第30話 少女との再会
山賊討伐から3日、僕はリサと一緒に出掛ける事となった。
「勇者様、私の用事に付いて来てもらって、ありがとうございます」
僕は久しぶりにリサと二人だけなので、にやけた表情にも見える笑顔で一緒に歩いていた。
「気にしないでください。二人だけでお出かけするのは久しぶりですね」
「はい、この街に来てからはお互い忙しかったですから。
一緒に行動する事なんて、ほとんどなかったですよね」
僕は冒険者ギルドで依頼を受け、リサは医薬局製造所で薬の仕事をそれぞれ行っていた。
リサは鞄の中から薬袋を取り出し、僕へ見せてくれた。
「この新作の塗り薬は『皮膚のかぶれ』を抑える効能があります。その原料はなんと私たちの村、エジマーズフォレトで採取された薬草なんです」
「すごい! 村で薬を作成するリサさんの計画、順調に進んでいますね」
嬉しそうな微笑みで応える。
「はい、村で採取された薬草を使った薬の製品化に成功です。しかも私たちの村で採れた薬草は品質が良い為、薬としての効果も非常に高く、すでに貴族を中心として注文が入っています」
「早く製造を村に移したいですね」
「そうなれば、村が発展する第一歩となります」
リサは期待に胸を弾ませながら前を見つめて歩いていた。
そして二人は、大きな門の前までやってきた。
「ここは、薬草の研究・栽培をしている『王立薬草園』です。さっきの薬で使用している薬草の分析を依頼していました。その結果を受け取りに行きます。勇者様も一緒に入りましょう」
大きな門をくぐると、広い敷地に区切られた畑を目にした。
ここでは薬草を大量に生産する畑というより、研究用に色んな種類の薬草を栽培の試験をしているようだ。
畑を見て僕は違和感を持った。空間が全体的に湿っており生臭い土の匂いも漂う。
しかも畑全体に不健康そうな赤黒い色の苔が繁殖している。
「僕達の村で見た麦畑や他の村の畑とは雰囲気が違いますね」
「ここでは試験的な栽培をしているので。畑の横を見てください」
リサは畑の横にある小さい壺を指差した。
「あの壺は何ですか?」
「あれは、自然界に存在する魔力を集める魔道具です。魔力が集まると畑一面に赤黒い苔が広がりその苔を通じて植物の栽培を促進しているのです」
僕はリサの話を聞いて非常に感銘を受けた。
魔法は戦場において『破壊』の為に使用される。
だけど、この平和な場所においては違う。人々の生活を豊かにし、文化を発展させる『創造』の為に活用されている。
この時代に住む人々の魔法に対する価値を改めて知らされた。
僕はその魔道具に興味を持ち近づいて色々と見ていた。
その間にリサは野草園での用事を済ませて僕に近づいてきた。
「勇者様、心残りでしょうけど次の場所へ行きますよ」
「次?」
「はい、この塗り薬を使用されている患者さんの所です!」
この小さい薬を直接わざわざ患者に届けるという事は…。
「想像通りのこの街を治めている郡領主様のお館です」
「やっぱり…。」
僕は露骨に嫌な顔をした。
僕は少し気が滅入る。転生前からどうも「偉い人」というのは好きになれない。
正確には恐怖のイメージしかない。
ブラック企業で嫌という程思い知らされたからである。
郡領主様の館の門まで来た。
門が開き中へ入る。
片田舎の街とは言え、地方貴族の館だ。門から玄関まで一面、手入れされている花壇が優雅に広がっている。
花壇は、まるで絵の具をまき散らした様に多彩な花が咲き、息を呑むような美しさが広がっている。そしてその花の周りを飛び回る鮮やかな蝶々。
こんなメルヘンな世界に遭遇したら、きっと目を輝かして笑顔を振りまくのだろう。
実際、横で歩いているリサがその状態だ。
「勇者様、お花畑綺麗です! あの鮮やかな蝶々、ひらめく姿が優雅ですね!」
(リサさん、可愛い! やっぱり女の子だな!)
素敵な庭を見ているリサの素敵な笑顔を眺めながら、玄関へと近づくと一人の少女が玄関で立っていた。リサが少女に気づくと駆け寄りお互い手を合わせて喜びを見せていた。
「リサさん、お待ちしてました! 今日来られるのを楽しみにしていたんです!」
「今日も来れました、マーガレットさん。私も会えてうれしいです!」
彼女は郡領主の娘だろうか。
それにしても二人とも仲が良いな。この様子から見ると二人はきっと身分を超えた親友なんだろう。年も近いし気が合うのだろう。
「マーガレットさん、今日は勇者様…、違いますね「翔馬」さんと一緒にお伺いしました」
リサの手前、失礼の無いように挨拶をした。
「初めまして、翔馬です。職業は「伝説の勇者」です」
彼女はクスッと笑った。
「こちらこそ、初めまして。私はこのマーズフォレト郡領主、マルデリア伯爵の娘、マーガレットです。よろし…」
彼女が自己紹介をしている途中で言葉が止まった。
僕を見つめる目は丸くなり、非常に驚いている。
その目は徐々に震え始め、涙が溢れ出てきた。
そして、震える唇から静かに言葉を発した。
「あ、あの時は私を助けていただき、ありがとうございました」
「えっ!」
今度は僕の目が丸くなる。
僕が助けた覚えなどな…あった。あの山賊に囚われていた少女だ。
「こちらの郡領主様のご令嬢でしたか」
「はい。」
この状況を見ていたリサは目を丸くして驚いていた。
「何事!」




