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第十話 承『パパヴィルさん』

「「第九回」」

「トーマスと」

「モーリスの」

「「前回のあらすじ」」

普段より静かな始まり。

二人の性格が似ているからなのかもしれない。

彼らはあまり自分からは話さない様子だ。

無口という訳では無い。

話す必要が無かったり、気が向かないのだろう。

彼らはあまり関わることそのものがないため、様子見をしているみたいだ。

そこで先手を打つのがモーリスだった。

やはり大人の余裕というものだろう。

彼はパラパラとページを捲る。

「この居心地の悪い空間を終わらせるには、あらすじを読み終える必要があります」

「自分もそれには同意します」

トーマスは氷の傀儡としての能力を練習しているみたいだ。

「かき氷が作れてしまった……ガイ達にあげたら喜ぶかな?」

真剣にかき氷を作るトーマスを尻目にモーリスはあらすじを読み上げる。

「氷の魔女レディグラスの傀儡となるトーマス。ジェルンはトーマスを助けてもらうためにレディグラスへと協力を約束した。ジェシカによる『やぁ、僕はアンダーソン!エリーのお友達だよ!』心が脆く崩れ落ちたエリーゼ。語られるレディグラスの過去。母とは魔女になった時に死別。なんとベルヴィルはパパヴィルだったのだ!!」

吹き出すトーマス。

「あ、やっぱりパパヴィルって語呂が良いし面白いですよね」

「あのですね……ちゃんとあらすじを読まないとこの空間が終わりませんよ?」

モーリスは指摘されて仕方なく続きを読み上げる。

「ベルベルおじさんことパパヴィルはオーディアルの試練を超えたただの人間だった。パパヴィルは水の魔女との話を持ち帰る。なんと水の魔女はアポストロフィ側から寝返るつもりらしい。裏切りの信用の材料としてアポストロフィ側に付いている魔女の情報を渡すという。信用出来ないとヒステリックなレディグラス。落ち着けクールになというパパヴィル。そして、水の極刑を受けて死んだエリーゼは水の傀儡である事が明らかになった」

エリーゼの水の傀儡としての力。

エリーゼに水の魔女と話を付けてもらうにも、エリーゼ自身にその気が無さそうである。

また、トーマスにリスク無く話を付けるにはトーマスを近付けないことが大前提だ。

嘘ではない確証の欲しいベルヴィルとレディグラスがジェルンの意思を尊重する筈もなく、トーマスを最悪捨て石にする考えを持っている。

「最悪トーマスが死んでも戦力にはあまり影響は出ないわ」

残酷だが、能力の使い方が分かっていないとトーマスは戦力には数えられないみたいだ。

「というか、お前はなんでそんなに魔女とか傀儡に肩入れするんだ?」

尋ねるとトーマスは首を傾げる。

「だって、自分達は秘密を共有する仲間でしょう?」

あまりに正当すぎて一瞬呆気に取られたのは俺だけではないだろう。

チラとレディグラスを見ると、彼女も呆気に取られていた。

「水の魔女と戦うかもしれないのに、信用して背中を任せられないなんてそんなの良くないですよ」

ドロシーは笑っている。

手で口もとを押さえてはいるが、余程おかしいのだろう。

クツクツという音が漏れている。

「ふふっ、ふふふふふふふふ」

遂には絶えられなくなったようだ。

「何がそんなにおかしいんですか?」

問うトーマス。

オーディアルとのひと幕が無ければジェルンもトーマスの言う事に賛成できただろう。

「ふふっ、仲間なんかじゃないわよ?私達は共通の敵を持っている敵同士……貴方も私の敵なのよトーマス?」


ドロシーが釘を刺した事で、トーマスは俺に一縷の望みをかけてなのか視線を浴びせる。

「ドロシーの言う事も分かるし、トーマスの言いたいことも分かる」

しかし、何はともあれ協力しないといけないという状況においてはドロシーの言っている事は正しくとも、著しく協調性に欠けるものでもある。

「みんなを纏める役みたいなのが必要だと思う」

俺がそう言うと、ベルヴィルが手を叩いた。

「俺達のリーダーってやつか……クールだねぇ」

リーダーという単語が出た途端、レディグラスとドロシーがやる気に満ちた目で仁王立ち。

「リーダーはアタシよね?」

「ふふっ、私がリーダー。他はそれ以下……ふふふ」

それ以下と言われて誰が納得するのだろうか。

また、レディグラスにも不安は残る。

先程取り乱しヒステリックに陥った彼女をベルヴィルが嗜めたばかりである。

彼女に突然の指揮は難しいと見たのかトーマスもベルヴィルもそっと目を伏せた。

「ちょっと!?」

声を張り上げるレディグラス。

微笑を浮かべるドロシー。

彼女達では駄目だ。

トーマスの視線がベルヴィルへと向いている。

「どうでしょう……パパヴィルさん」

「クールじゃねえ呼び方をするな。俺がリーダーで良いならやってやるが……きっとレディグラスもドロシーも言うことを聞かねえだろうな」

このリーダーを作るという発想自体は良かった。

しかし、指示に従わない駒が1つ出来るというのは非常に厄介だ。

広範囲の索敵から糸を操り捕縛を行えて毒も扱えるドロシーか、はたまた戦闘面で水の魔女に対して有効と思える氷のレディグラスか。

考えるまでもない。

今回はレディグラスである。

「リーダーはレディグラスで良いか?」

「よっし!!」

嬉しそうだが、それは単にドロシーに負けたくなかっただけらしく、その後はもう興味が無さそうである。

ドロシーが不貞腐れて隅っこに体育座りで居座っているのが鬱陶しく目障りだが、同じく蜘蛛の傀儡の俺にフォローしてほしいのだろう。

しないけどな。


レディグラスをリーダーにそれぞれを纏めてもらう。

まず、索敵が俺とトーマスである。

蜘蛛の傀儡でもあり糸を張り巡らせる事で鳴子の罠を作る。

糸に何かが引っ掛かったら木の板が鳴って場所が分かるという寸法である。

トーマスは付近の水を凍らせる係だ。

水の魔女を根本的に信用しない布陣であり、もし逃がしても攻撃を許さないために封じる様だ。

ベルヴィルとレディグラスは交渉。

この二人で直接水の魔女ウォルターと話をする。

場所はこのフランツベルン神聖国において街の外。

西の関所を超えた先にあるマルノンディの街に続く道が通されたロブアリセンドの森の中である。

「ロブを通るのは遠征ぶりだな」

西の関所をまず超えなくてはならないのだが、その点は抜かり無く役目を貰えなかったドロシーが制圧して通れるようになった。

若干憂さ晴らしも混ざっていたのだろう。

蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた門番達が可哀想である。

さて、このロブアリセンドの森はいわく付きである。

何がと言われれば、この森には魔女の家があると言われているのだ。

子ども達が寄り付かないための脅し文句なのかと思っていた。

思っていたんだけどなぁ。

森の中に佇むプレハブ小屋を見て考えを改めた。

レディグラスとベルヴィルが小屋の中へと入っていく。

それを見てからトーマスと共に見張りにつく。

見張りとは言っても向こうに襲撃の意図が無ければただの待ち惚けとなる。

トーマスと軽口を交えながら待機する事になった。

「この前ガイが言ってたんですけど」

「ガイが?なんて?」

また何か厄介事だろうか。

「ライオンしかり、トーマスしかり変な揉め事になるなら御免だぞ」

トーマスも当事者の一人として微笑する。

「チーム名を付けようと言ってました」

ガキっぽいと思ったが、ガイは文字通りガキである。

ガキであることを全うしているのに呆れでは可哀想である。

心の中で『くっだらね』と思いながらも頷く。

「自分達はまだ未知数の子ども達だからと、ノイマンが辞書から引っ張り出してきたこの単語にしようと言ってました」

辞書からページを破って赤ペンで線の引いてある場所を読む。

『UNKNOWN』……ガキを全うしたネーミングとしては悪くは無い。

ガキらしく『ぐるぐるアタック』や『ガイレンジャー』とか言い出さなかっただけで花丸である。

「『あんこ脳』あるいは『うんこナウ』と読むらしいです」

……どっちも違う。

だが、トーマスはそのチーム名を話した時に嬉しそうに言うので指摘することが憚られた。

「嬉しそうだな」

なので、その目に見えた感情を指摘した。

「自分は仲間と呼べる存在がこれまで居ませんでしたからね。仲間だと思ってた人達には置いていかれる始末でしたしね」

それについては可哀想である。

事情も知らずに乱入した身としては特にである。

後からソフィアが振られて泣き出し、トーマスが悪者のように仕立て上げガイが逆ギレしたというのだ。

本当にどうかしている。

「その件については知らずに乱入して悪かったな」

「いえ、兄貴の立場なら親分のガイの味方につくべき所でした」

「その兄貴とか親分とか辞めない?」

シンプルにむず痒いのだ。

「そうしないと自分は没個性な気がしまして」

トーマスなりにこの作品を気遣っての判断のようだ。

確かに、冒頭も冒頭のあらすじの中で没個性同士のモーリスとトーマスを並べたらどっちがどっちか分からなくなるぐらいである。

「あんこ脳の奴らも没個性みたいなもんだけどな」

ガイはガキ大将、ノイマンは臆病泣き虫、ソフィアは高慢。

そんな性格なんていうのは分かるが、喋り方に癖が無いと分らないなんてのは確かにそうだ。

だから、頑張れ漫画家。

全部お前に丸投げだ。

「あまり、本筋から反れた事ばかり話していると良くないことが起こりそうです」

「そうだな。○ンポ良くギャグを挟んで飽きない様にコメディしてるがそろそろ本筋に帰るか」

トーマスは地面に指を這わせる。

描かれた文字は『テ』と『チ』である。

「なんでこの二つって似てるんでしょうね?」

実際、『テ』なんて縦で繋げてしまえば同じ文字に見える。

「さあな、下ネタにまで話を広げてしまったが、大丈夫だ。大筋から反れなければまだ戻れる」

もう既に大分逸れている。

それを指摘する者は不在。

否。

カラカラと鳴子が響く。

何かが罠にかかったのだ。


「来るぞ」

糸を手繰り寄せ、それを思い切り引っ張った。

すると、それは抵抗せずに俺の手の内に引き込まれた。

全力のハグとはこういうものだろうか。

顔面同士、お腹と胸骨が軋む程の強烈な衝突。

俺は人形だから大丈夫だったが、引き込まれた人物はそうではなかった。

「どわぁぁぁあ!?」

トーマスがその人物の勢いに思わず後退り。

そりゃそうだ。

俺だってこんな勢いで飛び付いてくるとは思っていなかった。

逆方向に抵抗するように走るのかと思っていた。

その人物とは、俺の……というよりはアルフレッドの頃より良く知る人物だった。

「こーの森にー、子ーども達がー、行方不明だーと?聞いーて来てみーましたーが?」

気の抜ける間延びした声。

穏やかな性格であることが伺える余裕のある佇まい。

「君ー達でーすね?」

間抜けのパラディンこと軍属の聖騎士ユーリウスである。

ユーリウスとは同期である。

ユーリウスと同じ時期に配属される事になり、それから死ぬまで友人だった。

他にも二人ほど同期が居るが、話が反れるのでこのユーリウスに焦点を戻そう。

「だーめーでーすーよー?」

相変わらず話のテンポの悪い奴である。

時間的に余裕のある時ならばいざ知らず、無いときはただただウザいと煙たがれる存在。

紫の短い髪は天然のパーマで癖が強く寝癖だらけ。目はダルそうに半開きであり、口までも常に半開き。

楽な格好が好きらしく、聖騎士の鎧を着用しない異端の中の異端。

本来聖騎士は鎧の着用が義務付けられている。

しかし、彼は着用しないことを特例で許されている。

それは何故か。

彼が優れた騎士であるからである。

罠に間抜けに引っ掛かる姿を見てどこが優れた騎士なのか疑う者も居るだろう。

実はこのユーリウス。

騎士団の中で最も足が早く、本気の馬と競争させて初速だけなら互角という程なのである。

馬力なんて単位が有るので彼の脚力が並外れていることはその馬力で換算すれば良いだろう。

その力およそ5馬力である。

欠点が有るとすればそのスピードを維持する体力が無い事である。

「邪魔くせえ」

今のところ敵では無いにしても、邪魔くせえものは邪魔くせえなのである。

本当に敵ではないのだろうか。

「君ー達ーは、どーしてこーんなとーこーろーにー?」

「ウザいですよ」

トーマスに煙たがられている。

正直俺もそう思っていたので気持ちを代弁してくれたようなものだった。

「ががーん!!」

ショックを口にするのは相手が見るからに子どもだからだろう。

「ショックを受けまーした!」

「だからなんですか」

ユーリウスは剣を抜く。

「子どーもだーかーらとー穏便にー済ませるーつもりーだっーたんでーすけど?……辞めーにしーますねー?」

しかし、話が間延びした結果。

トーマスに氷漬けにされてしまった。

「流石間抜けのユーリウスの名に恥じないな」

先手を取れば絶対に勝てるのに、口頭が長すぎて役に絶たない。

長所を長所として活かしきれない間抜けである。

「知り合いですか?」

トーマスに問われ、俺は首を横に振る。

今となっては赤の他人というやつだ。

「間抜けのユーリウスを知ってるだけの人形だよ」

「そーれってー、どーゆーこと?」

トーマスと俺の肩に回された腕。

誰のかを考えるまでもない。

「どうやって氷の中から……」

ユーリウスは手の平に炎を浮かべる。

「炎のー聖女様のー使ー徒にーなったーんーだぁー」

使徒。

聞いたことのない単語である。

「君達はー使徒かなー?それとーも傀儡かーな?」

ユーリウスが聖騎士であるアポストロフィ側であることは明白だ。

アポストロフィを女神と崇めるならば、自ずとそのアポストロフィに与している魔女は聖女……傀儡は使徒となるのだろう。

「俺達は氷の使徒だ」

俺が素早くそうやって答えると、ユーリウスは何度も頷き燃え上る。

「うーそーつーきーはー」

トーマスが氷を纏って防ごうとするが、それよりも火力の方が強い。

「どろぼーのはーじまりー!!」

爆発。


焼け野原。

体が繋がっている事に驚いている。

以前使った火薬の残りに引火したらしい。

ユーリウスも爆発に巻き込まれて気絶している。

トーマスは相性的に悪いのか、肩口から出血しているが、それを冷やして止血していた。

「自分の家は放任主義ですから、この程度の傷なら気にもしないでしょう」

そのトーマスが一歩一歩ユーリウスへと近づいていく。

「どうしたんだ?」

ユーリウスは気絶してもう動かない。

脅威でもなんでもない。

そんな彼の剣をトーマスは奪い、ユーリウスの喉元へと当てる。

「ちゃんとトドメを刺さないとまた襲われてしまいますよ」

咄嗟だった。

剣に糸を巻き付けて止める。

「どうして止めるんですか?」

トーマスの問いに俺は首を横に振る。

生前のアルフレッドとしての記憶がユーリウスを殺すことを躊躇している。

「兄貴……炎の魔女の傀儡ですよ?」

「それでも……分かっているけど」

軍属して人を殺すこともあった。

命令で殺す相手に疑問を持つこともあった。

それでも仲間にすら刃を向けなくてはならないということをこの心は拒否している。

「俺はこいつを殺せないし、トーマスに殺させてやることは出来ない」

トーマスは剣を捨てる。

「それが兄貴の判断なら自分は従うまでです」

ユーリウスは俺の糸とトーマスの氷で気休め程度の拘束をして高木へ吊るす。

本来ならば、直下には穴を掘り槍を空へ向けて刺す事で逃走を諦めさせるところだが、ユーリウス相手にそこまで非道な事は出来なかった。

脳裏に過るのはあの頃の楽しかった四人での思い出だ。


『間抜けの聖騎士ユーリウス』『鈍感の錬金術師アルフレッド』『自愛ナルシストの聖歌隊員リチャード』『性自認は男な聖職者オルレアン』四人合わせて『ジェボーダンの獣』と呼ばれた事もある。

ユーリウスが間延びした発言をし、リチャードがそれを無視しながら自慢を始め、オルレアンは告白してくる男を千切っては投げ、俺はそんな纏まりのない同期の四人を仲間として敬愛し友愛を向け親愛を育んだと思っている。

あの頃は楽しかった。

アルフレッドとしての人生の幕を閉じたのは二十歳になってからである。

彼らと出会ったのはそれよりも五年程前になる。

正直扱い辛いだろう突出した個性の四人はまだ何をやりたいかというのが分からず、聖職者でも聖歌隊でも錬金術師でも聖騎士でもなかった。

明日への希望も無く、ただ毎日を無為に過ごすだけだった。

そんな四人をいきなり任された隊長には、ずっと頭が上がらなかった。

セレスティア隊長。

一番のハズレクジを引いたにもかかわらず、彼女の教えのお陰で俺達は修羅場を幾度となく生き抜いて来れた。

「筋肉は腐らない。どの戦場でも筋肉は誰よりも味方だ」

そう言って毎日立てなくなるまで筋トレだったのは今だからこそ笑い話にもなる。

他の隊は剣術や槍術を習っているのに、俺達はずっと基礎トレーニングである。

しかし、いざバルト海の海賊狩りの遠征に向かうと、俺達四人組以外はほぼ全滅してしまったという。

そう、筋肉である。

腐らない筋肉は戦場でも、船上でも、水中でも味方だったのだ。

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