第十五話 転『リーンカーネーション』
「「第十四回」」
「ケリーと」
「フランチェスカの」
「「前回のあらすじ」」
ケリーの記憶に掛かった霧が晴れていく。
鮮明に映る景色と記憶。
脳裏に描かれたのは霧のかかった記憶の中で見たアルフレッドとの記憶。
そして、たまに遊びに来るジェルンという子どもの事。
世話を焼いてくれる両親とフランチェスカ。
頬を流れる暖かな雫。
そっと添えられるハンカチ。
フランチェスカの笑みに釣られて笑みを浮かべた。
「おはよう御座いますケリー様」
「ええ、おはようフラン」
久しぶりの愛称に今度はフランチェスカが目元を潤ませた。
「長い……長いお休みでしたね」
「ええ、アルフには悪いことをしたわね」
ベッドから起き上がり、寝間着から着替える。
そして、自分が記憶を消されるに至った記憶も思い出す。
当時、アポストロフィより優秀だと判断されたアルフレッドは栄転とも言える本部への移動が示唆されていた。
しかし、その話を知ったヘレンがアルフレッドを奪われまいとケリーの心と記憶を封じた。
ヘルメスにより記憶や心の錬金術というものがあると唆されたアルフレッドはケリーを救うためにケリーにいつでも会いに来れる状態を大事にしてくれた。
だから栄転の話を蹴ってまで留まってくれた。
身を削り心を削りながらヘルメスと研究を共にした彼はやがて周りの錬金術士から疎まれる存在となり、魔女裁判に推挙されてしまった。
そんな中でケリーに最後まで尽くしてくれたアルフレッドの事を考えると胸が締め付けられる思いに駆られる。
ケリーは会いに行かなければならない。
ジェルンが危ない。
ヘレンは間違いなくアルフレッドの記憶を持つ者から記憶と心を奪っていく。
あの少年を助けるためにケリーは扉に手をかける。
「行きましょうフラン」
「どちらまで?」
フランチェスカの問いに朗らかな笑みを見せる。
「ジェルンを救いによ」
フランチェスカは眉をしかめる。
「彼の所在を我々は知りません」
「え……」
詰んだ。
出れない。
慣れ親しんだフレデリカの家。
そこは既にもぬけの殻だった。
有るのは誰かが争ったであろう痕跡である。
張り巡らされた蜘蛛の糸。
割れた窓ガラス。
飛び散った血痕が床に染み込んでいる。
「こっちだ!」
ガイが皆を集めるために叫ぶ。
「どうしたの?」
ジェシカが尋ねてみれば、ガイは地面に足跡を見つけていた。
「蜘蛛の糸が森の中にあるけど……天然の物なのか僕には区別がつかないや」
ノイマンが指で触れ、その脆い強度に顔をしかめる。