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1.メイ・アンガスになった日

こんにちは。

私の名前はメイ。

12才。

お針子だった母さんが半年前亡くなって、教会の孤児院に引き取られたんだ。

院長先生は気に入らない事があるとすぐ、私達を鞭で打つクソ野郎だけど、大丈夫。

2年後、14才になったら何処でも働けるんだから、それまでの我慢だし。


と思っていたんだけど。

ある日、院長先生がニコニコしながら、「お父様のお迎えですよ」って言ったんだ。

窓の外を見ると、貴族用の馬車が停まっていた。

そう言えば昔、母さんが「お前のお父様は貴族なのよ」って言ってたっけ。

どうせ一生会う事はないんだから、「へーっ」って流したけど、本当だったのか。

終始ニコニコ顔の院長先生に見送られて、馬車に乗った。

あれ、絶対寄付金貰ったよね。


馬車の中で父親の侍従、とかいう人から説明された。

父親はアンガス伯爵、というらしい。

…アンガス伯爵。

聞いた事があるような。

母さんから聞いたんだっけ?

伯爵家でお針子をしていた母さんに、父親が手を出して産まれたのが私らしい。

妊娠が分かってすぐ、はした金だけ渡されて、母さんは伯爵家を追い出されたんだって。

やっぱ、父親はクソ野郎だった。


そうこうしている内に、馬車は立派な貴族の御屋敷に着いた。

私はそのまま風呂場に放り込まれ、隅々まで磨き上げられた。

風呂から上がると上質なドレスを着せられ、髪を整え、薄化粧を施された。

鏡に映る自分は、見た事もない貴族のお嬢様。

だけど私は思った。

『私はこの少女を知っている』

…そんな訳、ないのに。


ノックもせずに扉が開けられ、入って来たのは不機嫌そうな男だった。

私と同じ、若草色の髪とエメラルドの瞳。

コレが父親か。

何の感慨もなく、そう思った。

「…ふん。

気味が悪い程、あの娘に似ているな。

これなら、あの男も気に入るだろう。

随分あの娘に懐いていたからな。

…連れて行け」

『あの娘』だの『あの男』だの。

『私と会話する気ないな、こいつ』って思っていたら、侍従に部屋から連れ出された。


また移動か、とうんざりしていたら、廊下の隅からこちらを伺う視線に気付いた。

上質なドレス、上品な物腰。

あれはこの屋敷の女主人だろう。

つまり、父親の正妻。

美しい人なのに、暗い表情のせいで酷く地味に見える。

彼女は私と目が合うと、怯えたように立ち去ってしまった。

…別に威嚇とかしてないけど?

けれど怯えた深い茶色の瞳は、何故だか懐かしいような気がした。


馬車に乗せられ、随分経った。

外が薄暗くなって来た頃、大きな屋敷の前に着いた。

父の侍従に連れられて中に入ると、先程までいた伯爵家の屋敷より、屋敷自体も調度品も何ランクも上だと分かった。

品の良い家具でまとめられた応接室で待っていると、とても穏やかな男性がお茶を出してくれた。

この屋敷の家令だそうだ。

お礼を言うと家令は嬉しそうに目を細め、「ほほほっ」と笑った。

「御姿だけでなく、御人柄までそっくりですな」

…どういう事?


突然、応接室の扉が開き、入って来た男性がこちらを見もせず話し出した。

「セバス!

茶など出している場合じゃない‼

さっさと送り返さないと、あのヒヒジジイに娘を売りつけられるぞ‼」

煌めくプラチナブロンド、空色の瞳の、宗教画に描かれた逞しい天使長のような男。

その瞬間、頭の中で何かが弾けた。


ふわふわのプラチナブロンド。

溢れ落ちそうな程大きな、空色の瞳。

まあるい頭とふっくらほっぺ。

小さな私の天使。

「…リュシー」

怪訝そうにこちらを振り返った男の顔が、驚愕の色に染まった。

「…メアリ姉様‼」

薄れゆく意識の中、逞しい腕に抱きとめられたのを感じた。


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