第31話 貴族としての責任
僕は山賊のアジトから解放した少女と再会した。
牢獄に閉じ込められていた人は全員村人だと思っていたが、まさか郡領主貴族の令嬢もその中にいたとは思いもよらなかった。
「改めまして、私を助けてくださってありがとうございます。郡領主マルデリア伯爵の娘、マーガレットでございます」
牢獄で見た少女とは思えない程、全身からは貴賓のある優雅さを感じさせている。
「僕も、こちらのご令嬢だとは思っておりませんでした」
「わたくしも勇者様に再開できるとは思っておりませんでした。それがリサさんのお知り合いだなんて!」
「リサさんとご令嬢は仲良さそうに見えましたが」
「牢獄で痛めた肩や足の炎症を治す為、リサさんの薬を使わせてもらってますの」
リサも嬉しそうに話に入ってきた。
「そう、お薬を届けたら私と同じ年齢の女の子だから、いつの間にか意気投合してしまって!」
僕は二人の笑顔を見て、あの時の行動は間違いでなかったと改めて感じ始めていた。
彼女達の会話の盛り上がりを側で見守っていたが、令嬢は思い出した様に僕に話しかけた。
「わたくし、牢獄での勇者様の振る舞い、とても感銘を受けました」
僕は照れくさそうに頭を掻いた。同時に額からは冷や汗が垂れてきた。
「そんな振る舞いありましたっけ?」
僕の山賊のアジトでの振舞は、お世辞にもよろしくは無かったと思う。
欲に負けて山賊に捕まりそうになるし、山賊の宝を拝借してしまうし。
彼女はどの部分を見ていたのだろうか?
「牢獄を蹴り上げて『何度も言わせるな!』と、山賊相手にあの堂々とした振る舞い。わたくしは忘れることが出来ません!」
令嬢の話を聞いて胸をなでおろした。
(良かった! 盗賊以上に宝物の欲に囚われていた姿、見られてなかったんだ!)
令嬢は話を続けた。
「宝物部屋では台の上の小さな金塊だけを握り、あとの宝には一切見向きもされませんでした」
(やっぱり見られていた…。)
「宝物に手を付けられなかったのは、お考えがあるのですよね!」
正義のヒーローを見る様に目を輝かすのは止めて!
しかもリサさんも目や輝かして見ている!
実は、箱が沢山ありすぎて、中身を確認していくのが面倒になったなんて、とても言えない!
「宝物に関しましては思うところがありまして」
(てか、無いよ~そんな思い! なんなら全部貰いたいぐらいだ!)
「あの宝物を、市民や農民の為に利用できないかと」
はい、出ました!
僕の必殺技の一つ、転生前のブラック企業での技で『適当な事言ってその場を乗り切る作戦』。
ここで本当の事を言ったら二人の思いを裏切ってしまう。
ところが、思いとは違い令嬢は僕に頭を下げた。
「申し訳ございません。わたくし、とても不甲斐無く感じてます。
勇者様がしようとしている事は、本来、私ども貴族がやるべきなのです」
令嬢が悲しそうに謝った時、部屋の扉が開き郡領主のマルデリア伯爵が現れた。
そして娘の側に近寄り伯爵も僕に頭を下げた。
「勇者殿、大変申し訳ない。娘を救ってくれたうえに、領民の事まで気にかけてくれているなんて。この郡領主、本来の責任を果たす為、心を改めて領民の為に働くことを勇者殿に誓わせてもらう」
親子揃って心を入れ替え、頭を下げてきた。
その姿を見た使用人たちも続々部屋に入り、皆僕に頭を下げ始めている。
これは、まずい。
更に話が大きくなったぞ。どうにかしなければ。
「困ったことがあれば、この勇者に申してください。微力ながら力をお貸ししましょう!」
この部屋にいるすべての人々が笑顔になり、顔を見合わせて喜んでいる。
よし!いい雰囲気になったぞ。とりあえず乗り切ったか?
あとは、適当に返事していけば。
――― だが、勇者は知らなかった。この『適当』が後ほど大変な事にってしまう事を ―――
「勇者殿、この街の治安を良くしたいのでご助力を!」
「うん、いいね!」
「領民が通える街の学問所を作りたいです」
「うん、それもいいね!」
「夜この街は暗いから、明かりの設置もしたいですね」
「うん、大切だね」
「作物を効率的に栽培できる技術的な知見もほしいです」
「これからは必要だね」
「娘のマーガレットを勇者様とご婚約を」
「うんそうだね、それもいいね」
「ん??」
今、違和感が僕を包んだ。
リサに目をやると驚いて目を丸くしている。
一方、令嬢の様子を見ると…。なんか満面の笑顔でうっとりと僕を見つめている!
リサが僕に興奮した様子で尋ねてきた。
「勇者様、ご婚約ですよね!」
「いや、違う!話の流れで返事したけど、そんなつもりはない!」
令嬢の表情が一気に沈み込んだ。
うつむいた悲しげな瞳からは大きな涙がこぼれていた。
伯爵は、令嬢を慰めるように娘の肩をさすっている。
まてまて、俺はどうすればいいの?
今さっき知り合った少女と婚約なんて出来ないよ。
親が勧めたとは言え、彼女にして見れば人生を左右する繊細な問題だ。
今までの言動から推測するに、令嬢は僕の事を相当慕ってくれている。
だけど、彼女には申し訳ない。
婚約を受けることは出来ない。
自分の軽はずみな返事で泣かせてしまった。
僕の心には罪悪感が広がっていた。
頭を下げ、最大限の誠意を現わして、はっきりと断った。
「申し訳ない、軽はずみな返事をしてしまい。そんなつもりでは…、」
と目をあげると、親子そろって不思議そうな表情で僕を見ていた。
「あれ?」
「勇者殿、話の途中すまない、娘の炎症、この様に急に激しい痛みが現れるんだ。」
「はぁ」
「だから、こうやって塗り薬を肩のかぶれている所に塗ってあげると痛みが和らぐんだよ!」
「薬塗っていたのね…。」
「いやぁー、リサ殿が調合した薬の性能は素晴らしい!娘の痛みも治まったようだ!」
令嬢も笑顔で僕を見ていた。
伯爵は思い出したように僕に尋ねた。
「で、勇者殿、話の続きは?」
「いきなり婚約の話をだされて、申し訳ないですが、お断りをと…。」
伯爵は笑顔を見せながら僕に話した。
「婚約? あれね。この貴族社会では、挨拶する様に娘の婚約を勧めるのが普通なんだ。いつかいい人と巡り合えるだろう!」
令嬢も笑顔で答えた。
「これで、23連続お断りされました!」
貴族世界で上手く立ち回る為には婚姻も一つの武器なのだろう。
この世界での貴族のルールはよくわからん。
娘の婚約をあいさつ代わり勧めてくるんだね。
僕は思った。
僕が先程まで持っていた罪悪感とは何ぞや?
あぁ、そうか分かったぞ。
その罪悪感が怒りに変わると体の中から熱い炎と変わる為の燃料だ。
とりあえず、この街のどこからでも見えるこの屋敷を燃やして街を照らせば、夜間の暗闇対策は完了するな。




