第29話 囚われの人々
山賊のアジトでは多くの者が慌ただしく動き回っていた。
財宝の在庫管理や設備修繕、情報集約する者もいた。
そして勇者の側にてお世話をする者もいる。
「翔馬さん、山賊たちは本当に真面目に働いてますね」
「だろう、彼らだって真面目に仕事するんだから」
「で、横にいる山賊は誰ですか?」
僕の横で、はちみつ酒のボトルを持って立っている。
「なんか、お世話係だって。別に要らないって言ったけど無理矢理ここにいる」
「知らない人が見たら翔馬さん山賊の頭ですね。近くに兵団がいたら討伐されますよ」
「それ、怖い。冗談でもそんな事言わないで!」
マジソンはニヤケ顔で僕をからかってきた。
「それにしてもあの魔法凄いですね。天下取れるんじゃないですか?」
「天下なんて興味がない。天下取ったらその後が大変だよ。のんびり暮らすのが一番さ」
マジソンは翔馬の無欲さに安心したと同時に、その力を活かさない事に勿体なく思っていた。
僕は近くで全体を指揮している頭領の側に近寄り声をかけた。
「お疲れ! どうやってる?」
恐ろしい顔で指揮をしていたのが一転、優しそうな笑顔へと変わった。
「へぃ、順調でございます。何かございましたらご遠慮なくお申し付けください」
僕は遠慮なくリクエストした。
「さっき誰か葡萄食べてたでしょう。僕も食べたいんだけど」
頭領はすぐさま部下に指示を出した。
「おい、急いで葡萄を持ってこい。あとお飲み物もお渡ししろよ」
「へい」
部下の行動も素早い。指示を受けてからすぐさま行動に移している。
こう見ると山賊の組織も統制が取れているんだな。
マジソンも喉が渇いたのか、頭領にリクエストした。
「おい、僕も喉が渇いたから、冷たい飲み物を用意してくれ」
それを聞いた頭領は鬼の形相でマジソンを睨みつけた。
「おい、こら! 誰に物言ってるんだ! ぶっ潰すぞ!」
マジソンが涙目になって怯えている。
僕は頭領をなだめた。
「はいはい、怖い事しないよ。ちゃんと彼にも飲み物持ってきてね」
頭領はすぐに満面の笑顔にもどった。
「へい、お任せくださいませ!」
怯えているマジソンの肩を叩きながら慰めた。
「あの魔法は僕に対して歯向かわないだけで、他の人に対しては普通の山賊だよ」
「早くいってくださいよ。腰が抜けました。という事は翔馬さんの側から離れない方が良いですよね」
「うん、そうだね。一人でトイレに行ったら帰ってこれなくなるかもね」
「なにそれ、怖い!」
一通り、マジソンをいじった後、思い出したように頭領に尋ねた。
「折角だから、少しお宝を持って帰っていい?」
「へい、ここの宝は全て兄貴の物ですから!ご自由にどうぞ」
「やったね!マジソン行こう!」
僕はお宝部屋に向かって走り出した。
「待ってくださいよー!」
周りの山賊からの鬼のように睨みつけてくる視線を感じながら、マジソンは僕の後を追いかけてきた。
お宝部屋に入ると、凄い量の箱が並んでいた。
すべての中身を調べるのが面倒になり、近くの台にある小さい金塊だけを手にした。
戻ろうとした時、奥に別の扉がある事に気づく。
「マジソン、あの扉の奥なんだと思う? きっと一番重要なお宝があると僕は思うね」
扉に近づき開けると、中は牢獄となっていた。
中に入ると山賊に囚われていた人々が、恐怖の視線で僕達を見つめ、怯えていた。
怪我をした男性や老人、女性や子供。無差別に誘拐している。
「これは、ひどい」
怒りで口元が震えながら、つぶやいた。
そして大声で叫んだ。
「おい! 頭領!」
直ぐに目の前に頭領が走ってきた。
「お呼びでしょうか?」
「この牢獄にいる人達はなんだ!」
「襲った村の住人でございます」
「この後どうするつもりだ」
「はい、奴隷商人へ引き渡す予定です」
『ガシャン!』
僕は怒りのあまり牢獄の格子を蹴り飛ばした。
その音に囚われていた人々が悲鳴を上げ怯えた。
「直ぐに開放しろ」
「でも、それではお金に…」
そう言いかけた時、僕は睨みつけた。
「何度も言わせるな」
頭領の目には、恐怖で支配された闇のオーラが僕から放たれているように見えたのだろう。そして一瞬で理解した。この方を絶対に裏切ってはいけない。もし仲間や家族に命の危機が訪れたとしても裏切る事は許されない。この世の摂理の様なものだろう。
「直ぐに、解放します」
牢獄の鍵が開けられ、囚われていた村人たちは牢獄から恐る恐る出てきた。
「助けてくれてありがとう」
そうお礼を言いながら一人、また一人と元の村へと戻って行った。
そして最後に16歳前後の少女が監獄から出てきて勇者に涙ながらお礼をした。
「ありがとうございます。このご恩は忘れません」
僕は少女に笑顔を向けて手を振り、外へと送り出した。
僕達も山賊のアジトを後にすることにした。今日は疲れたから街へ戻る事にする。
途中の街道で何とも言えない気持ちに襲われて、アジトから持ち出した金塊を眺めながら歩いていた。
「マジソン、今回は村人たち助かったけど、助けられなかった人もいたよね」
「確かにそうですね。ただ一つ言えることは、今後あの山賊たちは同じような蛮行をしないという事だけです」
「そうか。そうだといいね。この金塊はその対価としてもらっても文句言われないよね」
「大丈夫ですよ。換金したら山分けしましょう」
「やだ」




