Fラン美大生の異世界絵描き修行
初投稿です!よろしくお願いします!
俺のスケッチブックがゴミみたいに床に転がっている。
しかもローブ着た変な奴らが「未開人の筆使いだ」「未開人の落書き」「魂がねえ」「ひどい絵!」って大爆笑してやがる。ちょっと待て、状況がわからねえんだけど何処だここ。
挙句にスケッチブックの文字を読んだ奴が「お前、アートって言うんだろ?」って聞いてきたから「一色彩人だよ!」って答えたら、『イスキア、ア、アート? もうアートでいいよ!」って勝手に命名された。
いやいや、アートって何!? ダサくて恥ずかしいんですけど!?
俺は頭を抱えた。どうやら異世界、パントゥーラ魔絵術大学校とやらに飛ばされたらしい。学生たちは彼を「地球からの召喚者」と呼び、好奇心丸出しで近づいてくる。
帰りたいと言うと教官が淡々と言った。
「転移っていうのは何年に一回しか使わないくらい、コストがかかる。魔絵術大会で結果を出して、未開人の絵の有用性を見せないと戻せねぇ。」
俺は力のかぎりで叫んだ。
「帰りたいって言ってんだろ!何でもいいから帰らせろ!」
学生たちは本気で驚いた顔で囁き合った。
「帰りたいとか頭おかしいの?」「未開人ってやっぱ感覚ズレてるな」「こんな栄誉ないのに」
ノンデリカシーな連中に俺はキレ散らかした。
「さっきから未開人未開人って、失礼な奴らだな!」
その言葉にあきれたように教官が外を指差す。
「まずは自分の置かれた立場を理解することだな。お前を呼ぶにかかったコストを今のお前が返せると思うのか」
彩人は目を丸くした。
絵から飛び出した鳥が荷物を運び、壁の絵が「授業開始!」と叫ぶ。鳥は荷物を器用にくちばしで整え、飛び去った。
壁に描かれた巨大な絵が勝手にしゃべりながら何かを説明している。
声は低く、まるで教授の講義だ。
窓の外では、絵から飛び出した馬車が空を飛び、鮮やかな尾を引いている。
「これが魔絵術の日常だ。未開人のお前にはわからんだろうがな。精々ここで学んで精進することだ」
すげぇ、すげえけど、俺は絵なんて動かせねぇ。デッサンだってろくに出来ねぇのに何を期待されてんだろう……。
俺は状況を飲み込むしかなかった。物置での出来事を思い出す。Fラン美大生の俺は課題をテキトーにやってたけど、絵の具がなくなってしまった。絵の具を探しに行ったら、物置で埃かぶった絵の具箱見つけて、『ラッキー!』って開けたら光に包まれてここ。以上。 物置の呪いでもあんのかよ!
周囲の学生が笑いものにする中、彩人はスケッチブックを拾い上げた。そこには、彼が部屋で描いた下手くそな美大の課題がそのまま残っている。
「これ、俺の絵じゃねえか……」
学生の一人が鼻で笑った。「未開人の魂ってこんな薄っぺらいんだな」
ムカついたが、反論する気力もなかった。この世界のルールがまるでわからない。ただ一つ確かなのは、ここから出るには大会で結果を出すしかないってことだ。
異世界での生活が始まった。彩人は教室に連れて行かれ、魔絵術の基礎を学ぶ。
「魔絵術ってのは魔鉱石の絵の具で魂を増幅するんだよ。込めた魂が全て。緑で炎、黄色で水、なんでもあり。魂がなけりゃ『死に絵』だ。発動しねぇし何の役にも立たねぇ」
教官の説明を聞きながら、試しに描いてみた。赤で炎っぽい何か描いたら、グチャッと崩れて床に落ちた。魔法どころか、ただの汚れだ。
「アート君、未開人そのものね。今回の未開人はハズレなのかしら。」
周りの笑い声に、俺は顔を真っ赤にした。窓の外じゃ絵から生まれた掃除鳥がゴミを拾って飛び去ってる。便利すぎてムカつくぜ。
教室の中じゃ、光るペンが勝手にメモを取ってるし、俺のノートは白紙のままだ。
「オレだって描ける。」
意地になって筆を握ったけど、結果は同じ。緑で木を描こうとしたら、ドロドロの塊がキャンバスから落ちてきた。
「アート君、才能ゼロ!」
もう笑うしかない。こんな世界でどうやって生き残れってんだ?
彩人は負けじと練習を重ねる。
ある日、授業で他の学生の絵を見た。壁に描かれた絵が動き出し、飲み物を運んできたのだ。別の学生が描いた鳥が、窓辺でさえずりながら羽を休めている。
「すげえ……これが魔絵術かよ」
感心してる場合じゃねえ。オレも何か描かなきゃ。そんで、実際あるものを描く『具象画』に挑戦することにした。
「オレ、ラッセン目指すよ! イルカとか光る海とか、みんな好きだろ!」
ラッセンってのはクリスチャン・ラッセンだ。海の生き物とか幻想的な風景を色鮮やかに、かつ精密に描く画家。
オレの中で最強のイメージだ。課題サボってた時も、ラッセンのポスター見て「いつかこんな絵描きてえな」って思ってた。
「ラッセンなら優勝確定だろ!」
学生たちは首をかしげた。
「ラッセンって何?」「未開人の神様か何か?」
「ちげえよ! 画家だよ!」
オレは無視して描きまくった。イルカの形は歪み、海は濁ったけど、今までのぐちゃぐちゃよりはマシだ。鮮やかな赤と青をぶちまけた。そしたら、学生たちが感心した。
「未開人の絵ってこういう派手さなのか」
「魂はないけど、見た目は悪くないね」
「俺、やっぱ天才じゃん?」
鼻高々だ。イルカから魔法は出なかったけど、見た目だけならそこそこイケてる。教官までが「未開人にしては上出来だ」と褒めてくれた。
そんな気分をぶち壊したのが、グラウスって奴だ。長身で鋭い目つきのエリート学生。オレの絵を一瞥して冷たく言った。
「見た目だけだ。お前の絵は、お前がそこにいない。魂のない絵はただの飾りだよ、アート」
「何!? 俺のラッセンをバカにすんな!」
ムカついたけど、グラウスの実演を見て言葉を失った。
グラウスが灰色で抽象的な線を引く。すると白鳥の幻影が浮かんだ。魂が込められてるのが一目でわかる。静かで深い雰囲気が教室を包んだ。背景じゃ灰色の蝶がキラキラした光をばら撒いている。絵から生まれた蝶が、まるで生きてるみたいに羽ばたいてた。
「魂がなけりゃ絵は生きない」
グラウスがこちらを見据える。
ムカつくけどすげえ……。
グラウスの絵と俺のラッセンじゃ、まるで次元が違う。あいつの灰色は静かで深い。俺の鮮やかさはただの騒がしさだ。なんか悔しくて、でもどこか憧れた。
そうして過ごすうち、授業で、課題「感情の保管」が課された。魔絵術で、感情を表現しろという課題だ。彩人は自分の絵に苛立ちを覚えている。
「グラウスの灰色なんかくそくらえだ! オレはもっと派手にいく!」
あいつの、グラウスの静かな絵に負けたくねえ。オレは赤や緑で昔の記憶を描いた。子供の頃、母さんと父さんの前で絵の具まみれになって笑ってたあの頃だ。上手く描こうと焦って、筆が震えた。結果、魔法は出ず、ただの汚い塊がキャンバスに残った。
「ちくしょう……」
隣じゃ絵から生まれた助手が他の学生の筆洗いを洗って回ってる。そいつが俺の絵を見て首をかしげた。便利すぎんだろ、この世界。俺の絵じゃこんな助手なんか出てこねえ。
「もういいや、楽しけりゃいいだろ、どうせ『死に絵』よりマシだ!」
開き直って色を重ねまくった。赤、緑、黄色、青、全部ぶち込んだ。すると、鮮やかな幻影が浮かんだ。幼いオレが笑ってる。家の床の間で、絵の具だらけになって、父さんと母さんと笑い合ってたあの瞬間だ。
その笑顔を思い出した瞬間、胸の奥が温かくなり、どこか切なくなった。昔の俺は上手さなんて気にせず、ただ夢中で色をぶちまけていた。あの無邪気さが、鮮やかなぐちゃぐちゃの中に確かにいた。
その時、俺はなんかハッとしたんだ。絵ってさ、上手い下手とか関係ない。俺が『うわ、これ俺だ!』って叫びたくなるくらい、そこに自分がドカンと乗っかってなきゃ意味ないってこと。
絵が完成した頃、グラウスが近づいてきて呟いた。
「悪くないな、アート」
グラウスを見た。俺の絵は、アイツの灰色の絵とは真逆の、鮮やかな絵だ。互いを認め合った気がした。
教官が驚いた顔で言った。
「魂がある。未開人とは思えん」
俺の中で何かが変わった。この世界の便利さも、グラウスの灰色も、俺には関係ねえ。俺は自分の色で絵を描きたい。現実に戻って、本気で描きたい。
決意を固めた。大会で結果を出して、この世界を抜け出す。それが俺の新しい目標になった。
大会の日が来た。会場は異世界の魔絵術で溢れていた。
ある一人の学生が紫で竜を描いた絵を持ってくる。竜が飛び上がり、会場を紫の風が包んだ。絵から生まれた竜が観客席に花を配り、子供たちが歓声を上げる。
次に黄色で描いた花の絵が。花が咲いて甘い香りが漂い、蝶が飛び出して会場を彩った。蝶は観客の肩に止まり、優しく羽を休めた。
「さすがパントゥーラの魔絵術!」
観客が拍手喝采だ。
ビビった。こんなのと勝負すんのか。
続いてグラウスが登場した。
絵は、灰色の幾何学で表現されている。その絵から幻影が飛び出し、灰色の景色が浮かんだ。寂しげな少年が湖畔にが佇み、魂の込められた静寂が会場を包む。灰色の鳥が飛んで会場を一周。少年の目が一瞬こちらを見て、消えた。
「これぞ抽象画の極み」
観客が息を呑んだ。俺も認めざるを得ねえ。あいつの灰色は深い。魂がそこにある。
最後に俺がキャンバスを持ってきた。
「自信作に仕上がったぜ!」
赤、緑、黄色、青を重ねまくった絵だ。抽象的で未熟だけど、魂をぶち込んだ。幼い俺が花の咲いたような笑顔で笑う幻影が飛び跳ねる。鮮やかさが会場に響き、観客が涙ぐんだ。子供の笑い声が幻影から響き、会場に温かさが広がった。
「未開人の魂ってこんなに強いのか」
観客の一人が呟いた。
優勝は逃したけど、指導教官が言った。
「魂ある絵だ。新しい風だよ」
帰還が許可された。やっと現実に戻れる。
思い返せば未開人だの魂が無いだの、馬鹿にされ続けて嫌な思い出ばかりだが此処で大事なものを得ることが出来て感謝している。
別れの時が来た。グラウスが近づいてきた。
「お前、意外とやれる奴だったな」
「オレもお前には負けたくねえよ」
グラウスは笑って、大量の魔鉱石の絵の具セットを差し出した。
「この世界まで届く名画を描けよ」
セットの中にはグラウスの灰色も入ってる。オレは呟いた。
「アイツ……」
光に包まれた瞬間、グラウスの背中が遠ざかった。灰色のローブが風に揺れ、どこか寂しげだった。
現実に戻った彩人は、物置の絵の具箱とグラウスの絵の具セットを手に持っていた。スケッチブックを開くと、鮮やかな絵から幼い自分の笑顔が微かに浮かび、消えた。
彼の胸に静かな決意が宿る。かつての怠惰な自分はもういない。あの鮮やかな幻影を、もう一度自分の手で描きたい。
「俺、ちゃんと絵描こうかな」
顔を上げると、窓の外の朝日がキャンバスのように広がっていた。新しい一歩が、そこに待っている。グラウスの灰色と俺の鮮やかさが、世界を超えてまた交わる日を夢見て。
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