6.『白薔薇祭』の祝賀会
「ねえ、メイの婚約者ってイケメンの侯爵様なんでしょ?
紹介してよ!」
学校に着くなり、スピカとキャリーに囲まれた。
リュシーを紹介しろ?
絶対に嫌‼
何で、(自称)ヒロインと略奪女の娘に、婚約者を紹介しなきゃなんないの!?
絶対盗る気じゃない‼
でも、そんな事言わない。
「ええ、勿論。
婚約者は『白薔薇祭』の祝賀会に来てくれますから、その時紹介しますわ」
学年の前期試験の成績優秀者とその保護者だけが参加出来る『白薔薇祭』の祝賀会。
私は前期試験は受けていないけど、編入試験で全科目満点を取ったので、特別に参加を許された。
「え、『白薔薇祭』の祝賀会って…。
ねえ、その前に会わせてくれない?」
スピカが上目遣いで頼んで来た。
そうだよね。
『白薔薇祭』の祝賀会なんて、参加出来る訳がないよね。
スピカ、勉強大嫌いだったもん。
「婚約者は仕事を抜けて来てくれるので、祝賀会の前に来て貰うのは無理ですわ」
私がにっこり笑って言うと、スピカはムッとした顔になった。
「…何よ。
ちょっと成績が良いからって、調子に乗ってんじゃないの?」
とスピカが言うと
「そうよ!
『メイは成績が良くて可愛くて、身分が高くてイケメンの婚約者がいるからズルい』ってスピカ様が言ってたわ!」
とキャリーが叫んだ。
…ん?
「ちょっと、何言ってんのよ!」
「だってスピカ様、ダル子爵令息に告白したら『アンガス伯爵令嬢の方が可愛い』って断られたんでしょ?」
スピカは顔が真っ赤だ。
「ち、違うわよ!」
キャリーは尚も、畳みかける。
「あら、カルネ男爵令息だった?
『お前みたいに頭も性格も悪い女、無理』って言われたのは?」
「〜〜〜‼」
スピカは何も言えず、走り去ってしまった。
「待って、スピカ様!
『自分の名前くらい、間違えずに書けるようになってから言え』って言われたのは〜?」
キャリーが叫びながら、スピカを追いかけて行った。
いや、キャリーの破壊力。
エグいくらい見事に、スピカを叩きのめした。
流石にスピカに同情するわ。
翌日、私が教室に置いていた道具箱に手紙が入っていた。
「『白薔薇祭』の祝賀会の前、噴水の前で待つ」
…スピカよね?
署名はないけど、相変わらず誤字脱字だらけの汚い字。
自分の名前すら間違えずに書けないって、本当?
私は手紙をゴミ箱に入れた。
だって、宛名も署名もないんだもん。
きっと、私宛じゃないわ。
『白薔薇祭』の祝賀会が終わり、私はご機嫌でリュシーと腕を組んだまま、会場から出た。
メアリだった時、元婚約者のローリーは他の女の子に夢中で、私は婚約者とダンスなんて踊った事がなかった。
初めて婚約者と踊ったダンスは、本当に素敵だった。
楽し過ぎて3回も踊ったけど、リュシーも嬉しそうにしていたから、良かった。
あれ?
スピカとキャリーだ。
まさか、祝賀会が終わるのを待ってたの?
…待って。
何でスピカ、ずぶ濡れなの?