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本を読む手は止まっている

作者: 霧澄藍

 お弁当を食べ終えて、本を開く。朝の電車の続きから、また読み始める。


 その、はずだった。


「え〜、あたしの好きな男子?」

「そうそう。教えてよ」

「言わないのはずるいぞ〜」


 聞こえてきたのは教室後方の女子の会話。一軍というやつだ。こんな教室の隅で本を読むような私にも、好きな人の一人や二人、いる。頼むから、彼の名前を挙げないでくれ。私じゃ、私じゃ一軍に叶わない…


「じゃあ、え、クラスの中じゃなきゃ駄目?」

「駄目って、他にいるの?」

「いるってゆーか」


 お、これはすでに恋敵でも何でもないやつだ。まだ気は抜けないけど、


「彼氏!?」

「………昨日、告白されて…」

「「詳しく聞かせて!」」


 やっぱり。よかったよかった。彼氏がいるなら心配ない。

 さて、続き続き


「おい!サッカーしようぜ!」

「え~、マジで言ってんの?」


 これは教室窓際の男子の会話。どうってこと無い話だけど聞き入ってしまうのはこの声の主が幼馴染だからである。


「マジマジ。雨降ってないし良くね?」

「雨止んだのさっきだぞ。校庭ヤバいだろ」

「え?うっわ、確かに。でも楽しそう」


 馬鹿か。次普通に数学だぞ。お前は泥まみれで受けるのか。


「それならパス。マサキ一人で行けばいいじゃん」

「俺も。アヤちゃんに怒られたくない」


 アヤちゃん、というのは私たちの数学の先生。20代彼氏募集中(自称)の女性で男子生徒からの人気が高い。とまあ、そんなことは置いておいて、はあ、マサキは相変わらずだな。見えないけどちょっと落ち込んでるのが目に見えるようだ。


「なあ、バスケしない?体育館で」


 お、この声はタカハシ君。


「いいじゃん」

「俺も行くわ」


 流石というかなんというか、一気に男子がまとまっていってる感じがする。


「マサキもどう?」

「え、あ、行くわ」


 感謝するんだぞ、タカハシ君に。


「なあ、タカハシってバスケ得意なの?」

「まあ、一応習ってるから。部活は違うけど」

「ふーん」


 いきなり来たぞこれはこれ有力情報じゃないか。てっきりタカハシ君はただの遊びとしてのバスケをするつもりなのかと思っていたけど違うみたいだ。マサキナイス。『タカハシ君はバスケを習っていて得意』…よし、心のメモに書いたぞ。

 声が完全に聞こえなくなった。もう教室からは出ていったみたいだ。


 じゃ、続き読みますか。……あれ?

 朝から何も進んでない。私は何をしてたんだろう。

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