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第九話 希望の光

 冥子と桜は、再現された黄泉路亭(よみじてい)の中で、虚ろな表情の客たちに呼びかけた。店内は相変わらず薄暗く、妖艶な雰囲気に包まれている。壁には不気味な模様が浮かび上がり、その光が客たちの顔を不自然に照らしていた。


「みなさん! 目を覚まして!」


 冥子が叫ぶ。彼女の声には、焦りと共に強い意志が込められていた。しかし、客たちは依然として反応を示さない。


「ダメね……魔物の力が強すぎるわ」


 桜が肩を落とし、ゆっくりと言う。二人の声は小さく、動きは遅かった。突然、冥子の目に閃きの光が宿る。


「そうだ! 牙丸さんから教わった呪文があるんでしょ?」


 冥子の言葉に桜の表情が明るくなる。


「あ! 試してみましょう!」


 桜は大きな鏡の前に立ち、深呼吸をする。鏡面は光を反射し、周囲より明るく見えた。


黄泉(よみ)の道、開きて……」


 桜の声が静かに響く。その瞬間、鏡の表面が波打ち、まるで水面(みなも)のように揺らめき始めた。


 突然、桜の体から光が放たれ始める。その光は周囲に広がり、部屋の暗い部分を照らしていった。


「桜っ!」


 冥子が驚きの声を上げる。


 桜の希望の光が黄泉路亭(よみじてい)全体に広がり、魔物の力を弱め始める。天井の影が後退し、空気が少しずつ軽くなっていく。


 客たちは、徐々に正気を取り戻し始めた。彼らの目に、少しずつ生気が戻ってくる。


「効いてる……」


 桜は小声で呟く。


 冥子は、桜の力に驚きながらも、共に客たちに呼びかける。


「みなさん、目を覚ましてください! ここは現実の世界じゃありません。本当の幸せは、外にあるんです!」


 二人の言葉は、客たちの心に響き、闇を払い除けていく。一人、また一人と、客たちの目が輝きを取り戻していく。


 黄泉路亭(よみじてい)全体が明るい光に包まれ、天井の影が完全に消え、壁の不気味な模様も薄れていく。


 光が収まると、魔物の力は完全に消滅し、黄泉路亭(よみじてい)は再び姿を消していた。周囲は元の幽世(かくりよ)ビルの地下へと戻っている。


 客たちは、混乱しながらも、日常へと戻っていく。彼らの表情には、困惑と共に安堵の色が浮かんでいた。


「終わったのね……」


 冥子がほっとした表情で言う。


「ええ、でも……」


 桜が周りを見回す。


「この街の人々の心の闇は、まだ完全には消えていないわ」


「そうね。私たちにできることは、まだありそう」


 冥子が決意を新たにする。


 数日後、冥子と桜は、オカルト研究会部室で今回の出来事を振り返っていた。窓からは、秋の柔らかな日差しが差し込んでいる。


「信じられないような体験だったわね」


 冥子が感慨深げに言う。


「ええ。でも、まだ謎は残ってるわ」


 桜が真剣な表情で答える。彼女の手には、霧雨(きりさめ)市の古い地図が握られていた。


「そうね。霧雨(きりさめ)市の闇……完全には消えていないもの」


「私たち、これからも見守り続けなきゃいけないのかもしれないわね」


 二人は、これからも霧雨(きりさめ)市の闇を見守り続けようと決意を固めた。


 窓の外には、霧が晴れた明るい日差しが差し込んでいる。街の風景が、いつもより鮮やかに見える。


 しかし、その陽光の中にも、かすかな影が見え隠れしているような気がした。新たな謎の予感が、二人の心をそっと掠めていった。


 冥子は窓の外を見つめながら、静かに言った。


「ねえ、桜。私たち、これからもきっと不思議な出来事に巻き込まれるんだろうね」


 桜は微笑んで頷いた。


「そうね。でも、もう怖くないわ。あなたと一緒なら、どんな謎も解けると思う」


 二人は互いを見つめ、静かに笑い合った。部屋に満ちる陽の光が、彼女たちの姿を優しく包み込む。


 霧雨(きりさめ)市の空に、新しい朝が訪れようとしていた。




 =了=

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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