表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

2.メアリって誰ですか?

…メアリ姉様って誰?

…私?

私は…


そう、私はメアリ・アンガス。

アンガス伯爵家の一人娘。

私は今、一人で夜会に参加している。

普通、貴族の令嬢が夜会に一人で参加したりしない。

それでも私は今夜、絶対にやらなければならない事があるのだ。


私はパーティー会場の奥、テーブル席に座っている二人にツカツカと近寄って、声をかけた。

「今晩は。

ローリー・バイス侯爵令息、並びにキャシディ・マロウ男爵令嬢」

まるで恋人同士のように、顔を寄せ合って話していた二人は、ギョッとしたようにこちらを見た。

「おまっ、メアリ‼

今日は参加しないはずじゃっ」

ローリーは慌てて、キャシディから距離を取った。


「いいんですのよ、バイス侯爵令息。

本日夕刻、私達の婚約は解消されましたので。

存分にマロウ男爵令嬢と仲良くされればよろしいわ」

ローリーは私の婚約者だった。

やっと過去形になったのは、つい先程。

私はバイス侯爵に直接ローリーの浮気の証拠を突き付けて、「貴族裁判にかけられるか、大人しく婚約解消するか、選べ」と迫ったのだ。

私は婚約解消の届けを王宮に提出し、そのまま夜会に参加し、ローリーにその事を報告に来た。


そもそも、婿に入る分際で浮気をするとか、頭おかしいの?と思う。

女遊びとギャンブルの事しか頭にない私の父が、借金の肩代わりと引き換えに、侯爵家の出来損ないの三男を婿養子として迎える約束をしたのが、私とローリーの婚約の理由だった。

ローリーも父と同類で、女遊びにしか興味がない。

ギャンブル癖がないだけ、父よりはマシだけれど。

私がローリーの浮気を父に訴え、「婚約解消したい」と言っても、父は「浮気如きでガタガタ騒ぐな」と言うばかり。

母は「お父様の仰る通りになさい」しか言わない。

馬鹿かと。


当初、ローリーは女伯爵となる私の伴侶として、婿に入る予定だった。

だが、バイス侯爵は持参金を倍額にする代わりに、ローリーを伯爵にしろ、と言って来たのだ。

金に目が眩んで、了承した父。

…乗っ取りじゃないの!

このまま父に任せていたら、とんでもない事になる。

私は必死でローリーの浮気の証拠を集め、婚約解消に持ち込んだ。


わざわざ夜会でローリーに婚約解消の事を告げたのは、証人を増やす為。

これだけ沢山の人にバラせば、あとで噂になった時、どちらが有責かすぐ分かるだろうから。

貴族社会では、噂一つが命取りになる事もある。

「それでは、失礼」

私はにっこり笑うと踵を返して、会場をあとにした。


パーティー会場の階段を下っている最中、私は後ろから声をかけられた。

「メアリッ‼」

え、と振り返った瞬間、私は階段から足を踏み外した。

マズい!

咄嗟に手すりを掴もうと手を伸ばしたけれど、手は虚しく宙を掴んだ。

ああ、何てマヌケなの。

やっと自由を掴んだと思ったのに、手すりすら掴めないなんて。

そんな事を考えたのが、最後だった。


「…いや、ダジャレ言ってる場合か!?」

思い切り自分に突っ込んだと同時に、目が覚めた。

「…知らない天井だ…」

じゃなくて!

私はガバッと体を起こすと、ペタペタ顔や体を触って確かめた。

手が小さい。

私は、メイだ。

15才のメアリ・アンガスじゃない。


突然扉が開き、入って来た男が「メアリ姉様‼」と叫んだ。

私はその、とんでもなく顔が良い男を諭すように言った。

「扉を開けるのはノックしてお返事を聞いてから、と言ったでしょう?

…リュシー」

ああ、可愛い私のリュシー。

父の年の離れた妹であるエルファス侯爵夫人の一人息子、リュシオン・エルファス。

あれから、随分時間が経ってしまったのね。

あのまあるい頭もふっくらほっぺもなくなって、すっかり大人の男の人になってしまった。

でも、変わらないものもある。

そのキラキラした、空色の瞳。

どんな言葉より雄弁なその瞳を見た瞬間、私は前世を思い出したのよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ