第25話 冒険者パーティを組んでみました
もう昼前だろうか。
僕は新しく本拠地となった宿屋のベッドの上で、寝転びながら本を読んでいた。
リサが笑顔で僕に近づく。
「勇者様、今日は何をされるのですか?」
「うーん。特に予定ないかな」
「ほら、冒険者ギルドに行って『ギルドスタンプ』や毎日の手当てを貰いに行かなくてもいいのですか?」
「そうだね、大金があるから別に行かなくても良いかな?」
リサは困った顔をした。
新しい宿屋に来て3日目。勇者は毎日このような状態なのだ。
大金を手にしてからは冒険者ギルドにも通わず、だらだらと過ごしている。
(本当に、大金は人を狂わせてしまうのだ。)
そうリサは思い始めていた。
「私、勇者様が活躍されるお話を聞きたいです」
ベッドで寝ていた僕は、その言葉に反応し飛び起き、ベッドの淵に座りなおした。
そして、リサの顔を見て冒険の話を始めた。
「その…、えっとね。僕の冒険はね…。」
――― 何もない! ―――
引き籠り生活をしていたら、そりゃ冒険譚などないだろう。
だが、このままの生活も悪くないと思っている。
だけどリサの表情を見ると、そう言えなくなってしまった。
「最近何もしてないので、お話しする事が無いです。だから冒険者ギルドで色んな依頼を受けます。その時の活躍をお話しますので、しばらく待ってくれますか?」
リサは笑顔で応えた。
「はい! 待ちます。私冒険のお話を聞くのとても好きなんですよ!」
(本当はあまり興味がないですけど…。)
僕は、ベッドから立ち上がり、身支度をして冒険者ギルドへ向かった。
勇者が去って静かになった部屋の中でリサはため息をつく。
「本当に勇者様は何にも興味を持たれないのですね。私がしっかりと導かなければ!」
リサの目には固い決意の光が輝いていた。
久しぶりに冒険者ギルドへ来た僕は、黒縁メガネ君を見つけ近寄った。
「ひさしぶり!元気してた?」
「翔馬さんじゃないですか。最近来ないから心配してましたよ。そう言えば紹介した宿屋いかがですか?」
「良い宿を紹介してくれてありがとう。僕の仲間も満足して喜んでいたよ。
宿屋主人も親切でいい人だし。」
黒縁メガネ君は笑顔で頷いていた。
「今日の、スタンプ押しておきますね。あと本日の手当です」
先日の思いも寄らない依頼達成の大量スタンプ確保の影響で、若干だが手当金額が増えていた。もっと沢山スタンプを貯めれば手当金額も増えるはずだ。
これからは地道にお金を増やすことも悪くないのかも。
同時に、ブラック企業での営業成績による歩合制ボーナスを思い出してしまった。
(ブラック企業だけの話かと思っていたけど、この世界での報酬制度もあまり変わらないんだな)
「僕ね、ダンジョンに挑戦しようかと思っているんだ。」
「ダンジョンですか、いいですね。Gランクの冒険者が受けられるダンジョンは…今はないですね。」
忘れていた。僕は伝説の勇者であるけど、冒険者ランクは最低の「Gランク」だという事を。
困った。これじゃ僕の冒険譚をリサに話すことが出来ないじゃないか!
黒縁メガネ君は奥の棚にあった1枚の書類を僕に見せた。
「このダンジョンの依頼なら、行けると思います。」
「本当ですか!その依頼を受けたいです」
「ただ、Gランク冒険者単独では駄目なので、Dランクの冒険者とパーティを結成したら依頼は可能です」
その方法なら可能なのか。
でも、一緒にパーティを組めるような人とは見当たらない。
これは困ったぞ。
黒縁メガネ君はギルド内にいる一人の冒険者を指差した。
「あの魔導士、実は彼はDランクでパーティ仲間を探してます。彼とパーティを組まれたらいいですよ」
「ぜひ、お願いします」
声をかけられた魔導士はこちらに近づき、黒縁メガネ君から状況の説明を受けた。
魔導士の彼も喜んで話に乗ってくれた。
「始めまして、魔導士をしている『マジソン』です。よろしくお願いします」
「僕は、勇者の『翔馬』。田舎村から他の仲間と一緒にこの街で過ごしている。こちらこそよろしく」
マジソンは翔馬から『勇者』だと紹介され、驚いた顔を黒縁メガネ君に向けた。
「大丈夫ですよ。翔馬さんは、特殊なので他の冒険者と同じように接しられ大丈夫です」
おい、黒縁メガネ! その言い方だと僕に何か問題があるような言い方じゃないか!
文句を言いたいけど、ここで喧嘩したら今後『ギルドスタンプ』を押して貰えなくなってしまう。だからここは我慢で過ごすほかない。
僕は笑顔でマジソンに手を差し握手をした。
これで、正式にパーティ結成だ!
黒縁メガネ君は一枚の書類を手渡した。
「パーティ登録しますので、必要事項を記載して提出してください。」
書類に目を通したら「パーティ名」となる項目があった。
パーティ名を決めるのが一番大変なんだよな。センスを問われるし。
壁に掲示されている他のパーティ名を参考にすることにした。
なになに?
「赤の軍団」、「黒の軍団」、「緑の軍団」
これ適当すぎるな。多分一秒で名前決めている。他には?
「漆黒の剣術心眼」、「闇の手の稲妻軍」、「不死たる者の儚い夢」
これは、痛い。この世界でも中二病いるんだな。
マジソンと顔を見合わせる。
「翔馬さん。特にこだわりないので好きなの付けて良いですよ」
面倒事、こっちに振ってきやがった。
もういいや、好きに付けさせてもらうよ。
「わかった、俺がパーティ名決めるから、あとからの文句は無しね」
僕は書類にペンを走らせ、受付にいる黒縁メガネ君に渡した。
「書類提出しましたから、早速依頼行ってきます!」
「お気をつけて、初パーティ頑張ってくださいね!」
笑顔で手を振り、二人を見送った。
受け取った書類に目を移しパーティ名を見た。
「パーティ名: のんびり倶楽部 」




