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第三話 転『俺がどうしてもって頼んでるんだよ!』

「「第二回」」

「ジェシカと……」

「アルフレッドのー」

「「前回のあらすじ」」

アルフレッドは前回同様にジェシカを抱える形で方々に向き合っている。

「なんとか笑わせらんねえかなこいつ」

アルフレッドはジェシカの頬を人差し指で上に押しやる。

「やめてください。そんなに仮初な笑顔が欲しいのですか?」

「いらないけどさ」

「なら、やめましょうよ」

アルフレッドの手の内から逃れるようにしてジェシカはペラペラと前回の物語を捲る。

「待て」

「待ちません」

そのまま走るようにして語り始める。

「教会跡に向かったエリーゼとジェルン」

「まさかの語り部交代に読者は困惑。なんと、エリーゼとアルフレッドの二人主人公だったのだ!」

「汚い笑いの棺と目元が怖いベルヴィル」

「怖いとか分かるのか?」

「分かりません。茶々を入れないでください」

こんな子どもに嗜められた。

「二人の主人である試練の魔女の親友であったという人間ダマスカスが魔女裁判にかけられる事になるらしく、ベルヴィルと棺は彼女を逃したい様子。しかし、試練の魔女は計画を待たずして死亡。代わりの主人として氷の魔女レディグラスが彼らを引率して他の魔女に脅迫する形で協力要請。その後、エリーゼと合流したジェルンだったが、蜘蛛の魔女の出現により生理的に無理になったエリーゼが逃走。1人取り残されたジェルンは蜘蛛の魔女からの協力要請によりフレデリカの存在感が薄い理由を知ってしまう。帰ってきたジェルンを待っていたのはエリーゼとジェシカ。彼の目には二人しか写っていなかった。その事実が彼に覚悟を決めさせる」

本を閉じたジェシカ。

「見事だ。特に注文付けようがない。強いて言うなら笑顔かな」

「注文付けながら何を言ってるんですか」

「このやり取りが無駄に思える様だな」

ジェシカは分かっているならばなぜと首を傾げる。

「目的がコミカライズだから、コメディ調の方が書きやすいだろ」

「前にも言いましたが気が早すぎます」

空模様は急激に変化し雨が降り注ぐ。

ジェルンの様子は相変わらず変だが、彼から伝え聞いた陽動作戦で緊張しているのかもしれない。

今回の作戦の要としてフレデリカから言い渡されたのは私のポルターガイストの力を使うことだった。

確かに注意を引き付けるのにこれだけ有用な力も無いだろう。

フレデリカとしては、相変わらず私の遺体の保管に力を注ぐらしく、私とジェルンに任せるらしい。

「ねえ、ジェルン……緊張してるの?」

ジェルンは首を横に振る。

「そういう訳では無い。……なんでもないんだ」

なんでもない人はそんな辛そうな顔はしない。

内心そう思いはしたが、今後も注意深くジェルンの事を見ておく事にした。


食事を自分で用意するようになったジェルンの側にジェシカと行く。

物理干渉の出来ない私には火起こしに用いれるのはポルターガイストが精一杯だが、そこまで緻密な操作は出来ないうえに、存在のための力が失われている時にはポルターガイストが使えないので、食事を取ろうと思った際にはジェルンに炎を用意して貰うことにしよう。

彼が自分で用意するようになったということは何か理由があったに違いないからだ。

「ねえ、ジェルン……蜘蛛の魔女と何かあったの?」

ジェルンは火打ち石を叩きつけ、藁を火灯す用意をしながら口を開く。

「俺とエリーゼが初めて会った時の事を覚えているか?」

話題を逸らされた。

やっぱり蜘蛛の魔女についてが核心の様子だった。

「初めて会った時のお前は無口で自分勝手で妄想ばかりのちょっと頭のおかしな女だった」

「キャー!やめて!恥ずかしいからやめて!」

好きな人からの形容が頭のおかしな女というのは中々に傷付くものがある。

しかも、ジェシカの前で言われれば恥ずかしさも勝る。

「お前は俺の顔を見るなり人形を手に取り」

『僕はアンダーソン。エリーのお友達だよ!君は誰?』とアルフにやった記憶は鮮明に残っていた。

「やめて!!本当にやめて!!」

「アンダーソンは良いやつでな」

「むぐぐぐぐぐ!」

私は恥ずかしさのあまり、ジェシカを盾にする。

「わ、私ジェシカ……アンダーソンは失敗作……燃えて灰になったでしょ!?」

「やめましょうよエリーゼ。みっともないですよ」

ジェシカに諭され、力無く項垂れる。

「うわぁぁぁん!!」

「「煩い」」

ジェルンが火を起こした所で茂みの方から物音がした。

「なんだ?」

ジェルンが茂みの方へと歩を進めると、そこには隠れるようにして両手に枝を持った子ども達が居た。

「うわぁぁ見つかったぁぁあ!」

「だから、勝手に人の私有地に入るのはやめとこうって言ったじゃないか!」

「ガイが探検だなんて言うからこんなとこに!」

「ばっ、バカ!ノイマンとソフィアも乗り気だったじゃないか!!」

ガイ、ノイマン、ソフィア。

それぞれが自分達の名前を暴露したので、こういう悪さをする子ども達について思い当たった。

錬金術師とはいえ軍属していたため、研究にばかり明け暮れていた訳では無い。

街で問題が起これば駆り出される事もしばしばあったのだ。

そして、生前のアルフレッドは彼らの名前を聞いたことがあった。

近所の悪ガキ三人組である。

彼らは今回のような人の敷地に忍び込む事は勿論、農作物を荒らしたり、お年寄りを騙したりなど目に余る所業の数々だ。

このままではロクな大人にはならないだろう。

「お、俺は悪く無い!だって、魔女を探してたんだぜ!?」

茶髪を逆立て顔に絆創膏を貼った見るからにやんちゃ坊主だ。

成長を見越してぶかぶかの服を着ているガイがそうやって同意を求める。

ガイがそうやって言うとノイマンが頷いた。

「確かここは空き家のハズなんです。だから、人が居るなんてあり得ません」

ノイマンは七三分けでヘアセットされた黒い髪、細い黒眼にかかる丸メガネ、カジュアルな服装の上にカーディガンを着ており、良い物を与えられている感がある少年だ。

その辺の言い訳をフレデリカなら用意していたかもしれない。

ただの居候であるジェルン、ましてやジェシカには早々に思い付かなかった。

だからだろう。

ジェルンの沈黙。

ジェルンの宝石の様な容姿にうっとりと呆けていたソフィア。

赤茶げた髪は肩まで伸びており、髪と同色の瞳がまだまだあどけなさを見せる。

桃色のワンピースが大きく揺れる。

唐突に何かを感じ取ったのか、全身を震わせて腰を抜かした。

「もしかして、この人達……偉い貴族とか王族で、お忍びなんじゃないかな?」

物言わぬジェルンとジェシカに勝手に勘違いした様子だった。

一先ずそれに乗っておく。

「そうだ。俺達は……隣国のイリキスから外交で訪れた。第三王子ジェルンと第五王女ジェシカだ」

「やっ、やっぱりそうなんだ!?」

「あ、逃げんなノイマン!」

「僕は知らないよ!!だから打首だけはやめて!!」

ノイマンがガイとソフィアを置いて早々に逃げ出す。

非常に賢明である。

だが、やんちゃそうなガイはガキ大将としてのプライドなのだろう。

逃げようとはせずに、茂みから飛び出してきてジェルンに指を向けた。

「お、俺と勝負しろ!」

ガイは茂みの方からガサゴソと音を立てて木の棒を二つ手に取った。

「俺とチャンバラごっこして先に攻撃を受けた方が相手の言う事をなんでも聞くってのでどうだ!!」

「どうだも何もないだろう。さっさと帰れ」

「俺が怖いのか!!」

引っ込みが付かなくなったのだろう。

「へへっ、俺が勝ったらそうだな。そこのお姫様を子分にしようかな。どうしてもって言うならお前も子分にしてやっても良いんだぞ?」

ムキになっているとはいえ子ども相手に本気でチャンバラなんてしようとは思わない。

しかし、なんでも言う事を聞いてくれるというのなら、ここでの事を口外しないように約束させるのも良いのではないかと思考が過る。

ジェルンが何も言わずに考えていると、ガイが二つの木の棒を振り回して来た。

まさかのまさかである。

「一本は俺に渡すつもりなのかと思ったけどそうじゃないんだな」

「先手必勝!!」

不意を突かれた良い手である。

実力差の有る相手には獲物を持たせてはならない。

とはいえ、元軍属と子ども。

棒を持ち振り下ろされたガイの腕を掴み、足を引っ掛けて背中から転ばせると力いっぱい押し込んでガイの首元に当てた。

「俺の勝ちだな。ここの事は口外するなよ」

ガイは藻掻いて脱出する。

「俺はまだ負けてねえ!!」

「潔く負けを認めろ」


それから、日が暮れるまでガイはジェルンに棒を振り回した。

背中から倒れて肩で息をするガイ。

対して涼しい顔をしたジェルン。

「くっそぉ……悔しい……全然当たらない!なんでだよ!」

その頃にはソフィアはジェシカと一緒に観戦に回っていた。

私もそこに参列しているが、体全体が非常に薄くなっている。

火を補給して存在感を維持していないからだろう。

「ジェシカ、暖炉に火を焚べてきてくれないか」

ジェルンがそう言うと、ジェシカは頷き火を松明に移して室内へと持って入っていった。

ジェルンが私に目配せをしたその時、ガイが起き上がってジェルンに再び攻撃を仕掛けていた。

またガイがやられる。

そう思った。

しかし、それは起こった。

ジェルンが膝をついたのだ。

横薙ぎのガイの木の棒が空を切り、ガイはくるくるとその場で回る。

「くっそー……もう一度だ!」

ジェルンの左腕が力を失ったかのように垂れる。

「……不味いな」

存在感を補給していないのはジェルンも同じだった。

そのため、薄れた今はジェルンという人形に干渉する力が失われつつあるのだろう。

「ジェルン!」

叫び、駆け付けようとするがエリーゼはジェルンに触れる事が出来ない。

強かにジェルンのこめかみに木の棒が当たる。

「……当たった?」

信じられないといった様子のガイはこみ上げる手のひらの実感にガッツポーズ。

「やった!勝った勝った勝った!」

得意げにジェルンを見下ろすように向き直るガイ。

「お前も中々強かったけど、やっぱり俺が一番強かったな!」

満面の笑みに返す言葉もなく、ジェルンはまだ力の込められる右手を差し出す。

「しょうがないな。ジェシカの友達になってやってくれ」

「おう!それから、お前もだぞジェルン!」

手を重ね合わせ握りしめる。

「どうしてもとは頼んでないが?」

ガイは木の棒を地面に立てて言う。

「俺がどうしてもって頼んでるんだよ!」

この先余計なことを言いふらされるよりかは、目の届く範囲で好きにさせておくべきだと思ったのか、ジェルンは精一杯の力を足に込めて立ち上がる。

「分かったよ」

「よーし、そうと決まったら明日ピラ公園に集合な!」

ソフィアが健闘を讃えた拍手を送る。

「じゃあ、アジトにジェシカとジェルンを招待するんだね?」

「ああ!明日の夕方にだぞ!忘れるなよ!バイビー!!」


子ども達が帰った後で、ジェルンとエリーゼの口元に火を寄せてくれたジェシカ。

「子ども相手にムキになりすぎだよジェルン」

私が嗜めるようにして言うと、ジェルンは炎を見つめて言う。

「男には引けない時っていうのがいくつもある。ガイのやつもそれだ。負けず嫌いのプライドだけはいっちょ前だってみとめてやらないとな」

「もー、心配したんだよ?」

炎を吸い込み、ジェルンの瞳が強く煌めく。

「ありがとうジェシカ」

「いいえ」

「明日の夕方にピラ公園って言ってたけど」

「ああ、どうもそういう事らしいな」

いつの間にかジェルンの様子が明るいものになっていた。

先程まで何かに追い詰められていたのにである。

物事を忘れる程に没頭していたのだろう。

「心配かけたな。ジェシカ、アンダーソン」

「やめて!アンダーソンはやめて!」

「僕はアンダーソン。エリーのお友達だよ」

ジェシカがジェルンの真似をして言ったことで、くすくすと笑うジェルン。

「娘に変なこと覚えさせないでー!」

誤魔化された様な気もしたが、彼が言いたくないものを無理に聞くことも出来ない。

「時が来たら教えてね?」

「さてな、一生言わないかもしれないぞ」

突き立てられた棒切れを見つめるジェシカ。

「どうかしたの?」

私が問うと、ジェシカはガイの真似をする様にして棒を掴んで振り回す。

少し、そうやってジェルンを見た。

「チャンバラごっこ……やってみたいのか?」

ジェシカは首を傾げる。

「分かりません」

「娘に変な遊び教えないでー!」

ジェルンが喚く私を見ている。

「ジェシカが初めて何かを自分からやろうとしたんだ。応援してやるのが親心じゃないか?」

もっともらしいことを言われて私は何も言えなくなった。


「ふぐぅ、なんだか娘が変な遊びを悪ガキ達に教えられそうで気が気じゃないよ」

フレデリカを交えて話をする。

「そう、子ども達がこの敷地内に……この場所も潮時かしらね」

数刻の沈黙。

風が窓を揺らす。

否。

風ではなかった。

窓の隙間からすり抜けてくる大小の蜘蛛が窓を揺らしていた。

「開戦の合図のようね」

フレデリカの言葉と共に私は立ち上がる。

「行こう!」

ジェルンも一緒に動き始めていた。

「西から逃がすから、私達の位置からなら東に向かうのが良いかな?」

真逆の位置で騒ぎを起こす。

フレデリカが壁掛けの道具を引っ張り出す。

「これを持っていきなさい」

それは竹箒とフード付きのローブだった。

「それがあれば空を飛べるわよ」

「なんだか絵本の魔女っぽいね!」

フレデリカは口角を上げる。

「本物の魔女なのよ」


箒に跨がる私と、その後ろに跨がるジェルン。

「ふぐぐぐ」

物理干渉出来なかった。

「魔女っ娘みたいに箒で飛べると思ったのに!」

「そんな事をしなくてもお前は飛べるだろ幽霊」

「そうだけど……」

箒に跨がるジェルンと並行して東に向かう。

すると、既に東の方面で教会関係者に群がる蜘蛛達や、氷漬けにされた人々が見えた。

「エリーゼ」

ジェルンに言われて私もポルターガイストで騒ぎを加速させる。

「これなら俺はいらなかったかもな」

上で様子を眺めるジェルン。

私が植木鉢やベンチ等を浮かせて物音を立てていると、その騒ぎを聞き付けて誰かがやってきた。

「魔女め!どこに居る!」

建物の影から現れるその男は、黒い髪をペッタリとヘアローションで硬めてツーブロックに刈り上げられた右側面を見せている一方で左に髪を流しており、肩まで伸びたその髪がポルターガイストの影響で揺れていた。

黒とグレーの縦縞のベストと黒い腰巻きのエプロン。

バーテンダーの様な装いである。

彼は夕暮れの空に居るエリーゼを見つける。

グレースケールの体は半透明と言えども、景色に反して強く浮いたものに見せた。

「なんだこいつは!?」

驚きの直後の硬直。

その人物のこめかみにぶつかる植木鉢。

「あ、ごめんなさい」

「ぐっ……」

膝を付き、何やら懐から瓶を取り出して空に掲げる。

「聖水をくらうがいい!化物め!」

その瓶がポルターガイストに奪われて近隣の建物にぶつかる。

情けない音を立てて水が壁に散らばった。

「なんだこいつは?」

私の後ろでジェルンが呟いた。

見たところ聖職者という訳では無い。

格好からして、ジェルンが務めていた軍に近い。

それなのにジェルンが知らないとなると軍属という事でも無さそうである。

「私は……ねね、ジェルン。格好良い魔女を騙ろうと思うんだけど、なんて名乗ると良いかな?」

ジェルンの目は雄弁だ。

口以上に語ってきた。

そう、呆れられていた。

しかし、どうせ名乗るなら格好良いのがいい。

「こいつは引きこもりの魔女アンダーソンだ!!」

「いやぁぁぁ!それはやめて!」

ジェルンに叫ばれ、認知がアンダーソンになってしまった。

「引きこもりの魔女!!アンダーソンだと!?」

息を呑む音がする。

彼の緊張がピークに達した。

手足が震え、それを誤魔化す様に手で膝を殴っていた。

「怯えるな!情けない!俺は父になったんだぞ!ここで逃げてどうする!家族を守れるのは俺だけなのに!」

彼の言葉を拾い、敵意は無いのだと伝えたい気持ちに駆られるが、私は心を鬼にして騒ぎを加速させていく。

「俺がわざわざジェルンなのに、お前が本名名乗ってどうするアンダーソン?」

「だからって……もっと他にもあったじゃない!」

偽名の代名詞となると、あとはジェルンがすぐに思いつくのはベルヴィルの言ってたもののみである。

「エスカルゴとか?」

「それはもっと嫌!」

私は強く否定した時、力が入ったのかベンチが強かにドアを打った。

「男を見せろトール……彼女を守ると誓っただろう!息子を守ると誓っただろう!」

トールは強く叫ぶ。

駆け出し、壁によじ登ろうとする。

屋根にまで登ることで聖水が届く様にしているのだろう。

「アンダーソン、こっちだ」

「ぐぬぎぎぎ!アンダーソンはやめて!」

ジェルンに手招きされて、大通りの方へと移動した。

これで建物とは隣接しておらず、万が一にも聖水が届く事はない。

トールも悔しそうに歯噛みしていた。

「もとより聖職者でもない俺が良くやった……そう、自分を慰めるしかないのか」

悔しそうに壁を見つめるトール。

そんな彼の肩に誰かの手が置かれた。

「そんな事は無いと思うぜ。見ないふりして怯えてる世の男どもよりはあんたは良くやったさ。父親なら尚更子どもにとっちゃヒーローだろうね」

姿がハッキリとは認識出来なかった。

その代わり、彼の手にハッキリと十字架の模様が描かれている。

「初めまして魔女の傀儡ども。俺はサドル。魔女狩りの時間だぁ!!」

物陰から唐突に身を乗り出した彼の背に翼の様な膜が広がっていた。

「聖なる翼!」

聖水を振りかける事で飛膜にしている様だ。

それで実際に空高く飛び上がっているので、ようやく彼の姿が視認できた。

黒髪が空気抵抗で五分分けとなり、狐のような細い目と広い三白眼が特徴的で、鼻は尖っており口は裂けた様であり、ピアスを何個も付けた舌が馬鹿ほど長く飛び出している。

教会関係者の服装ながらも、聖職者というよりも悪魔的な姿に私は思わず後ろに引く。

「うっ……」

「怖がるのはこいつを見てからにしやがれ!!」

ベンチを盾にサドルの進行を阻もうとするが、細く枝のような指に掴まれた途端に力を失った様に地面に落ちた。

「うへへへへへ!神の触手!!」

「さっきから神とか聖なるとか胡散臭いな」

「毎日聖水で清められた俺の体は、魔女の傀儡程度の力なら無効に出来るのだ!!」

そのままベンチを足蹴にしてもう一度飛躍するサドル。

「飛行するというよりは跳躍するって感じか」

「冷静に見てないでなんとかしてよジェルン!!」

ジェルンは箒でサドルと私の間に移動した。

「何者だ!顔を見せやがれ!」

「これは硫黄と硝酸と木炭を混合したものだ」

「だからどうした!」

「火薬と言ってな?」

ジェルンは火薬を振り撒き火打ち石を叩く。

爆ぜる空気の中で暴れるようにサドルは地面に叩き落された。

「これは……傀儡の技ではない!無効化出来ない人の御業!!」

「当たり前だ。火薬は呪いで作った訳じゃないからな」

歯噛みし、舌を振り回すサドル。

「べろーん」

地面を舐めて唾液で五芒星を描いた。

「魔を清め給え!我が火傷を……傷を払い給え!」

植木鉢が強かにサドルのこめかみにぶつかる。

頭を揺らしながら二歩三歩とよろけるサドルに急降下したジェルンがソレを引き抜いた。

サドルの顔を横に真一門に撃ち抜ける木の棒。

そのまま地面スレスレを飛行して、地面を蹴り上げて急上昇していく。

夕日をバックに箒の上に立つ私の息子の姿にエールを送らずにはいられなかった。

「ジェルーン!格好良いよー!」

サドルは完全に気を失い伸びていた。

「ねね、そろそろ脱出したんじゃないかな?」

私が西を見てそう言うと、ジェルンも箒に跨り西を見た。

「アンダーソンは先に帰っててくれるか?」

「なんでよ?」

「少しやることがあるんだ」

ジェルンは箒で西へと飛んでいく。

私はそれに並んで飛ぼうするが。

散々力を使い、存在感が薄れていたため早急に補給が必要だった。

「……ジェルン一人に全部背負わせたりしないよ」

夕暮れの時間ならばどこかで火の用意をしているだろう。

それを目当てに家の中を覗き込んだ。

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