#4 迷子じゃない!
痛い視線を感じる中食事が済んだ。
もう二度とこんな思いはしたくないな。
早く食べてここから去るために腰を上げると世奈が急に口を開けた。
「せっかくショッピングモールへ来たんだし、楽しんで行きませんか?」
「...」
そのとき悠は蛇に睨まれた蛙がごとく体が動かなくなった。
いやいや、この周りの視線の中で楽しめというのはかなり厳しい…
流石にキツい!世奈には悪いが断らせてもらおう。
そう思い世奈の顔を見る、しかし彼女の方を向くとその目は太陽のように輝いていた。直視できなかった。その時に気がついた。
どうやら僕は彼女の輝かしい目に弱いようだ。
「分かったよ…どうせだしどこか寄ってみるか……」
僕って死ぬ前もこんなに我が弱かったのか…?
僕は自分自身を情けなく思いつつも世奈の楽しそうな姿を見て少しだけ良かったと感じていた。
そこそこ大きなショッピングモールらしいな〜
もはや今の状況は一周回って心が落ち着いていた。
「まさか世奈さんをこんになも直ぐに見失ってしまうだなんて…」
確か僕がお手洗いへ行って、帰ってきた頃にはもうすでにいなかったな。
もちろん周りを見渡した。するとゲームセンターの方に世奈らしき人物の後ろ姿が見えたから追ってみたら人違いで…
「あのー…」
「はい?」
そこにいたのは世奈さんとは全く違う人だった。
「あ、いえ、すみません人違いでした。」
違ったなと思い去ろうとすると急に後ろから肩を叩かれた。
世奈さんかと思い振り返ると
「悪いけど兄ちゃんさぁ、その子うちの彼女なんだよね〜」
おおよそ関わってはいけない人に絡まれてしまった。
そして何やかんやあって今の状況である。
もう一度言うが人ってあんなことがあると一周回って平常心になるんだなぁ。
いや、心配ではあるんだけどね!
心配ではあるけどもそれよりも…
「周りの人に変なことだけは言わないでくれよ…」
彼女ならやりかねない。すみませ〜んと声をかけて僕が迷子になったんですけどとか言って回って色んな人にあらぬ誤解をさせてしまっている可能性がある。
別に僕は迷子というわけではないし周りの人にそんなベラベラと喋られては困る!
まぁ、想像の世奈の話であるだけでまだ出会ってから数時間だ。もしかしたらこういう時は意外と大人な立ち回りをするのかもしれない!!
『ピーンポーンパーンポーン』
考え込みながら歩いているとショッピングモール内に放送が流れた。
『モール内での迷子のご案内をします。黒いパーカー、黒のジーンズの永井悠さん17歳。お連れの方が探しております。
一階迷子センターまでお越しください。
繰り返します…』
「は?」
前言撤回。というか想像以上だった。まさかここまで行動力があるとは…いやよく考えたら初対面の僕に街の案内を頼んだ時点で彼女の行動力は何となく分かっていたはずだ。
「あ〜、ツラい」
特に周りの目がツラい。たびたび僕の方を振り返る人がいる。
というかなんで17歳の人間を子供と同じように呼ぶんだよ!
今アナウンスしたやつ絶対に始めたばかりかマニュアル人間だろ。
「もしかしてあの人かな?」
「なぁなぁ、さっきのアナウンスってアイツっぽくないか?」
そんな声が道中よく耳に入っていた。
『明日は夕方から雨が...』『今日の試合も見事でしたね。では明日の試合は...』
家電量販店まえのテレビから出ている言葉も悠を笑っているように聞こえた。
特に迷子センター付近は地獄だった。近づけば近づくほど〔あ〜、あいつなんだなぁ〕と言う目を向けられていた。
もう、帰りたいです。