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芽生え<1>

この場所は私をいつでも癒してくれる。嫌なことがあった時、嬉しいことがあった時。この場所は優しく私を包んでくれる。私はこの場所がお気に入りだ。ここなら気持ちよく寝れるからね。寝るのが大好きな私はこの場所を秘密基地と呼んでいる。そろそろ16歳になるのにこんな事言ってるなんて恥ずかしくて言えないけどね。ふと吹き抜けるそよ風が髪を撫でる。慣れ親しんだ草木の匂いに混ざって柔らかい匂いが私の鼻を擽る。春の到来を告げるようなそよ風に木達も喜んでいるように見える。そんな私もいよいよ明日から高校生だ。1番家に近女子高に入った。入った理由?近かったからだよ。それ以外に理由ある?期待とは裏腹にちょっぴり燻る不安感に浮かされながら今日も私はここで眠る。きっと素敵な夢が見れるから。

ーーーーーー


「…さい…!きなさい…!起きなさい…!」


「ふぇぇ〜うーん…?」


母親の声で微睡みから目覚める。とても悪い悪夢を見てた気がする。いつもより気分の悪い目覚めを振り払うようにボサボサの髪を撫でる。


「おかぁーさんおはよぉー」


「早く支度なさい!今日から学校でしょう?」


だらしない私を戒めるようにお母さんが何か言っているが私の耳には入らない。お母さんは凄いや。私は朝なんて全然無理だもの。でも高校は初日が肝心!気合い入れていかなきゃ!もう中学時代みたいに失敗しない!


「え!もうこんな時間なの!?もっと早く起こしてよ!」


「起こしたわよ!そんなこと言う暇あるなら朝ごはんさっさと食べて身だしなみを整えなさい!」


「はぁい!」


母親が用意してくれたトーストを口に咥えながら洗面所に向かう。新生活に向けて気合を入れて買った可愛い犬がデフォルメされているヘアゴムを巻いておさげにする。左よし、右よし!今日も私は可愛い!


「いってきまぁ〜す!」


まだトーストを食べきれない私はトーストを咥えながら学校までの道へと向かう。家から学校までは歩いて10分くらいの距離で、住宅街のくねくね道を道を歩けば学校の裏門が見えてくる。曲がり角で素敵な人にぶつかっちゃったり…そんなテンプレ起きないかな!なんてね。現実はそう甘くないんです…よよよ…


「ギリギリセーフ!!!たしか…私のクラスは1-3組だよね!!」


朝の期待とは裏腹に何事もなく学校についてしまった。逸る呼吸を整えながら自分の教室へと向かう。その道中でとても綺麗な人を見かけた。女性の私ですら目を奪われてしまう。そういえば噂で聞いたことがある。この学校、白百合坂学園には3人の姫がいる。天上に昇るほどの美しさから敬意を込めて「姫」と呼ばれている。1人目は通称「黒百合」腰ほどまでのびる艶のある黒髪に長身で切れ目。クールという言葉を体現したかのような女の子「黒坂 刹那」2人目は通称「翠百合」ハーフでエメラルドグリーンの瞳を爛々と輝かせ、金色の髪を靡かせている。誰にでも明るく接する女の子「一条 アリス」3人目は…っと見惚れてる間にチャイムがなってしまった。慌てて教室に滑り込み唯一空いていた席に慌てて座る。周りの視線が突き刺さる…もっと早く起きればよかった…うぅ…。

恥ずかしさで顔を赤くしているとガラガラと教室のドアが開いた。


「おはようございます。皆さん揃ってますね。」


私たちに投げかけられた透き通るような声で教室は一気に静まり返った。そう。この人こそ3人目の「姫」……


「改めまして皆さんおはようございます。1-3組担任の成瀬 天乃です。皆さん緊張しているでしょうが1年間このメンバーで過ごす事になります。早速ですが皆さんに簡単に自己紹介をしてもらいましょう」


クールな見た目からは想像できない優しい笑みのギャップにこんなに可愛い人いるんだぁと浮ついた気持ちになってしまった。がんばれ私!1人で会話をしている内にとうとう私の番になってしまった。


「さ、早乙女 音羽です!読書と…あと…あと寝ることが大好きです!!」


早口で言ってしまった…私のバカ!私の学校生活終わった…絶望感に打ちひしがれていたら全員の自己紹介が終わってしまった。誰1人名前覚えてないや…ぐすん…。その後の始業式も何も覚えておらず学校が終わった私は速攻で抜け出し秘密基地へと向かった。目を閉じてても溢れてくる涙を拭きながらどすんと座り込んだ。


「こんにちは…?なんで泣いているの…?」


心配そうに話しかける女性に泣いていた私は気づく事ができなかった。慌てて涙をこすり振り向くとそこには…


「えっ…黒坂…さん?」


「私の名前…知ってるの?」


そこには3人の姫のうちの1人「黒坂 刹那」がいた。

気が動転した私は何か言い訳をしようとしたが、違和感に気づいた。彼女の目が腫れていて、頬に薄らと涙の跡があったのだ。


「く、黒坂さん…な、なんで泣いてるの…?」


彼女の質問を遮るようについ聞いてしまった。


「泣いてなんか…いないわ。なんでもない。そう…なんでもないの…あなたこそどうして泣いているのよ」


彼女のセリフとは裏腹に悲痛な表情で今にも泣き出しそうであった。


「私は…失敗しちゃったんだ…今回もダメだった…」


ふとここで強烈な既視感を覚える。このセリフ…私…何回も言ってる…?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「秘密基地」での彼女との邂逅。偶然なのか、それとも必然なのか。早乙女は3姫の1人と出会うことができた。否、出会ってしまった。それが破滅への道とも知らずに。太陽は残酷に時の流れを告げる。木々が覆いつくそうとも木漏れ日は容赦なく降りかかる。それはまるで…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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