新たな世界
その日、俺――カイトは、異世界へと召喚された。だが、そこは希望に満ちた場所ではなかった。俺を召喚したという神官たちは、集まった数百人の「召喚者」たちを次々と鑑定していく。
「ユウキ様! スキル【聖剣召喚】! これぞ勇者……!」
「アカリ様は【回復魔法・上級】! 女神の祝福です!」
周囲からは歓声が上がり、英雄視される者たちが次々と現れる。しかし、俺に与えられたスキルはただ一つ。
「カイト……スキル【状態異常付与】……だと?」
神官の表情が凍り付く。その場にいた誰もが、困惑と軽蔑の目を俺に向けた。
【状態異常付与】。それは、敵に毒や麻痺、睡眠などを与える地味なスキル。攻撃力もなく、派手さもない。まるで雑魚モンスターが使うような、使い道のわからない能力。
「ハズレだ……まさか、こんなゴミスキル持ちがいるとは……」
「お荷物じゃないか。どうするんだ、こいつ」
罵声が飛び交う。俺は「ハズレ枠」「ザコ」「お荷物」と呼ばれ、召喚者たちの輪から外された。誰一人として、俺に目を向けようとはしなかった。
唯一、俺に近づいてきたのは、俺と同じくハズレ扱いされた少女、ミリアだけだった。彼女のスキルは【栽培】。戦闘には全く役に立たない。
「カイトさん……私たちは、どうなるんでしょう?」
不安そうに呟くミリアの声に、俺は何も答えることができなかった。
数日後、俺たちは神殿の地下牢に閉じ込められた。勇者や聖女たちは快適な部屋を与えられ、優遇されているというのに、俺たちは忘れ去られたように扱われた。
食事は一日一度、最低限のもの。ろくな訓練も受けさせてもらえず、俺たちの精神は日に日にすり減っていった。
しかし、そんな状況でも俺は諦めなかった。俺の【状態異常付与】は、確かに地味だ。だが、本当に使えないのか? 俺は牢の中で、ひたすらスキルを試した。壁に「毒」を付与してみる。「麻痺」を付与してみる。
最初は何も起こらない。だが、何度となく試すうちに、小さな変化が起こった。壁の表面がわずかに変色したり、触れると微かに痺れを感じたり。
「これは……いけるかもしれない」
他の召喚者たちが俺を無視する中、俺はひたすらスキルを研ぎ澄ませた。ミリアは、そんな俺の傍らで静かに見守ってくれた。
ある夜、地下牢にモンスターが侵入した。ゴブリンの群れだ。他の囚人たちがパニックに陥る中、俺は冷静にスキルを発動した。
「【毒付与】!」
ゴブリンの一体にスキルを叩き込む。ゴブリンは一瞬怯んだが、すぐに襲いかかってきた。だが、数秒後、その動きが鈍くなる。そして、やがて苦しみだし、泡を吹いて倒れた。
驚愕する囚人たち。俺は続けた。
「【麻痺付与】!」
別のゴブリンがピタリと動きを止める。その隙に、囚人たちが持っていた鈍器でゴブリンを叩き潰した。
その夜、俺たちは生き延びた。俺の【状態異常付与】が、確かに役に立つことを証明できたのだ。
しかし、この件が神殿の耳に入っても、彼らの態度は変わらなかった。
「たまたまだ」「所詮はゴミスキルだ」
彼らは俺たちの功績を認めず、むしろ危険視するようになった。そして、ついにその時が来る。
「貴様らのようなハズレは、この地に不要だ。追放する!」
俺たちは神殿の兵士たちによって、魔物が跋扈する危険な森の入り口へと連れて行かれた。そこは「絶望の森」と呼ばれる場所で、生きて帰れる者は稀だと言われている。
ミリアは恐怖に震えていた。俺は彼女の手を強く握り、森の奥へと足を踏み出した。
「大丈夫だ、ミリア。俺は、ここで最強になってやる」
その日、俺は誓った。俺を虐げ、見捨てた者たちに、いつか必ず後悔させてやる。
絶望の森の奥深くで、俺の本当の物語が始まった。
ザコと呼ばれた俺の【状態異常付与】が、世界を蹂躙する最強のスキルへと変貌を遂げる、その始まりだった。
絶望の森の入り口は、その名の通り陰鬱な空気に満ちていた。鬱蒼と茂る木々は太陽の光を遮り、足元は湿った腐葉土でぬかるんでいる。獣の咆哮が遠くから響き、肌を刺すような冷たい風が吹き抜けていく。
「カイトさん……本当に、ここを抜けられるんでしょうか……」
ミリアの声は、震えていた。無理もない。これまで温かい神殿で軟禁されていた俺たちが、いきなりこんな場所に放り込まれたのだ。普通なら、心が折れてしまう。
「ああ、抜け出すさ。そして、いつかあいつらに見せつけてやるんだ。ゴミなんかじゃないってことを」
俺はミリアの手を握り、ゆっくりと森の奥へと足を踏み出した。神官たちの嘲笑を思い出すたび、胸の奥で燻る怒りが、俺の足を前へと進ませた。
森に入ってすぐ、俺たちは最初の脅威に直面した。ゴブリンの斥候だ。奴らは嗅ぎ慣れない人間の匂いを嗅ぎつけ、棍棒を構えて飛び出してきた。
「グルルルル!」
一体が棍棒を振り上げ、ミリアに襲いかかる。その瞬間、俺は迷わず【状態異常付与】を発動した。
「【盲目】!」
ゴブリンの目が光を失い、棍棒の軌道がずれる。攻撃はミリアの横をすり抜け、地面を叩いた。
「【麻痺】!」
続けて別のゴブリンに麻痺を付与する。奴の動きがピタリと止まる。
俺は地面に落ちていた枝を拾い上げ、盲目になったゴブリンの頭を叩きつけた。非力な俺の攻撃では致命傷にはならないが、怯ませるには十分だ。そして、動けない麻痺のゴブリンにも容赦なく枝を振り下ろす。
「カイトさん、すごい……!」
ミリアが驚きの声を上げる。だが、すぐに俺は息を切らした。連続してスキルを使うと、まだ魔力の消費が激しい。
ゴブリンたちは呻きながらも立ち上がろうとする。俺は残りの魔力を振り絞り、最後の【状態異常付与】を放った。
「【毒】!」
残りの二体に毒を付与する。奴らは苦しみだし、動きがさらに鈍くなった。
俺とミリアは、怯んだゴブリンたちを振り切り、全力で走り出した。
「ハァ……ハァ……」
しばらく走って、ようやく安全そうな場所を見つけて身を隠す。俺の腕は擦りむけ、服は泥で汚れていた。ミリアも青白い顔をしていた。
「危なかった……でも、カイトさんのスキルのおかげです」
ミリアは感謝の言葉を口にした。俺のスキルが役立つことを、彼女だけは信じてくれた。
その日から、俺たちの絶望の森でのサバイバルが始まった。
昼間は食料を探し、安全な場所を探す。夜は、簡易な隠れ家を作り、魔物から身を隠す。
俺は毎日、来る日も来る日もスキルを使い続けた。
【毒】で魔物の体力を削り、
【麻痺】で動きを止め、
【盲目】で攻撃をかわし、
【沈黙】で魔法を使う魔物の詠唱を封じる。
最初は地味だった【状態異常付与】だが、使えば使うほど、その奥深さに気づかされた。
複数の状態異常を組み合わせることで、強大な魔物さえも無力化できる。
例えば、素早い魔物には【鈍足】と【麻痺】を重ねて動きを完全に止め、
高い攻撃力を持つ魔物には【攻撃力低下】と【防御力低下】を同時に付与して、相手を弱体化させ、こちらの攻撃で大きなダメージを与える。
そして、スキルレベルが上がるにつれて、新たな状態異常も習得していった。
【脱力】:敵の筋力を著しく低下させ、攻撃力を半減させる。
【行動不能】:特定の行動を完全に封じる。
【精神汚染】:敵を錯乱させ、同士討ちや自滅を誘発する。
これらのスキルを使いこなすことで、俺は次第にこの森の脅威を退ける術を身につけていった。
もちろん、常に危険と隣り合わせだった。何度も死にかけ、何度も絶望しかけた。だが、そのたびにミリアの存在が俺を支えてくれた。
ミリアの【栽培】スキルは、当初は役に立たないと思われたが、実はこの森で最も重要な役割を果たすことになる。彼女は、毒草と薬草を見分け、食料となる植物を栽培し、時には魔物から身を守るための罠を作ることもできた。
特に、彼女が育てた「回復草」は、俺たちの命を何度も救ってくれた。
数週間が過ぎた頃、俺たちの肉体と精神は、絶望の森の過酷な洗礼によって別人のように変貌していた。
かつて軟弱だった俺の体は引き締まり、顔つきも精悍になった。ミリアもまた、当初の怯えた表情は消え、森の生活に適応していた。
俺は、もう「ハズレ枠」ではない。
この森で、俺は【状態異常付与】という名の「最強の武器」を手に入れたのだ。
そして、俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。
この森を抜けた先に、俺たちを追放した者たちがいる。
彼らに、俺の「状態異常スキル」の真の恐ろしさを見せつける日が、着実に近づいていた。
承知いたしました!それでは、「ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躏するまで」の三話目を執筆します。
第三話:森の支配者、そして新たな力
絶望の森でのサバイバルは、日に日に俺たちを強くしていった。俺の【状態異常付与】スキルは、もはや「地味」などという言葉では片付けられないレベルに達していた。単独の魔物はもちろん、群れで襲いかかってくる中級モンスターさえも、状態異常の連鎖で無力化できるまでになっていた。
ある日、俺たちは森の奥深くで、奇妙な場所を発見した。それは、巨大な岩でできた祭壇のような場所で、不気味なオーラを放っていた。祭壇の中央には、ひび割れた黒曜石のような結晶が埋め込まれている。
「カイトさん、あれ、なんでしょう……?」
ミリアが不安そうに俺の服を掴んだ。その時、結晶から漆黒の霧が立ち上り、一匹の巨大な魔物が姿を現した。
「グオオオオオッ!」
それは、体長5メートルを超える巨大なオーガキングだった。筋骨隆々の体は岩のように固く、手にした巨大な棍棒からは凄まじい威圧感が放たれている。その目は赤く爛々と輝き、明らかに俺たちを獲物と認識していた。
「まさか、こんな場所で……」
オーガキングは、この絶望の森の深部に生息すると言われる最上位の魔物だ。通常、冒険者パーティでも複数人で挑むような強敵。今の俺たちでは、到底敵わない相手だ。
「ミリア、下がってろ! 俺が食い止める!」
俺はミリアを背後に庇い、オーガキングと対峙した。冷や汗が背中を伝うが、ここで逃げ出す選択肢はなかった。逃げても、結局は追いつかれて殺されるだけだ。
「【鈍足】! 【脱力】! 【命中低下】!」
俺は立て続けにスキルを叩き込んだ。オーガキングの動きがわずかに鈍り、棍棒を振り下ろす速度が落ちる。しかし、それでもその一撃は大地を揺るがすほどの威力だ。俺は紙一重で攻撃をかわし、体勢を立て直す。
「まだだ! 【毒】! 【出血】! 【防御力低下】!」
習得したばかりの**【出血】**スキルを叩き込む。オーガキングの体に赤黒い染みが広がり、微かにHPが削れていく。しかし、その巨体と再生能力の高さから、目に見えるほどのダメージにはならない。
「グオオオオオオォォォ!」
オーガキングが咆哮し、地面を叩いた。衝撃波が俺たちを襲い、俺は吹き飛ばされる。壁に激突し、激しい痛みが全身を走る。
このままでは、ジリ貧だ。だが、その時、俺の脳裏に一つのアイデアが閃いた。
「ミリア! あの祭壇の結晶に、何かできないか!?」
俺の言葉に、ミリアは祭壇の結晶を見つめた。彼女の【栽培】スキルは、単に植物を育てるだけでなく、生命のエネルギーを感知する能力も持っていたはずだ。
「は、はい! この結晶……なにか、とても邪悪なエネルギーを感じます! でも、もし、これを……!」
ミリアは意を決したように祭壇に近づき、結晶に手を触れた。そして、スキルを発動する。
「【浄化栽培】!」
ミリアの手から淡い緑色の光が放たれ、結晶を包み込む。結晶に走っていたひび割れが、さらに大きく広がり、黒いオーラが激しく揺らめく。オーガキングが苦しげに呻き、動きが止まった。
「チャンスだ!」
俺は残りの魔力を全て注ぎ込み、俺の持つ最強の状態異常を放った。
「【絶望】!」
それは、相手の精神を徹底的に破壊し、戦意を喪失させる究極のデバフスキルだ。オーガキングの巨体が痙攣し、目が虚ろになる。そして、ゆっくりと地面に膝をつき、そのまま動かなくなった。
その瞬間、祭壇の結晶が砕け散り、清らかな光が周囲を包み込んだ。オーガキングの体からも邪悪なオーラが消え失せ、穏やかな表情に変わる。
俺たちは、やったのだ。絶望の森の支配者、オーガキングを打ち破った。
「カイトさん……オーガキングが、弱っている間に、何かを……」
ミリアが指差した先には、オーガキングの背中から生えるように光る「異物」があった。それは、まるで魔力を結晶化したかのような、虹色の輝きを放つ球体だ。
俺がそれに触れると、強烈な情報が脳内に入り込んできた。
それは、オーガキングがこの祭壇によって無理やり力を与えられ、操られていたこと。そして、この結晶が、この森の魔物たちを狂わせ、力を増幅させていた元凶であるということ。
そして、もう一つ。その虹色の球体は、この森の魔物たちの「核」であり、それを取り込むことで、俺の【状態異常付与】が、更なる進化を遂げることを示していた。
俺は迷わず、その虹色の球体を取り込んだ。
体中に熱い力が漲る。脳裏に新たなスキルの情報が流れ込んでくる。
スキル:【状態異常付与・改】
効果持続時間増加:状態異常の効果時間が大幅に延長される。
抵抗値無視:通常の魔物や人間の抵抗を無視し、確実に状態異常を付与できるようになる。
複合付与:同時に複数の状態異常を付与できるようになる。
覚醒:【属性付与】:状態異常に加えて、攻撃に属性(火、水、雷など)を付与できるようになる。
俺は、とてつもない力を手に入れたことを実感した。もはや、この森に俺を脅かすものはない。
「ハズレ枠」と嘲笑された俺のスキルが、ついに「最強」の一端に触れた瞬間だった。
俺とミリアは、森の奥へと進む。この先に何が待ち受けているかは分からない。だが、もう何も恐れるものはない。
俺は、もう虐げられるだけの存在じゃない。
俺を追放した者たちに、俺の真の力を見せつける日は、そう遠くないだろう。
承知いたしました!それでは、「ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで」の四話目を執筆します。
第四話:森を抜けて、動乱の世界へ
【状態異常付与・改】。その力を手に入れてからの俺とミリアの森での日々は、劇的に変化した。もはや、どんな魔物も俺たちの敵ではなかった。
【鈍足】と【麻痺】で動きを封じ、【防御力低下】で鎧を無力化し、【属性付与】で炎や雷の追撃を叩き込む。かつては脅威だったオーガキングすら、俺たちの前ではただの的と化した。俺は森の生態系を理解し、効率的に魔物を狩り、その素材を収集していった。ミリアの【栽培】スキルも相変わらず俺たちの命綱だった。彼女は森の至る所に薬草畑を作り、新鮮な食料を供給してくれた。
数ヶ月後、俺たちはついに絶望の森を抜けた。
森を出た先には、これまで見ることのなかった広大な平原が広がっていた。遠くには都市らしきものが見える。俺たちの顔には、安堵と、新たな冒険への期待が浮かんでいた。
しかし、その安堵は長くは続かなかった。
平原をしばらく進むと、煙が立ち上っているのが見えた。慌てて駆け寄ると、そこには焼け落ちた村と、横たわる人々の姿があった。村は襲撃されたばかりのようで、血の匂いが鼻を突く。
生存者はいないか、と辺りを探していると、遠くから剣戟の音が聞こえてきた。
「まだ生き残りがいるのか! 皆殺しにしろ!」
怒号とともに現れたのは、鎧に身を包んだ兵士たちだった。彼らの装備は簡素で、見るからに正規兵ではない。略奪者か、傭兵崩れだろう。
俺たちが隠れているのを見つけたのか、数人の兵士が武器を構えて襲いかかってきた。
「チッ、面倒な……」
俺はミリアを後ろに庇い、構える。
兵士たちは荒々しく剣を振り下ろしてきたが、もはや俺の敵ではない。
「【盲目】! 【脱力】!」
剣を振り上げた兵士たちの目が虚ろになり、腕から力が抜けて剣が地面に落ちる。
「【麻痺】! 【沈黙】!」
別の兵士がピタリと動きを止め、口から声を出そうとしても掠れた音しか出ない。
俺は動きの止まった兵士から剣を奪い取り、瞬く間に無力化された兵士たちを叩きのめした。彼らは抵抗する術もなく、次々と意識を失っていく。
「なんだ、貴様らは……!?」
遅れて現れた、見るからにリーダー格の男が驚愕の声を上げた。彼は俺の強さに戸惑っているようだった。
「俺は、ハズレ枠の、カイトだ」
俺の言葉に、男の顔色がサッと青ざめる。
その名は、かつて神殿に召喚された「ハズレ枠」として、世間にも知れ渡っていたのだろう。
男は震える声で尋ねてきた。
「まさか、あの絶望の森から……?」
「ああ。そして、お前たちが村を襲った賊か」
男は観念したように、俺たちの前にひざまずいた。彼はこのあたりの小規模な盗賊団の頭目で、近隣の村々を襲って略奪を行っていたという。そして、衝撃の事実を口にした。
「このあたりは、どこもかしこも荒れています。国境の争いが激しくなって、兵士が駆り出され、治安が悪化しているんです。俺たちみたいな奴が、そこら中に……」
話を聞けば、この世界は俺が思っていた以上に混乱に陥っているらしい。
神殿に召喚された「勇者」たちは、それぞれが属する国のために力を貸し、隣国との戦争に利用されているという。そして、俺を追放した神官たちもまた、その戦争の裏で暗躍している、と。
俺はかつての俺を虐げた者たち、そして今の世界を混乱に陥れている者たちへの怒りを再燃させた。
俺の目標は、ただ生き延びることだけではない。
俺は、この力を、俺を理不尽に扱った者たちに報いを受けさせるために使う。
「なあ、お前。お前たちの情報網を使えば、俺を追放した神官たちの居場所や、他の召喚者たちの情報を探れるか?」
男は顔色を変えたが、俺の殺気に怯え、すぐに首肯した。
「は、はい! お任せください!」
俺は男の抵抗力を奪い、動けなくしてから村の生存者を探す。
幸いなことに、隠れて無事だった村人が数名いた。彼らに盗賊団の頭目を引き渡し、事情を説明する。村人たちは、俺が盗賊を退治してくれたことに深く感謝してくれた。
ミリアが、焼け焦げた村の片隅で、小さな芽を見つけた。
「カイトさん、この子たち、生きてます」
彼女の顔には、悲しみと、そして希望が入り混じった表情が浮かんでいた。
俺の視線は、遠くに見える都市へと向けられた。
あそこに、俺を追放した神官たちがいるかもしれない。
あるいは、俺を嘲笑った「勇者」たちがいるかもしれない。
俺はもう、彼らに翻弄されるだけの「ハズレ枠」じゃない。
【状態異常付与・改】。この力で、俺は必ず、俺を虐げた全てを蹂躙し、この世界の歪みを正してやる。
俺たちの、真の反撃が、今、始まった。
盗賊団の頭目から得た情報をもとに、俺とミリアは最も近い都市――エゼルを目指した。エゼルは、この地域の経済の中心地であり、神殿とも繋がりが深い都市だと聞いている。
都市の門をくぐると、その喧騒に俺は思わず目を見張った。活気にあふれる市場、行き交う人々、そして厳重な武装をした兵士たち。しかし、その賑わいの裏には、どこか陰鬱な空気が漂っていた。貧しい人々が路地裏で肩を寄せ合い、兵士たちの眼差しは常に疑心に満ちている。
俺たちはまず、宿屋を探した。手元には、森で狩った魔物の素材や、ミリアが採取した貴重な薬草がある。それらを換金すれば、当面の資金には困らないだろう。
翌日、俺は一人でギルドへと向かった。魔物の素材を売却するためだ。ギルドのカウンターには、いかつい顔をした受付の男が座っていた。
「ほう、随分と上質な素材だな。絶望の森の……まさか、これをお前一人で狩ってきたのか?」
俺が差し出したのは、オーガキングの牙や、これまで倒してきた様々な魔物の素材だった。男は半信半疑の顔で鑑定を進める。そして、その鑑定結果に目を見開いた。
「バカな……これほどの素材、熟練のパーティでもなかなか手に入らねぇぞ……!」
男は俺の見た目からは想像もできない実力に驚きを隠せないようだった。
俺は淡々と換金を済ませ、都市の情報を集めるためにギルド内を歩いた。すると、耳慣れない声が聞こえてきた。
「今回の任務も楽勝だったな、ユウキ!」
「フン、当然だ。この俺にかかれば、どんな魔物も雑魚同然だからな!」
その声に、俺の足が止まった。振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
鮮やかな赤毛に、自信に満ちた笑みを浮かべる男――ユウキ。
あの日、神殿で【聖剣召喚】のスキルを持ち、「勇者」として歓声に迎えられた男だ。彼の隣には、数人の取り巻きたちが付き従っている。
俺は身を隠し、彼らの会話に耳を傾けた。
どうやらユウキは、このエゼルを拠点に、周辺の魔物討伐や盗賊退治の任務をこなしているらしい。だが、その会話は自慢話ばかりで、俺が森で経験してきたような命懸けの戦いの重みは感じられなかった。
「なぁ、聞いたか? 最近、絶望の森から『ハズレ枠』の召喚者が出てきたらしいぜ?」
ユウキの取り巻きの一人が、俺を侮蔑するような笑みで言った。
「ああ、聞いた。所詮はゴミスキル持ちの、紛い物の『召喚者』だろう? 俺たち真の勇者とは格が違う。どうせ、どこかで魔物の餌になっているさ」
ユウキが嘲るように笑う。その言葉に、俺の胸の奥で燻っていた怒りの炎が燃え盛った。
(よくも言ってくれる……!)
俺は、すぐさまユウキに声をかけることをしなかった。まだ、その時ではない。
俺は、情報収集のため、他の会話にも耳を傾けた。
どうやら、このエゼルでは、神殿が多額の資金を投じて、何かの「研究」を進めているらしい。その研究には、他の召喚者たちも関わっているという噂も耳にした。
そして、その研究の目的は、どうやら魔物の力を利用して、より強力な兵器を開発することにあるらしい。
(……やはり、あいつらは世界を良くしようとするのではなく、自分たちの利益のために動いているのか)
俺はユウキたちに気づかれることなく、ギルドを後にした。
宿屋に戻ると、ミリアが心配そうな顔で待っていた。
「カイトさん、無事でしたか?」
「ああ。少し、面白い情報が手に入った」
俺はミリアに、ギルドで聞いた話を伝えた。
ユウキとの再会、そして神殿が進めている不穏な研究について。ミリアの表情は、みるみるうちに険しくなる。
「まさか、私たちを追放しておいて、そんなことを……」
「ああ。だからこそ、俺たちは止めなければならない」
俺は窓の外に広がるエゼルの街並みを見下ろした。
光と闇が混在する都市。その闇の深部に、俺を虐げ、この世界を歪めている元凶がいる。
「ミリア、まずはその神殿の研究とやらを探る。そして、奴らの本性を暴き、俺の力を思い知らせてやる」
俺の顔には、決意の表情が浮かんでいた。
かつてハズレ枠と嘲笑された俺は、もはや「蹂躙する者」となった。
この都市の闇を暴き、世界を支配しようとする者たちに、俺の【状態異常付与・改】の真の恐ろしさを叩きつけてやる。
エゼルでの情報収集は順調に進んだ。盗賊団の頭目から手に入れた人脈を使い、俺は神殿の「研究」が、都市の地下深くにある施設で行われていることを突き止めた。そこでは、召喚された魔物を利用し、新たな兵器を開発しているという。そして、驚くべきことに、その研究を指揮しているのは、かつて俺を「ハズレ枠」と罵った神官長、ザビエルだった。
「やはり、あいつらが……!」
俺の握りこぶしに力がこもる。ミリアは、不安と怒りの入り混じった表情で俺を見上げていた。
「カイトさん、気を付けてください……神官長は、とても力のある人だと聞きました」
「大丈夫だ。俺はもう、あの頃の俺じゃない」
俺はミリアを宿に残し、単身、神殿の地下施設へと向かった。夜の闇に紛れて忍び込み、警備兵たちを【麻痺】や【睡眠】で無力化していく。俺の【状態異常付与・改】は、もはや人間相手には絶対的な効果を発揮した。
地下深くへと進むと、巨大な研究施設が広がっていた。そこには、檻に入れられた魔物たちが苦しげに呻き、奇妙な機械に繋がれていた。そして、その中央には、白衣を纏ったザビエル神官長が立っていた。彼の周囲には、数人の兵士と、見慣れた顔がいた。
「ユウキ……!」
そこには、以前ギルドで遭遇した勇者、ユウキがいた。彼はザビエルの指示に従い、まるで忠実な犬のように動いている。
「なんの用だ、下民め。ここは貴様のような者が立ち入っていい場所ではないぞ」
ザビエルは俺に気づくと、侮蔑の眼差しを向けた。
「貴様らの企みは、全て知っている。魔物を道具のように扱い、世界を戦争へと導く。そんなことは、俺が許さない」
俺の言葉に、ザビエルは嗤った。
「ハズレ枠のゴミが、何を偉そうに。貴様など、この私と勇者様の敵ではないわ!」
ザビエルはユウキに命じた。
「ユウキ! あの不届き者を排除せよ!」
「承知!」
ユウキが聖剣を抜き放ち、俺に襲いかかってくる。かつて「勇者」と呼ばれたその剣技は確かに鋭い。しかし、俺の相手ではない。
「【鈍足】! 【命中低下】!」
ユウキの動きが途端に鈍り、剣の軌道が大きく逸れる。
「なっ……!?」
驚愕するユウキに、俺は間髪入れずにスキルを叩き込む。
「【毒】! 【衰弱】! 【精神汚染】!」
複数の状態異常がユウキを襲う。彼は突然、苦しみだし、剣を取り落として膝をついた。その表情は歪み、虚ろな目で宙を睨んでいる。
「ユ、ユウキ様が……!?」
ザビエルと兵士たちが驚愕の声を上げた。彼らはまさか、勇者が一瞬で無力化されるなど想像もしていなかったのだろう。
「次は、貴様だ、ザビエル」
俺は一歩、ザビエルに近づいた。彼は恐怖に顔を引きつらせ、震えながら後ずさる。
「く、来るな! 私は神官長だぞ! この私に逆らえば、神罰が下るぞ!」
「神罰だと? 貴様らがやっていることこそ、神への冒涜だ」
俺はザビエルに、【状態異常付与・改】の真髄を叩き込んだ。
「【絶望】! 【恐怖】! 【思考停止】!」
ザビエルの顔から血の気が失せ、その場に崩れ落ちる。彼は何も言葉を発せず、ただ虚ろな目で一点を見つめていた。その表情は、かつて俺が感じた絶望そのものだった。
残った兵士たちは、俺の圧倒的な力に戦意を喪失し、武器を捨てて逃げ惑った。
俺は研究施設を破壊し、檻に囚われていた魔物たちを解放した。彼らは自由を得て、咆哮とともに闇へと消えていった。
夜明け前、俺は静かに施設を後にした。
都市の空には、まだ星が輝いている。
俺はかつて、ハズレ枠として追放された。見捨てられ、虐げられ、絶望の淵に立たされた。
だが、その絶望が、俺に真の力を与えてくれた。
【状態異常付与】。この誰も見向きもしなかったスキルが、今、世界を変える力を秘めている。
俺たちの旅は、まだ終わらない。
この世界には、まだ多くの歪みと、俺の力を必要としている人々がいるだろう。
俺はこれからも、ミリアと共に旅を続ける。
そして、かつて俺を蹂躙しようとした者たちに、俺が彼らを蹂躙する番が来たことを、身をもって教えてやる。
これは、ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった男が、全てを蹂躙する物語の、始まりに過ぎない。
お楽しみいただけたでしょうか?!