4.乙女ゲームって何ですか?
「えーという事で、今日から新しいお友達が増えました。
メイ・アンガスさんです。
仲良くしてあげて下さいね」
「「「はーい」」」
先生の言葉に、素直にお返事する生徒達の初々しい事。
メアリが12才の時、こんなにキラキラしてたかな?
リュシーと話し合った結果、父の『リュシオンにメイを売りつける』という案に乗る事にした。
「実際『メイを買った』という事になれば、人身売買で犯罪ですので。
代わりにアンガス伯爵の爵位を買いたいと思います」
如何にも好青年、という雰囲気で父に話すリュシーの隣で、私は「何も分かりません」という顔をして座っていた。
父は難しい顔をしているけど、どうせ頭の中は「どれだけ沢山、リュシオンから金を引き出すか」しか考えていない。
結局、父はリュシーに爵位を売った。
「どうせいずれ、メイが産んだ子がアンガス伯爵になるんですから、それが早くなるだけですよ」
というリュシーの言葉を信じて。
確かにそうだけど、爵位を買った後、父をアンガス家に残す、なんてリュシーは一言も言ってない。
私が16才で成人を迎えると、私はリュシーと結婚して、メイ・エルファスになる。
それと同時にリュシーはアンガス家を畳むのだ。
『アンガス伯爵』という爵位は、エルファス侯爵家が持つ予備の爵位になる。
そして、アンガス家には誰もいなくなる。
つまり4年後、父は平民になるのだ。
ずっと平民を馬鹿にしていた父が平民になるんて、シャレが利いてると思う。
侯爵家以上の高位貴族は基本、家庭教師を雇うけれど、伯爵家までの低位貴族は、7才から15才まで貴族学校に通う事になっている。
メイは12才なので、貴族学校に通う事になった。
メアリとして貴族学校に通っていたから、勝手知ったる2度目の貴族学校だ。
メアリはずっと成績は学年1位で、生きていれば卒業式で卒業生総代として、答辞を読む予定だった。
今度こそ、ちゃんと卒業式で答辞を読みたい。
「ねえ、メイ?
あんた、メイじゃない?」
げ。
スピカだ。
孤児院にいた、意地悪な女の子。
確か、貴族の父親に引き取られたんだった。
あれ?
私と立場が似てるな。
スピカは今は、スピカ・ディールというらしい。
ディール男爵の庶子なんだって。
それより驚いたのは、スピカの友達として紹介された、キャリー・マロウだった。
前世でメアリの婚約者ローリーを寝取った、キャシディ・マロウの娘。
キャシディそっくりだった。
キャシディは40才年上のヒューズ前男爵の後妻になり、キャリーが産まれてすぐ、前男爵は亡くなった。
前男爵の長男であるヒューズ男爵は、キャシディの身持ちの悪さからキャリーをヒューズ家の者と認めず、2人共ヒューズ家から除籍してマロウ男爵家に送り返したそうだ。
だからキャリーは、キャリー・マロウと名乗っているらしい。
確かに、メアリが死んだ日に産まれたメイと、キャリーが同じ年齢というのは変だ。
早産とか、色々理由は考えられるけど、キャシディはローリー以外の男も複数人いたから、普通に考えてその中の誰かがキャリーの父親なんだろう。
スピカは自分は『乙女ゲーム』のヒロインなのだ、と言った。
乙女ゲーム。
初めて聞いた。
スピカは沢山、身分が高くてイケメンの恋人を作って、最終的には王太子と結婚するらしい。
うん、無理。
王太子妃になれるのは侯爵家以上の高位貴族か王族だけ。
側妃になれるのも、伯爵家以上。
男爵家でも愛妾にならなれるけど、産まれる子供に王位継承権はない。
平民から貴族になったばかりのスピカが知らないのは仕方ないけど、貴族社会で育ったキャリーも知らないなんて。
まあ、私も指摘して睨まれるのは嫌だから、言わないけど。
「この子達から得られる情報は少なそうだ」と判断し、この2人と距離を置く事にした。
貴族社会では、付き合う相手を選ばないと足を掬われてしまう。