第六話 承『べるべるおじさん』
「「第五回」」
「ジェシカと……」
「アルフレッドのー」
「「前回のあらすじ」」
ジェシカは上機嫌に手鏡を覗き込んでいる。
「それだけ見てるとナルシストみたいだな」
「失礼ですよ」
ようやく笑顔になれたのだから仕方ないかもしれない。
ジェシカは自分自身の表情に興味津々なのだ。
「またあらすじは任せて良いですか?」
アルフレッドは前回地面に叩きつけた本を拾って捲る。
「えーと、ピラ公園に行ったジェルンとジェシカ。昨日ガイと約束したからだ。すると、公園でニョン公園の番長トーマスとガイが戦っていた。理由は不明だが、約束の相手でもあり子分にされているためガイの味方となってトーマスを撃退。トーマスは仲間達に見捨てられ置き去りにされた。惨敗したことでトーマスが舎弟になることを懇願し、それを受理。ソフィアがクッキーを配り、包み紙を開くとサーカスのチラシ。サーカスに行きたいと言うが、ファミリー向けの価格では子ども達には資金が足りない。そこで、アルフの師匠ヘルメスの研究所を頼ることにした。その日はそれで解散とし、翌朝再集合することに。帰ると火を吸ったジェルンとエリーゼ。二人は夜のデートへ。許嫁のケリーの話が出てきたが、彼女は若年性のアルツハイマーでアルフレッドの事は全て忘れていた。気まずさを残しつつ劇場へ行くと、劇場にはエリーゼのもう一つのやりたいことがあった。自分の人形で人形劇をすること。人形師となるルーツであるラック伯爵夫人の人形劇の人形を眺め、しばらくして戻る。すると、ジェルンは少女の演劇の練習に付き合っていた。『アーサムの火蓋』という名作の名シーンを思い出し号泣。そうして帰ると、ジェシカが火を用意していてくれた。火を吸い込み、三人並んで床に就く。昔話の『龍の乙女』の話に出てくるアンダーソン。よほどおかしかったのだろう。ジェシカはようやく笑顔になったのだった」
「えへへ」
ついつい甘やかしてしまうのだった。
フレデリカの家から北へ、聖教会より南、劇場の西に位置する場所にヘルメス様から管理を任されていた俺の研究所はある。
「ものの見事に荒らされているな」
玄関は破られ、床に散らばった研究資料。
机の上の物はほとんどが亡くなっており、私財を投じた機材も失われていた。
「おそらくは魔女裁判後に聖教会の手が入っているな」
時代を先取りすぎた錬金術師の末路ということだろう。
「とはいえ、やはり私財を投じて改修した地下室にまでは気が付かなかった様だな」
暖炉の中の薪を退けて、灰を脇に寄せる。
すると、そこには点検口の様な蓋が現れた。
それを引くと、地下への階段が現れた。
「さて、ジェシカ。みんなを呼んできてくれるか?地下を案内するからさ」
手に松明を持ち照らしていく。
壁掛けの燭台があるので、都度燭台に松明を寄せてやり明かりが完全に確保されるとそこにはまだ荒らされていない研究室があった。
「この机の物は売り物には程遠いだろう。だが、そっちのショーケースに飾ってある鉱石なんかは宝石の原石だったりするから、袋にでも入れて纏めて持っていこう」
「宝石!?」
ソフィアがやけに食い付きが良い。
年頃の女の子だからこそ、そういったキラキラしたものが好きなのだろう。
「その辺は纏めて換金するつもりだけど、そうだな。ここの水晶辺りはそこまで価値は無いし、良かったら貰ってくれるか?」
全く価値がない訳では無い。
ただの透明な水晶も有れば、紫水晶というアメジストの原石まであるのだ。
「わぁぁぁ!ありがとうジェルン!」
キラキラしたものを両手いっぱいに持ち、幸せいっぱいの様子のソフィア。
ガイとトーマスはせっせとジェルンの指示の通りに金品を袋に詰めていった。
そして、ノイマンは蔵書の一つを手に取り目を輝かせていた。
「えええ!この本って絶版のやつじゃ……!?こっちも!」
本棚には錬金術の思想として昔の哲学者が書き残した書物が並べられている。
ヘルメス様は多角的に見られる方だった。
だからこそ、様々な意見を求めて多くの弟子を受け入れた。
「その書物は売るわけにもいかないし、譲ることも出来ない。これは別で持って帰ろう。読みたければまた次の機会に読ませてやろう」
「ありがとう!」
ソフィアは宝石、ノイマンは書物に興味を持った。
ガイとトーマスはあまり俗物的な物は好まないのかもしれない。
「あぁぁ!」
ガイの驚きの声。
何かと思って目を向けると、そこにはアルフレッドが現役で軍属していた頃の軍服と帯剣が置いてあった。
「すっげぇぇぇ!本物の剣だ!」
「それは形見だから渡せないんだ」
「べ、別に欲しいなんて言ってないだろ!?」
そうは言いつつも、目は正直である。
「少し振ってみるか?」
「良いのか!?」
ガイは剣に夢中になり、作業が疎かになったが、荷の用意は出来た。
「じゃ、質屋に行こうか」
質屋は川を挟んだ大通りに面している。
子ども達が金品を持ち歩くとなると不審に思われるかもしれない。
盗品の恐れがあるからだ。
しかし、そこは抜かりが無い。
なぜなら、この質屋はその辺を気にしない代わりに足元を見るからである。
「まいどおおきにー!ジェイクの質屋へようこそ!ほほーう、中々高価な品々やね!ウチじゃなかったら買い取りしないと思うんやけど、ウチは怖いもの知らずやさかい冒険心やね!けどまあ、足元は見るんやけどなー!」
ジェイクとは生前からの付き合いである。
だが、今となっては昔ながらの付き合いを強調もできまい。
方や人形なのだから。
「ジェイクさん、一応状態を見ましたけどどれもちゃんと管理されたものの様です」
質屋に見慣れない人物が居た。
店員はジェイク一人だったのにどういう気の変化なのか、従業員を雇ったらしい。
赤髪に糸目の線の細い青年だ。
「モーリス、シーやシー!お客様ぁ?他で買い取りは出来まへんのやろ?気ぃ変わらん内に買い取りさせてもらいますさかい……ね?」
本当に身震いするほど足元を見られた。
もっと高価なはずの品々が鉄くずと同じ様な価格まで落ちた。
すると、モーリスがジェイクの弾いたそろばんの桁を一つ高く見積もってくれた。
「適正価格で行きましょう。きっと彼らはこの恩に報いてくれますよ」
「だぁぁぁあ!こんのボケナス!余計なことしてくれさって!赤字になるやろうが!」
「赤字にならないために、ギャンブルは控えましょう」
「ウチの生き甲斐やねん!次は勝つねん!先行投資やねん!」
モーリスは紙幣を差出す。
「勝つなら問題無いですよね」
「だぁぁぁ!また口車に乗せられたぁぁぁ!ほんまになんやねん!」
モーリスとジェイクが口論している間にモーリスが手で出口へと払う。
こんな事をしていたらクビにされそうなものだが、なにかそうするに至れない事情というものがあるのだろう。
無事に夕方の公演に間に合うことができた。
サーカスはドーム状の作りになっていて、全長百メートルもの広さを持っていた。
全員分のチケットを買い扇状に階段式となっている最前列の席に並ぶ。
今か今かと興奮気味に待つガイとソフィア。
ノイマンとトーマスは落ちついている。
ジェシカは当人が気が付いていないかもしれないが先程から足をプラプラとさせていて落ち着きが無い。
きっと楽しみなのだろう。
開園の音楽が鳴り響く。
ピエロが大玉を転がし、不協和音のトランペットを吹き鳴らし盛大にコケる。
ドッと笑いが起こり、次いで演奏者達が垂れ幕の向こう側から現れる。
そこには、アコーディオンを吹き鳴らすチンパンジー。
シンバルを叩くゾウ。
ワニがカスタネットを鳴らし、不協和音が不協和音を巻き起こす。
しかし、動物が楽器を奏でているという一芸としては完成されており、ピエロの一挙手一投足に誤魔化されて観客は大いに盛り上がった。
次は少し危険な芸。
動物達がトランポリンをして対岸へと渡るのだ。
チンパンジーが大きく跳ね、チーターが大きく跳ね、ウサギ、猫、犬と来てピエロが盛大に失敗。
ソフィアもガイも腹を抱えて過呼吸気味に笑っている。
最後はフィナーレを飾る。
猛獣たちの火の輪潜りである。
しかし、おかしい。
メインを飾る火の輪潜りの猛獣が現れなかった。
会場はどよめきに包まれる。
当然だ。
それがこのサーカスのショーの目玉だったからだ。
チラシに描かれたライオン。
しかし、ライオンが居ないのである。
これにはガイとソフィアががっかりしていた。
「うそだろぉー?」
「ええー、そんなぁ」
対してノイマンとトーマスは腕を組んで互いに話し合う。
「怪我……でしょうか?」
「病気かもしれないね」
目玉ショーの主役無しとなれば、これほど盛り上がりに欠けるものもないだろう。
だからこそ、とんでもないことを言い出す者が居た。
「こっそり中に忍び込んでライオン見に行こうぜ!」
ガイである。
「えー、良くないよ」
「そうだよ」
やいのやいのと言いつつも結局ガイに流されて不法侵入してしまうのがソフィアとノイマンである。
彼らは宛にはならないだろう。
トーマスに目配せする。
トーマスは俺の視線から察した様子だ。
「もう日も暮れて遅いし、家の人が心配するのではありませんか?」
ナイスだ!
そう思ったのも束の間。
「もしかしてトーマスお前ライオンが怖いのか?」
ガイの安い挑発。
しかし、これはムカついてもしょうがない。
ガイの表情たるや見下しているというのを形容するに相応しいものだったのだ。
「兄貴!」
トーマスの訴えに、どうにもならないのだと折れるしか無かった。
止めた所でこの悪ガキ三人は勝手に行くだろう。
監視するという名目で同行するしかないのだ。
サーカス終了の横断幕。
悲しい曲が流れ、途中でピエロが失敗したような不協和音が混ざる。
最後まで楽しく終わり、子ども達は横断幕の中へと身を投じた。
すると、あろうここか先程までとはまるで違った構造になっていた。
サーカス団のドーム状の建物は建物ごと移動することを念頭に設計されている。
今日が最後の公演会だったためなのかもしれない。
手際よく横断幕と一緒に片付けられてしまったのだろう。
その証拠として、木の板が壁に立てかけられていた。
近日中に完全に撤退するのは分かりきった話だった。
「なんだか寂しいね」
有ったものが無くなっていく寂しさに共感できるものはある。
この中で俺は一番この国の変わり用を見てきたからだ。
少なくとも、アルフレッドとして生まれて数年は魔女狩りなんてものもなかった。
近年で大きく変わったとも言える。
「おい、みんな!見てみろよ!」
ガイが何かを見付けたらしく、大きく手招きする。
「なんだよ。どうし……た……の?」
そこには、何かに食い千切られたピエロの亡骸が倒れていた。
「わぁぁぁ!」
ノイマンが叫び、次いで猛獣たちの声が呼応するかのように響いた。
檻の中で暴れるような金具を揺らす音。
ここに居る猛獣たちは全て檻に居るみたいだった。
では、いったい何が。
考えるまでもなく、ショーに不参加だったライオンだろう。
だとしたら不味い。
このフランツベルン神聖国のどこかにライオンが居るのだ。
「急いでここを離れよう」
全員賛成の様子だった。
「ライオンがこの街の何処かに」
ソフィアとノイマンが怯えた様子で過剰とも言えるぐらいに辺りを見回している。
あっけらかんとしているのはガイのみであり、トーマスもどこか緊張感を漂わせていた。
「一人で帰るの怖いよ」
ソフィアがそうこぼす。
そうなれば話は早い。
「へへ、今日は全員俺が送って帰ってやるって」
ガイがそう言うけれど、それは気休めにしかならない。
家の中に居てもその猛獣には意味が無いのかもしれないのだから。
「こうなれば一番安全に帰るには……」
思いつくのは魔女の協力である。
一番最初にフレデリカの家に集まった。
そこで、俺だけ入って部屋の四隅を探す。
「あ、居た居た」
小さな蜘蛛に指を伸ばし、蜘蛛が両前足を上げて乗ってきた。
「ふふっ、どうかしたのかしら?」
事情を説明する。
「ふふっ、あらあら、ライオンが逃げちゃったのね。良いわよ。それで、彼らを守って上げる変わりに貴方は何を私にくれるの?」
そこが困りどころである。
彼女は何を喜ぶだろうか。
「ヘルメス様がコレクションしていた書物でどうだろうか」
彼女は少し考える素振りをしている。
「ふふっ、あまり興味は無いのだけど……これを機会に読書でも趣味にしようかしらね」
了承を得た様だ。
蜘蛛を四匹。
ソフィア、ガイ、ノイマン、トーマスに密かにくっつけた。
その上でそれぞれの家へと送り届けた。
このままライオンを野放しにしておくのは本当に危ない。
けれど、ライオンとなると自分の力でさえも足りないだろう。
ピエロの亡骸もあったことだし、明日には大事になっているだろう。
そうなったら聖騎士団に任せるのみである。
明くる日の事だ。
聖騎士団は通常稼働。
ましてやサーカスは完全撤退。
事は明るみにならず、大事にもなっていないのだった。
逃げ出したライオンは果たしてちゃんとサーカスに帰っていったのだろうか。
逃げ出したライオンを果たして昨日の段階で聖騎士団が捕獲したのだろうか。
騒ぎになっていないということはつまりはそういう事になる。
しかし、ライオンの逃走が明るみにならず、サーカスが管理責任から逃げ、聖騎士団はその事を知らないのだとしても辻褄が合う。
悪ガキ三人は果たして外に出ることを我慢出来るのだろうか。
こういう心配は良くない方で当たるものである。
性懲りもなく、彼らはアジトに集まっていたのだった。
こんな奴らをどうやって守れば良い。
一日眠ればころっと恐怖を忘れてしまった様だ。
単純な奴らめ。
今日は危ないと思ってジェシカは連れて歩いていない。
いざというときのために箒を携帯している。
戦っても無謀だと分かっているから、始めから逃げるつもりの備えである。
「昨日、帰ってから俺は考えたんだ!」
嫌な予感しかしない。
「ライオンを俺たちで捕まえよう!」
ほらこれだ。
それ見たことか。
「ジェルンは乗り気じゃなさそうだね」
こういう事は真っ先に嫌だと言うだろうノイマンが何故か乗り気だ。
勘弁してくれ。
「子分のくせに俺の決定が気に入らないのかよ?」
「気に入らないに決まってるだろ」
いざというときのために蜘蛛の魔女に頼んであるとはいえ、それでも小さな蜘蛛にどこまで出来るか疑問である。
全幅の信頼を寄せるには難しいのだ。
「作戦はこうだ!」
ソフィアが書いたクレヨンの絵を見せられる。
黒い檻に真っ赤な肉を入れて全員でバンザイしている。
自信満々の彼らには悪いが、思慮が浅いと言わざるを得ない。
ここまでの過程が省かれているが、罠のあるところまでどうやって誘導するつもりだろうか。
檻はどうやって運ぶつもりだろうか。
そもそも、檻はどこで買えるのかこいつらは知っているのだろうか。
「そこで、トーマスの家で犬用の檻が有るらしいから取ってきて貰ってる」
「犬用に入ると思ってんのか」
「おっきな猟犬のためのものなんだってさ」
強度はともかく、それなら入りそうである。
「あっれ〜?もしかしてジェルンびびってる?」
ガイのその顔は反則だと思う。
ハッキリ言ってウザいのだ。
私は貴方を煽ってます。
見下しています。
というのが物語られている。
非常にムカつく顔面。
殴りたい衝動。
我慢する理由もないので顔面を殴っておく。
「ぶぇっ!!」
仰向けに倒れたガイ。
「今のはガイが悪いよ」
「私もムカつくもん」
ノイマンとソフィアは頷いていた。
現実的な作戦を考える。
ガイの作戦に並行してライオンを捕獲するにはどうしたら良いか。
超常的な力さえ使えれば最も安全に捕まえることが出来るだろう。
フレデリカやドロシーに協力を要請するのだ。
しかし、フレデリカは折角苦労して無垢な魂を渡したばかりである。
ここで無駄に存在力を失わせる訳にもいかない。
ドロシーにしても、ライオン捕獲となれば本程度で説得に応じてくれるか分らない。
超常的な力で言えばエリーゼのポルターガイストもそれに当たるが、物をテキトーに飛ばすだけなのに捕獲まで出来るのかは定かではない。
この中で最も安易で実現可能なのはドロシーとエリーゼへの協力要請だ。
そう結論が出たので、アジトのその場で小声でドロシーを呼んだ。
「ドロシー」
「ふふっ、どうしたのかしら?」
小さな蜘蛛が耳元に登り囁く。
「ライオンの捕獲を手伝って欲しいって言ったら交渉材料は何で引き受けてくれる?」
蜘蛛が耳元で前足をパタパタと動かす。
「ふふっ、ま、そうね。貴方から貰った本を少し読ませてもらったけど、興味深い事が書かれていたわね。ふふっ、続編はあるのかしら?続きがあればそれで引き受けてあげようかしらね?」
続き。
そう聞いて本が置いてある場所を考え老ける。
本はバラバラな場所に保管されている。
アルフレッドとしての実家。
それから、借家。
許嫁のケリーの家。
エリーゼの実家。
エリーゼとの研究所。
各所様々な本が置いてある。
「なら、ここからだと許嫁のケリーの家が近いから、そこの本を交渉材料にする」
「ふふっ、交渉成立ね。この後この子たちを守りながらそのケリーって人のお家に行きましょうか」
「ガイ、ライオンを捕まえるために必要なものを用意してくる。だから、作戦開始はもう少し待ってくれ」
「おんやぁー?」
怪訝な顔。
いや、これは挑発だ。
完全に舐められている。
「ジェルンびびってんじゃねーの?」
子どもは学習する者とそうでない者に分かれる際に顕著な差が生まれる。
ガイはそうでない者だった。
懲りずに煽った結果は言うまでもない。
顔に拳、目から涙。
ガイは痛みに無言で床を転がった。
「学べ」
ソフィアもノイマンも学ぶ側の様である。
学ぶならせめてライオンについても一日で態度を変えるのはやめていただきたい。
せめてご両親にライオンについて聞いてからにして欲しい。
「だって、もし捕まえたら父ちゃんがヘソで茶を沸かすって言うから」
この子どもにしてその親あり。
きっとあのムカつく表情に煽られたに違いない。
「あ、お父さんと言えばこの前僕のお父さんがさ」
ノイマンが指を立てて得意気に話し始める。
「近所に魔女が出たかもしれないって家から飛び出して、幽霊と戦ったとか言ってたよ」
「じゃあ、その幽霊も次いでに捕まえようぜ!」
「えー、出来るかなぁ?聖職者の人でも無理だったって言ってたんだよ?」
不意に過るのはエリーゼと敵対していたあの一般人であるトールだ。
世間は狭いとは言うが、ノイマンの父だった様だ。
「へへーん、俺の父ちゃんなんて魔女を見たって言ってたぜ!」
「えー、凄い!どんなのだったの!?」
ガイは得意気に胸を張る。
「なんか、氷めちゃくちゃぶっ飛ばしてたらしい。父ちゃん足を凍らされて凍傷になったとか言ってずっと暖炉に居たんだぜ?」
「うわー、氷の魔女ってやつかな?凄いねー!!」
ノイマンとガイの父の話はチクチクと刺さるものがある。
『俺、わさび食ったことあるんだぜー!』
『俺、からし食ったことあるんだぜー!』
なんていうのは君達読者も身に覚えがあるだろう。
いきなりメタが入るな白けるからって?
無茶苦茶言うな。
コミカライズ目指すならメタの1つや2つ入ってて当然だろう。
「今の子どもの見栄っ張りは魔女か」
「見栄っ張りじゃないぜ?俺も魔女みたいなおっさんに会ったんだぜ!」
魔女みたいなおっさん。
氷の魔女レディグラスとエリーゼと同時に暴れていた人物と言えば彼しか思い当たらないだろう。
「すげーおっさんと話したんだぜ?」
「俺はベルヴィル……クールだろう?」
髪をワックスでセットしながらベルヴィルはガイの傍ら氷の破片を払い除ける。
関与した子どもを守ろうとしてのことだ。
「べるべる?」
甲高い音を響かせて割れる氷の音に紛れてちゃんと聞こえなかったらしい。
「親しい間柄じゃねーんだぞ?下唇噛めヴィだヴィ。そしたらクールになる」
「ヴィるべる?」
「逆だ逆。そのまま逆さにしろ。クールの欠片もねぇ」
「ルベルィヴ?」
「全然クールじゃないぜ」