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古都怪異帖(千年の時を超えて語り継がれる、京都の怪異譚集)  作者: カトラス


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20/67

『かぐわしき道(竹林の小径)』

 嵐山で撮影の仕事があった帰り道。

 午後五時をまわった頃、私はふと、誰もいない竹林の小径を歩いてみようと思い立った。


 あの道には、観光客のざわめきが似合う。

 でも今は静まり返って、風の音しか聞こえない。


……風の音、だよね?

 何かが、囁いてるような……?


「――ようこそ」


 え?


 振り向いても、誰もいない。

 背筋が冷たくなった。

 気のせいだ、と自分に言い聞かせて歩き続ける。


 でも、気づいた。

 道が、終わらない。


 何度も同じ竹が目に入る。

 曲がり角も、鳥居も、何もない。

 なのに、ずっと歩いているのに、同じ景色が続く。


 足元には、小さな花が咲いていた。

――竹林には、そんな花はなかったはずだ。


 ポツン、と立つ着物姿の女に気づいたのは、その数分後だった。


 白無垢のような格好。

 顔は見えない。

 髪が、まっすぐ、肩から垂れている。


 その女が、こちらを向いた。


「あなた、帰らなくていいの?」


 その声に、胸が詰まった。


「……帰ります。帰らせてください」


 女は静かに笑った。

 そして、こう言った。


「なら、振り返らないことね。

振り返ったら、ずっと、こっちにいなくちゃいけなくなる」


 私は走った。


 息が苦しい。

 目を閉じたら、足をとられて転びそうになる。

 でも、絶対に振り返らない。

 絶対に――


 だけど、聞こえた。


「……お願い。置いていかないで……」


 それは、私の声だった。


**


 気がついたら、観光客の喧騒が戻っていた。

 振り返ると、あの竹林の奥は、もうただの遊歩道だった。


 でも、私のスマホの中には、

 保存した覚えのない動画が残っていた。


 竹林の奥。

 私が、白無垢の女とすれ違う瞬間の映像。

 そして、カメラに向かって――私自身が、微笑んでいる。


 

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