8.出会ってしまったクズ2人
休み明け、学校に行くとスピカが一人でいた。
珍しいな、いつもキャリーと一緒なのに。
私を見ると、スピカは走って来た。
げ。
「ねえ、キャリーを知らない?」
「知りませんわ」
私が間髪を入れずに答えると、スピカはムッとしたように言った。
「…今日、待ち合わせ場所に来なかったのよ。
今まで一度もこんな事なかったのに。
ねえ、一緒にキャリーを探してくれない?」
断ろうと思ったけど、私は『キャリーは悪い子じゃないかも』と思い始めた所だったので、探すのを手伝う事にした。
スピカはずんずん突き進んで行く。
どんどん人気の無い方に。
流石に怪し過ぎるから、スピカに「私、そろそろ…」と声をかけて教室に戻ろうとした。
けれど。
後ろから伸びて来た手に阻まれてしまった。
旧校舎の倉庫に連れ込まれ、鍵をかけられた。
中ではキャリーが縛られ、猿轡をされて転がされていた。
キャリーは私を見ると「うんん〜‼」と唸り出した。
キャリーは共犯ではなさそうだ。
スピカが男と話している。
「約束通り、メイを連れて来ました‼
これで私を養女にしてくれますね!?」
男は嫌な顔で笑った。
「ああ。
男爵令嬢は無理だが、伯爵令嬢が王妃になった事はある。
上手く王太子を操ればいい」
アンガス前伯爵。
メアリとメイの父親。
もう会う事もないだろうと思っていたのに。
スピカは私を見て言った。
「私ね。
あんたの事が大嫌い‼
同じ孤児院にいたのに何であんたは伯爵家に引き取られて、私は男爵家なのよ‼
男爵令嬢は王妃になれないって、あんた知ってたんでしょ?!
本当、性格悪い‼」
いや、お前が言うな。
「残念ですが父の養女になっても、伯爵令嬢にはなれませんよ。
父は既に伯爵位を手放しているので、伯爵家の事に口を出せません」
私の言葉にスピカは真っ青になった。
「騙したの?!」
父はニヤリと笑った。
「リュシオンがケチなのが悪いのだ。
伯爵位を買い叩きおって」
いや、「私の実家だから」って、かなり高く買ってくれたんだけど?
「あんな金ギャンブルですぐ無くなった!
だから、お前を売る事にした。
私が売ったのはあくまで伯爵位だからな。
つまり、お前の所有権は私にある!
お前を高く買ってくれると言う奴隷商人が見つかったのだ。
序でにその、キャリーとかいう男爵令嬢も売ってやる」
何故か自慢気に語る父。
コイツ、クソの上、馬鹿だ。
「キャリー嬢は平民なので高く売れませんよ」
私が言うと、父とスピカは同時に「「嘘だ‼」」と叫んだ。
仲良いな。
「いえ、本当です。
キャリー嬢と母君のキャシディ様は、ヒューズ男爵家から籍を抜かれ、マロウ男爵家にも籍は入っていません。
キャリー嬢が『キャリー・マロウ』と名乗られているのは、貴族学校に入る為の便宜上に過ぎません。
キャリー嬢、そうですよね?」
私が言うとキャリーは必死に頷いた。
「どうしてくれる‼
もう前金は貰っているのだぞ?!
伯爵令嬢と男爵令嬢を1人ずつと‼
前金は使ってしまった…」
父が頭を抱えた。
「いるではないですか。
男爵令嬢がもう1人」
私が言うと、父がニヤッと笑った。