達が出来て良かったですね」
「はい、年齢が近いお友達が欲しかったのです。最初はご令嬢だという事で少し怖かったのですが、マーガレットさんはとてもいい方で良かったです」
リサはエジマーズフォレトの小さな村の中だけで育った田舎娘。
マーガレットは貴族の世界で育った令嬢。
生れや育ちは正反対だけども、互いの存在がこれまでにない新鮮で刺激的に感じていたのだろう。それに加えて二人とも素直な性格だからこそ、身分を超えた親友になれたのかもしれない。
「ところで、勇者様は新しいパーティの方とはお友達になれましたか?」
「駄目だね。あいつとは親友にはなれないな。だって性格が全然違い過ぎる」
リサは微笑みながら返した。
「そうですか? 同じ性格に見えますよ」
驚いた表情でリサを見る。
「どこがですか!」
リサは上を見て、少し考えながら言った。
「適当なところですかね?」
僕は反論しようとしたが、反論するだけの 『材料が不足』 していた。




