3.メアリが死んだ後
私はリュシーから、メアリが死んだ後の事を聞いた。
夜会の最中、衆目の中で階段から落ちて死んだメアリ。
あの時、後ろから声をかけて来たのはやはり、ローリーだったらしい。
しかも、物凄い形相でメアリに手を伸ばしていたとか。
まあ、何もせずに伯爵になれるはずだったのに、縁談を潰されたとあっては、そうなるのも仕方ないけれど。
でも、あの時だけは止めた方が良かった。
傍目にはローリーが、メアリを階段から突き落としたように見えたらしい。
「バイス侯爵令息が振られた腹いせに、元婚約者を階段から突き落として殺した」という噂が、あっという間に貴族社会に広がった。
バイス侯爵は素早く手を回し、私の父に「借金を帳消しにする代わりに、噂を否定して欲しい」と頼んだ。
父はホイホイ噂を否定した。
しかも、「バイス侯爵令息に捨てられたショックで、自ら階段から落ちた」なんて、不名誉なメアリの噂までばら撒いた。
はあああああ!?
私が‼
ローリーを捨てたんだっつーの‼
本当、あのおっさんは碌な事をしない。
それで万事解決。
ローリーは他の家に婿養子に入り、悠々自適な生活を送っているのかと思ったら。
その直後、バイス侯爵によるアンガス伯爵家乗っ取りの噂が、バイス侯爵と私の父のサイン入りの書類、という証拠を添えて貴族社会に流された。
バイス侯爵は即座に父に金を積み、噂を否定させたけれど、証拠付きだった為、噂は収まらなかった。
結局バイス侯爵は、ローリーを平民に落とす事でどうにか噂を躱したけれど、『他家を乗っ取ろうとした家』というレッテルは消えず、バイス侯爵の次男は婿入り先を失ったとか。
あとキャシディは婚約者に婚約破棄され、40才年上の元男爵の後妻になったそうだ。
父は漁夫の利で丸儲けかと思いきや、良い事ばかりではなかったらしい。
父の妹であるエルファス侯爵夫人は、メアリを実の娘のように可愛いがってくれた。
メアリは知らなかったけれど、叔母はメアリの為に実家であるアンガス伯爵家に仕送りをしてくれていたそうだ。
けれどメアリは死に、メアリの不名誉な噂を流した私の父を叔母は許さず、仕送りを打ち切ったらしい。
父は何度も叔母に仕送りを頼んだが、叔母は無視。
1年前、リュシーがエルファス侯爵を継いだ後も父は何度も仕送りを要求したが、いつも門前払いしていたそうだ。
そんな時偶然、父は昔捨てた女が産んだ娘がメアリそっくりだと知ったらしい。
リュシーはメアリに懐いていた為、父はそっくりな娘をリュシーに売りつけようとした。
それが今回の、私がリュシーに会うまでの話。
「本当、クズよね。
あのおっさん」
リュシーは私の口の悪さに目をパチクリさせながら、クスクス笑った。
だって、12年間平民として育ったんだもの。
口だって悪くなるわ。
メイはメアリが死んだ日に産まれた。
転生、早くない?
つまり、メアリが死んでから12年経った、という事。
12年でリュシーは天使のような美少年から、天使長のような逞しい美丈夫に成長した。
喜ばしい事だけど、成長を見守れなかったのは悔しい。