#5 また明日の約束
痛い視線を潜り抜けて僕はようやく迷子センターまで着いていた。
「やっと来た。遅いよーまったくどれだけ待たせるの!」
少し機嫌悪そうに近づいてきた。
その手には某チェーン店のコーヒーを持っていた。
コイツある程度自由に散策した後に僕を呼び出したな。
「いやいや、お手洗い中にどこかへ行ったのは君だろう…こっちも色々あって少し遅くなっただけだよ」
色々と言ってもなるべく人が少ない道を選んで遠回りして来ただけなんだけどね。
「ん?あー、そういえばそんな感じだったね〜。いやさー、たまたま可愛い服が置いてあってさ、それで色んなものを見て回ってたら悠君のこともすっかり忘れてて、気づいた時にはだいぶ遠くまで行ってどうせ今戻ってもいないだろうなぁと思ってここで呼び出したと言う訳さ!」
ここまで来ると呆れも通り越すのだな。彼女への怒りよりも疲れとここまで着いたという達成感で一杯になっていた。
「とりあえずもう行くぞ。あと迷子はお前であって僕ではないからな!」
「いやーちょっとこの歳で迷子になりました。とは言いづらくてねー。まぁでも会えたから結果的にはいいでしょう!」
再び怒りが込み上げようとしていたがどうにかして抑え込んだ。
大人の対応と言うものだ。
2人はショッピングにゲームセンターを満喫し日も暮れて帰宅をしていた。
「今日はまったく疲れてばっかりだったよ…」
「何でですか?私が一緒にいてあげたじゃないですか。」
「どちらかと言えばそれが原因のようなものだけどね…」
これ程までに彼女に振り回されるとは…
あの後もクレーンゲームであれも可愛いこれも可愛いと行ったり来たりしてまた見失いそうになったし、化粧品売り場ではどちらが良いかと聞かれたが正直違いが分からず返答に困ったしで散々だった。
「ただ今日は悠君に案内をしてもらえてよかったよ!」
それを言われてしまったら憎むに憎めないではないか。
しかし目的であったこの場所がどこなのか街にはどんな物があるのかは何となく分かった。
後は自分で細かいとこまで散策していけばもしかしたら自分自身の正体がわかるかもしれない。
願わくば記憶が戻ってくれれば幸いだ。
「ねぇ!」
「ん?」
急に話しかけられ、少し驚いたが平然を装い返事をした。
「本当に今日はありがとう!」
「いや別に良いよ。僕も暇だったし。と言うか今思ったんだけどこの辺りの情報とかってさスマホで検索すればいいと思うんだけど、どうして僕なんかに案内をさせたんだい?」
純粋に気になったことを聞いてみた。
正直謎だった。わざわざ初対面の僕に頼んだことが。
「いいじゃないですか〜。実際に足を運んでみないと分からないし、それにスマホは持ってないからさ。」
「その歳で一人暮らしなのに?」
「そうだね〜。まぁそういう家庭だと思ってよ。」
一人暮らしをさせるのにスマホを渡さないとはそんな家庭もあるものなんだな〜
そんな事を考え、その後もちょっとした世間話をしているうちにアパートへと着いた。
「今日は楽しかった〜、それではまた明日もよろしくね!」
「ん?明日?」
そう言い終わる前に彼女は部屋へと帰って行った。
いやまさか明日も今日みたいな事をするつもりしないよな…
「まさかそんなはずはないか!」
フラグだなと思いつつ僕は自身の部屋へ帰り、パソコンの前に立った。