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異世界転生チート勇者様、私に惚れているらしく、他の何にも興味がないらしい  作者: よつ丸トナカイ
【第1章】 勇者登場!

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第10話 勇者のやる気

 僕の心を優しく照らす、暖かい陽ざし。

 頬を撫でるように流れる、爽やかな風。

 遠くでは心地よく耳に届く、小鳥のさえずり。

 日本にいた時とは違い、この小さな田舎村では穏やかな時が流れている。


 この村に来て一週間、情景だけでなく住んでいる人々も素敵だ。

 転生後、初めて出会った「リサ」を始め、その両親、村人たち。

 みんな親切にしてくれる。

 笑顔で採れたての野菜や果物を分けてくれる。

 本当にいい村だ!



 …そう、村長を除いては。



 僕はただ、この村でゆったりとした日々を過ごしたいと心より願っているのだ。

 だが、残念な事に今の状況は真逆だ。



 村長の家に閉じ込められている。



 事の顛末を話そう。


 今朝の出来事だ。

 僕は目が覚めて身支度を済ませると、日課である朝の散歩に出かけた。

 すれ違う村人に笑顔であいさつしながら、時折雑談をした。


 村長の家まで来ると、村長が笑顔で手招きをしていた。

 招かれるまま家の中に入った瞬間、カチャ、と入口の扉の鍵が閉められた。


「えっ、何?」


 無表情になった村長は、鍬をもって近づいてきた。


 一体何が! 

 僕は殺されるのか?



 村長は冷たい視線で徐々に近づいてくる。

 手に持った鍬を振り上げ、僕に向かって振り下ろした!



 僕は体を縮めて目を閉じ、両手で頭を抱える。


 もう駄目だ!殺される!



 振り下ろされた鍬は僕の鼻先で止まった。

 無表情の村長の口が、静かに言葉を発した。

 その言葉に僕の心は凍り付く。


「勇者様、いいから働け」




 そう、この村に来て一週間。

 僕は村長に紹介してもらった小さな空き家に住んでいる。

 勇者様への食事は毎晩、村長の奥さんが運んできてくれる。

 これも、リサが全て村長に頭を下げてまでお願いしてくれた事だ。

 やはり、リサって素晴らしい人だ。



 その様な村長のご厚意に甘えながら日々を過ごしていた。


 そう、『何も』せずに。



 日本ではブラック企業で身も心も削りながら生きていたので、

 この村での生活は神様からの『ご褒美』かと思っていた。


 つい先程までは。


 ――― で、今に至ると。




「勇者様、毎日働きもせずブラブラ過ごすのは、いい加減にしてください。

 この村はそんなに裕福ではないのですから!」


(いやー、困ったな。本当に働きたくないんだ。

 他にやりたいこともないし…。)


 ふと、名案が浮かんだ。



「村長。私が外敵からこの村を全力で守りましょう!

 うーーん、そうですね、その対価として今まで通りあの家に住まわせてもらい、食事を用意してもらうだけでいいです。」


 勇者は営業スマイルで村長の耳元でささやいた。

「ここだけの話なんですけど、村の警護依頼って結構いいお値段するんですよ!

 でもね、村長と僕の中じゃないですか!

 だから 『と・く・べ・つ』に、毎日の食事、そして毎月20万マネーのお金だけでいいですよ!」


 20万マネーは日本円でも20万円。一人で生活するには十分な金額だ。

 こう見えても僕はブラック企業では、かなり良い営業成績を残してきた。

 相手に対して特別感を与えると効果がある!

 よし、これで決まりだな!



 村長は静かに答えた。


「この村はここ数十年、外敵に襲われたことはありません」



 僕は固まった。

 いくら、のんびりした村だとしても、そりゃないだろう。

 おい、盗賊! 少しは仕事しろ!



 他の手段が思いつかない。

 僕の目は輝きを失っていた。

 このような状況を表すピッタリな言葉を知っている。


『万策が尽きた』


 働かなければいけないという絶望に震えながら村長が持っている鍬に手を伸ばす。

 このまま鍬を手にしたら田舎村の農民として異世界での人生が終わる。

 だが、他に良い方法が思いつかない。




 鍬に手が届きそうになったその時、入口の扉を叩く音がした。


「勇者様がここにおられると聞いて!」


「リサさん!」

 勇者の目は輝きを取り戻し、絶望に震えていた僕の体からは力がみなぎるのを感じた。

 僕の天使リサさんが助けに来てくれたんだ!


 村長はドアを開けて招き入れた。



「勇者様、今から小麦畑を耕すのを手伝ってくれませんか!」



 僕は村長の鍬を手に取り、外に飛び出した。

 リサさんが困っているのは見過ごせない。僕が手伝って格好いい所見せないと!


「さぁ! リサさん、小麦畑の仕事をお手伝いしますよ!」



 そして、小麦畑へと走り出していった。



 リサは村長に微笑んだ。

「勇者様を働かせるには、このようにするのが一番ですよ!」



 村長は首を傾げた。

 一体わたしのやり方と、何が違うのだろうか?



 考え込んでいる村長をよそに、リサも小麦畑に向かった。


(どうやら、勇者様は私に惚れているらしい。しかも私以外には全興味を示さず、何もやりたがらない。だから私が正しい方向へ導かないといけないわ。それが人々の為になるなら!)



 愛する人の為に笑顔で走る男。

 何が違うのか熟考する男。

 そして、世の中のためにと策略を張り巡らす女。

 リサは勇者と出会った頃から、どうもこの勇者やる気が無いのではと思っていた。

 実は村長も巻き込み、勇者のやる気を引き出すための策を密かに準備していたのだ。

 その結果、この策略の歯車が綺麗に噛み合い、勇者のやる気を引き出すことに成功した。



 リサは後に人々から『天下の名軍師』と呼ばれることを、この時まだ誰も知らなかった。

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