11.メアリの母親と地雷娘
メアリの母を軽〜く不幸にしたい。
そんな私の願いを叶えてくれる人物がいる事を思い出した。
私は義父にお願いした。
「メアリの母がケネス伯爵家に輿入れする時、キャリーを侍女として連れて行かせて欲しい」と。
キャリーは私の命の恩人と聞けば、義父は喜んでキャリーを侍女に推薦してくれた。
「奥様‼
奥様が眠られる時に抱いている熊の縫いぐるみが汚れていたので洗ったら、腕が取れてしまいました!」
「奥様‼
奥様の白髪隠しのお薬の瓶を割ってしまいました!」
「奥様‼
奥様の皺取り用の棒は何処に収納すればよろしいですか?」
キャリーは今日も元気に、メアリの母の恥をケネス伯爵家全体に響き渡る大声で晒しているらしい。
気が弱いメアリの母はキャリーを解雇する事も出来ず、最近では部屋に籠もり切りとか。
健康に悪いので、メアリの母を部屋から出して、散歩でもさせるようにキャリーに伝えて貰おう。
キャリーの事だから、張り切ってメアリの母を部屋から引き摺り出してくれるだろう。
キャリーが平民なのに貴族学校に通っていたのは、侍女として働く先を探していたからだった。
貴族学校には貴族の後見者がいれば、平民でも入る事が出来る。
キャリーの祖父であるマロウ前男爵が、孫娘の将来を心配して後見者になったらしい。
キャリーが私の婚約者に興味を持っていたのも、雇って貰えないか探る為。
そのせいで私の義母に「リュシーを狙っているのでは?」と疑われたけれど。
因みにキャリーの母親のキャシディは、実家であるマロウ男爵家で侍女をしている。
今のマロウ男爵はキャシディの弟。
キャシディに取って楽勝な環境のはずだったが、マロウ男爵夫人は婚約者時代に散々キャシディに虐められたらしく、今は毎日嬉々として、キャシディを虐め返しているそうだ。
キャリーは母親のキャシディと違って、何事にも一所懸命な良い子だった。
ただ、一所懸命の方向がおかしい。
良かれと思ってやった事は全て空回り、近くにいる人間が被弾する。
言わば『無自覚な地雷』。
キャリーがスピカの恥を晒していたのも、100%善意だと気付いた時、私は思った。
「この子、使える‼」と。
ケネス伯爵家では、伯爵と伯爵の伴侶がにこやかにキャリーの暴走を見守っているそうだ。
こちらも100%善意。
「メアリの母は嫁いでしまった娘の代わりに、娘の友人を側に置きたいようだ」と義父に言って貰ったので、キャリーが何をしても2人には微笑ましい光景に見えているらしい。
いやあ、人の善意って怖いわ〜。
あとは、スピカ。
放っといてもリュシーが始末してくれるだろうけど、「被害者は私なんだから、私がスピカの処分を決めたい」と言うと、リュシーは了承してくれた。
まずリュシーに、スピカの父親のディール男爵に圧力をかけて貰った。
スピカがやった事は、伯爵令嬢の『誘拐』『監禁』『人身売買幇助未遂』。
どれか一つでも、重罪だ。
問題は「それにディール男爵が関わっているかどうか」。
リュシーが尋ねると、男爵は当然だが、「自分は関わっていない」と答えた。
「では、慰謝料の代わりに御令嬢の身柄はこちらで預からせて頂きます」
リュシーの言葉に、首振り人形のように頷く男爵。
これでスピカが帰る場所は無くなった。
父親から一瞥もされず、見捨てられたスピカ。
必死でリュシーに媚を売って助けて貰おうとしたけれど、リュシーの目にあるのはスピカへの殺意。
そりゃそうだよねえ。
私はスピカに優しく話しかけた。
「スピカ嬢は王妃になりたいのでしょう?
だから、王妃になれるかも知れない場所に送って差し上げます。
砂漠の王の後宮ですわ。
とても美形な王だそうですよ。
砂漠の国では、奴隷が王妃になった例もありますので、スピカ嬢も頑張って下さい」
まあ、王が美形と言われていたのは30年前の事で、今は体積が当時の3倍らしいけど。
あと砂漠の王の趣味は、鞭打ちだとか。
何故どいつもこいつも鞭打ちが好きなんだろう。
他に娯楽は無いの?
砂漠の王妃は後宮の女達をいびる事で、ストレスを発散しているそうだ。
スピカは王妃の座を奪うどころではない気がするけど、自分で望んだ事なのだから、頑張って欲しい。