#2 お隣さんは距離が近い
「ハイ!よろしくおねがいします、悠さん!」
内田世奈と名乗る女性がいきなり下の名前で呼んだことに少し驚きつつも冷静を装った。
「そういえば今年から高校一年生ということは今はまだ15歳で17歳の僕の年下ということだね。
目上の人にはちゃんと言葉に気を付けないと社会で生きていけないよ。」
「ま、まあそうですね。不服ですが私は悠さんより年下ですしね!」
なんで不服なんだよ。こっちは死んだと思ったら記憶のほとんどを無くして現在知らないお隣さんに話しかけられているというのに...
「あ、そういえば!」
そういうと手に提げていたいかにも和菓子が入っていそうな紙袋に手を入れゴソゴソと中身を取り出そうとしていた。
「はいどうぞこれ!佐賀錦です。地元のお菓子なんです!といってもこの福岡に住んでるの悠さんはもうすでに食べたことがあるかもしれませんがね」
そういうと彼女はあははと笑った。
「ありがとうございます。僕、これ食べことないんですよ。だから食べるのがとても楽しみです。」
今の現状の驚きや不安をすべて隠し全力で笑顔を作って彼女へ微笑んだ。
すると彼女のほうも顔がパッと明るくなった。
「それならよかったです!ていうか悠さんは17歳なんですよね!もしかして私の先輩だったりします?」
その言葉に少し詰まった。家の中には学生証のようなものや教材、制服等は見当たらなかったのだ。
「いや、僕は別の学校へ通っている。」
一瞬本当のことを話そうかと思ったが初対面の人間に簡単に教えるべきではないと思い噓をついた。
その後は小1時間ほど世間話をして悠も愛想笑いがつらくなってきた。
「ていうかすみません。急に押しかけて1時間もしゃべっちゃってw玄関前で鉢合わせたってことは悠さんお出かけするつもりだったんですよね...」
「あぁ、少し散歩にね。」
そういうと世奈は急に目を輝かせた
「そうなんですか!それじゃあ私も連れて行ってください!」
「ん?」
悠は言っている意味が分からなかった。マジで...
「いやー、実はここら辺の土地勘がなくてですね。出来れば散歩ついでに街についていろいろとおしえてほしいです!!」
「いやでも、僕は男だy」
そう言いかけたが彼女の眩しく純粋な瞳に負けて...
「それじゃあ準備があるので30分後にまたこの玄関前で会いましょう!!!」
「うん、わかった..........」
了承してしまった。彼もまた土地勘がないのにだ。
アホである
とまぁ、なんやかんや予想外な出来事に出くわし、悠は部屋へ戻った。
「はぁ、あの子おしゃべりなんだなぁ、ありゃ友達100人余裕で超えるな。
にしてもせっかく外の様子を確認しようとしたのに。」
とは言うものの収穫がゼロというわけではない。まずあの内田世奈という少女が言った『福岡』という言葉からこの場所が福岡のどこかということが確定した。
次に『第一弥生大学附属高校』だ。この場所に引っ越してきたということは近くにその学校があるということだ。
「ただ情報はこれだけか~」
思わず吐露してしまう。世間話のほとんどが彼女の地元の話で、まったくこのあたりの事を教えてくれなかったのだ。
「やっぱり外へ出ないとだめだよな...
とりあえず30分間待つか~」
そう言って椅子に座ると先ほどもらった佐賀錦が目に入った。
--10分後--
...気がつくと佐賀錦が半分なくなっていた。