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第一話 起『いつか絶対に体に戻る!』

この世界はとても歪だ。

手足を縛られ水槽の中からその歪んだ世界の一部を垣間見る。

魔女狩りは、魔女とされた被疑者に対する訴追や死刑を含む刑罰だ。

魔術を使ったと疑われる者を裁いたり制裁を加えたりすることは古代から行われていたが、ここフランツベルン神聖国には、悪魔と契約してアポストロフィ教社会の破壊を企む背教者という新種の『魔女』の概念が生まれるとともに、最初の大規模な魔女裁判が興った。

そして魔女熱狂とも大迫害時代とも呼ばれる魔女裁判の最盛期が到来した。

魔女裁判として行われた『溺れ死にしなければ魔女』という極刑により私は命を落とした。

時代を先取りしすぎた西洋人形師が向かう末路というものだ。

協力してくれていた錬金術師は『火炙りで死ななければ魔女』とされ、衆目の中で殺された。

魂はやがて浄化され輪廻は転生する。

だが、おかしい。

いつまで経っても意識は途切れない。

不思議に思って目を開く私は驚き固まってしまった。

半透明なグレースケールの体。

どうやら私は死んで幽霊になってしまったらしい。

私の名前はエリーゼという。

幽霊となった私は知らない無機質な白い壁と床の中に居た。

真っ白なベッドに倒れるジェシカとジェルンという名前の双子の西洋人形。

死んでもまだやり遂げたい研究テーマとは、私の人形に命と心を吹き込むというもの。

アルフレッドは心の錬金術を解き明かす事を目的としていた。

私の協力者であるアルフレッドは心の錬金術で救いたい人々が居るらしい。

老後に心を失っていく認知症の改善や、悪しき心の持ち主達を公正させたり、心に傷を負った者達の救いになることを望んでいる。

私は人形の参考のために東洋の文化にも触れていた。

東洋の文化の代表的な物といえば彼らの部下の一端に八百万の神という万物には神が宿るという意味合いの言葉がある。

その中の1つに私は注目している。

なんでも、長い年月を経ることで九十九神となり、物には魂が宿ると読んだ事がある。

つまり、私とアルフレッドの最初の目的はジェシカとジェルンを器として魂を宿すのだ。

長い年月となれば今生で達する事は出来ないだろう。

だから、私は自分の人形と話す夢をアルフレッドと私の子どもに託すつもりだった。

アルフレッドはもう火炙りの極刑でこの世に居ないが、研究は一人でも出来る。

この体では物には触れないし、ただそこに存在するだけの幻影の様なものだが、私は最後までやり遂げてみせる。

その時だった。

ジェルンがまるで魂でも宿ったかの様に体を起こしたのだった。


「おぉぉぉ!?」

私は興奮気味に覗き込む。

ジェルンは少年をモチーフにした機械人形である。

「ジェルン!私が貴方を作ったのよ!見える!?私が貴方のお母さんよ!」

その私をまじまじと見つめるジェルンの風貌は絵本に出てくる白馬の王子様のように美しい。

金の髪は柔らかな曲線を描く癖のある毛。

アルフレッドに特注した青く輝くビスマス結晶の瞳。

アーサム共和国から輸入したシリコン素材のモチモチの肌。

身体に纏うのは西洋人形師である私が生前に裁縫した特製の服だ。

黒いフリルタイに金の蝶の片翼が描かれており、グレーを基調としたブラウス。

肩にたてがみを掛ける様に獅子の毛皮のガウンを羽織っている。

両手両足にはレザーを用いたグローブとブーツが宛てがわれており、黒いハーフパンツとグレーのソックスを着用している。

傍目から見れば本当に生きた宝石のようであり、見た目は完全に人間である。

私にとってジェシカとジェルンは自分の理想を反映した子どもの様なものであり、私の特徴もジェシカとジェルンの二人に類似している。

「煩いぞエリーゼ」

ジェルンがそう言った。

「キャー!喋ってる!ジェルンが喋ってる!!」

大興奮で話を聞こうとしない私の前でジェルンは頭を掻いている。

「すまないが、厳密には俺はジェルンではない」

自分の身体の動きを確かめるかのように手足を曲げたり伸ばしたりしている。

「俺は先日、火炙りの刑で死んだアルフレッドだよ。魔女狩りで死んだ以上、その名を使う訳にはいかないだろうから、ジェルンの名を使わせてもらうが」

「アルフ!?アルフなの!?」

騒ぎ立てる私の声が煩かったのか、ジェルンは耳を塞ぐ。

「煩いと言ってるだろう」

「ご、ごめんなさい。嬉しすぎてつい」

生前、ただの協力関係でしかなかったとはいえ、同じテーマを研究する者同士であるため互いに理解は深かった。

時代の先取りをする二人はお互いが唯一の理解者だったのだ。

「目が冷めたら私は幽霊になってて」

「俺はジェルンになっていた。このビスマス結晶にでも魂が宿ったのかもしれないな」

胸を叩くジェルン。

心臓部には瞳の元となっている大きなビスマス結晶が入っている。

「それと……だな」

ジェルンは隣のジェシカを見て、ゆっくりと私を見る。

「ジェシカも動くみたいなんだ……誰かの魂が入っている可能性もあるが、少なくとも俺の知り合いでは無さそうなんだ」

眠るように横たわっているジェシカが動くと言われても普通ならば信用出来ない。

けれど、目の前でアルフレッドの魂が入っているジェルンが動いているのを見ると、可能性を否定は出来ない。

「起こせる?」

触れる事の出来ない私はジェルンを見つめて訴えかける。

「おい、ジェシカ。エリーゼが帰ってきたぞ」

肩を叩き揺らすジェルン。

ゆっくりとジェシカは目を開き、私とジェルンを視界に捉えた。

「おはようございます御主人様」

まるで従者のように恭しく頭を垂れた。

「……ずっとこんな調子なんだ」

「あはは、私の知り合いでも無いみたーい!」


目覚めた二人はジェシカの横で今後の方針を相談する。

アルフレッドと私は死んだとはいえ、意識が現世に残っている事が明らかになればエクソシストや呪術師と呼ばれる者達に今度こそ自分達の存在が根絶やしにされかねない。

「とりあえずここは安全なのかしら?」

問いかける私にジェルンは肩をすくめる。

「さてな、ここは変な女が俺達の研究成果を奪い保管してる場所ってことだけだな」

今のところ何も手を加えられておらず、ジェルンとジェシカがベッドに横たわっていたことから、丁重に扱われていることが分かる。

「あはは!絶望じゃーん!」

「笑い事じゃない」

人形が動いて笑うとなれば、今度こそ魔女の異物としてジェルンとジェシカは壊されてしまうだろう。

「謎の女っていうのは?」

ジェルンは無機質な部屋の1つ、扉の向こう側を指さした。

「この先に居るが、話しかけていいものか……」

人形が話しかけては不気味がられるだろう。

「意識を取り戻したものの、あの女のコレクションとして残るしかないかもしれん」

私は眉間に皺を寄せた。

「それは嫌よ」

「お前はそう言うと思ったよ」

ジェルンはベッドから身を降ろすと、扉の方へと向かっていく。

「ちょっと待って!?」

ドアノブに手をかけた所でジェルンは振り返った。

「どうした?」

「私、扉をすり抜けられないかな?」

幽霊が物語に出てくる作品の数多くに該当することだが、幽霊は壁をすり抜けている。

それがもしも可能ならば、私はジェルンに危険な役目を負わせる必要が無いと思ったのだ。

「けど、幽霊の声って聞こえるのか?」

「うっ……」

二人とも、生前は聞こえたことなど露ぞ無かった。

そうなれば、ジェルンも死んだからこそ私が見えている特殊な状況なのであって、謎の女に声が届く保証は無かった。

「じゃ、じゃあさ、せめて早まらないで」

私は恐る恐る壁に触れる。

腕は壁を突き抜けた。

「行けそうだから、部屋の間取りとか見てくる。万が一何かあっても良いように逃げ道も探してくるから!」


そう言って壁を抜けた先に謎の女は立っていた。

顔に不気味な黒い蝶のマスクをしている。

波打つ紫の髪を後ろにそのまま流し地面にギリギリ当たらない程の長さがある。

妖艶に微笑む真っ赤な口紅、エリーゼを見てウインクをする彼女に私は例えようの無い違和感を感じた。

「凄い個性的な格好なのに、存在感が凄く希薄……」

私がそうやって声を漏らすと、謎の女は私の手に触れてきた。

「お目覚めのようね。私が貴方達をここに招いた背教者……いわゆる『魔女』と呼ばれている者よ」

咄嗟に身を引くが、手が魔女から離れなかった。「私に巻き込まれて貴方達が魔女裁判を受けてて申し訳なく感じたから、せめてもの償いに『呪い』をかけてあげたのよ」

私は手を引かれ、部屋の中央に引っ張り出された。

「その『地縛』の呪いはアポストロフィ教信者の神父や宣教師、エクソシストに簡単に払われてしまうから気をつけなさい?」

この現世に留まれているのは魔女の仕業だという。

「私達が死んだのが貴女のせいなの!?」

「厳密には違うけど……概ねそうよ」

ショックで崩れ落ちる私を余所に魔女は戸に手をかける。

「子ども達にも話をしないといけないわね」

扉が開かれた先にジェルンがジェシカを背に庇う様にして立っていた。

「あぁ……尊い」

私は立ちくらみを覚える。

呆れるジェルンは私を無視して魔女を見た。

「俺達をどうするつもりだ?」

「どうもしないわよ。好きにしなさい。やり残したことがあるんでしょ?」

とてもあっさりしていた。

「そろそろかしら、貴方達の食事を用意してあるわ」

指を鳴らす魔女。

呆気に取られる私とジェルン。

「人形と幽霊がどうやって食うんだよ」

「やぁねぇ、絵本とかで読んだ事ないの?」

魔女の指先に灯した赤い炎。

「幽霊が登場する時に燭台の蝋燭の炎が揺らいで消えるでしょ?幽霊って炎が主食なのよ」

私は恐る恐る魔女の指先に口を寄せてみる。

「熱くない」

「そりゃそうよ。貴女は感覚器官すら無いもの」

揺らぐ炎を吸い寄せるとやがて消えていく。

炎が消えると、私の全体の輪郭が鮮明に浮かび上がる。

「うわぁ、凄い!」

私の体と混ざるように消えていった。

まるで炎の存在感が私に奪われたかのようだ。

「さ、坊やも」

ジェルンに差し出される炎。

口を寄せて吸い込むと、ジェルンの瞳が強く煌めいた。

「……満たされる感覚が確かに有る」

魔女はジェシカには炎を差し向けなかった。

「その人形には無垢の魂を入れてあるわ。二人と違って幽霊じゃないからエクソシストですらも祓えないけど、逆に良くない者を引き寄せてしまうかも……けど、貴方達の研究には役立つ筈よ」

魔女はそれだけ言うと、部屋の外へと出ていく。

「出口は廊下に出て右手側よ。街がどうなってるか見てきてもいいけど、エクソシストに見つかっても自己責任よ」


魔女は私とジェルンにとって敵ではない。

敵ではないにしろ、味方として見るには関係が弱すぎると思った。

彼女は慈悲の心で二人を現世に留めたと言うからだ。

この世界に留まる方法を伝えたのも現世に留めるに当たって最低限の面倒を見たということなのかもしれない。

私は一人悶々としていると、ジェルンが廊下に歩み出る。

「今の感覚……炎が存在力に混ざった様に、おそらくは炎を吸収するとエリーゼは他の人間に目視されてしまう可能性がある。というか、魔女に見えてたので、人間に見える見えないの判断がつかない」

ジェルンは人形だが、傍目には人間の子どもに見えるほどに精巧だ。

「街中に幽霊が出たとなればエクソシストも動くかも分からない。俺が少し歩いてくる」

ジェルンはそうして部屋から出ていった。


「二人きりだねジェシカ」

私の不器用な笑みは幽霊であると言うことを考慮すればとても不気味である。

しかし、先程魔女も言っていた様に無垢な魂であるというジェシカは言葉の通りの様子で、恭しく頭を垂れる。

「ご用命でしょうか」

「あわわ!そんなにかしこまらないでー!!」

ジェシカに触れようとしても触れられず、私はやきもきしながら不服に頬をふくらませた。

「私がジェルンになってたらジェシカに触れ合う事が出来てたのに!!」

ジタバタと両手両足を広げて不満を爆発させる。

すると、その私の不満に共鳴するかのように扉の外で異変が起きた。

ガタガタと動く家具や美術品。

「えっ、えっ、えっ!?」

困惑する私のもとに家具の位置を正してから魔女が近付いて来た。

「存在感が強くなってる時はこの世界に異変をもたらすことが出来るのよ……これは『ポルターガイスト』と呼ばれている状態かしらね」

感情を爆発させることで家具を動かすことが出来るみたいだ。

「貴女がジェルンになっていたら今頃街中はパニック状態よ」

アルフと比べられた気がした。

アルフと比べて精神性が劣っていると言われた気がした。

「貴女はとても幼く見えるもの」

「酷いよ!これでも生前は15歳だよ!」

「充分子どもじゃない」

「失敬な!これでも成人してるんだからね!」

「成人ならもっと落ち着いて欲しいものだわ」

「うえーん!!」

酷い言われように涙がちょちょぎれる。

アルフと比べて精神性が幼いと言われた様なものだからだ。

「うわーん!あんまりだよー!!」

「ほら、そういう所よ」

家具がまた暴れているのを見てため息を吐き出す魔女。


魔女は私が泣き止むまで待ってくれた。

「魔女さんなんてもう知りません」

私としては不満たらたらである。

「みっともないですよ御主人様」

ジェシカに言われてむせる私。

「まあ、確かに……私が大人気なかったかもしれない。百歩譲って」

「千歩譲ってもそうよ」

魔女の呆れの視線から逃げるように私はジェシカに向き直る。

「ジェシカは大丈夫?なんともないの?」

ジェシカは何もわからないのか首を傾げる。

「質問の意図が分かりませんが、状態に不備はありませんとお答えします」

「うーん、凄く機械的」

無垢な魂ということだから、これから教えていけという事なのだろう。

「そう言えば、魔女さんの名前は?」

魔女に問うと、魔女は首を横に振る。

「私達魔女は千年は生きれちゃうし、使い勝手の良い偽名で良ければ……本当の名前は忘れてしまったわ」

魔女は少し物憂げだ。

「今の私の名前はフレデリカ」

「優雅な名前ね」

どこかの貴族の名前だと言われても違和感がない。

「そうね、友達の魔女に付けてもらった名前だけど気に入ってるわ」

フレデリカは口元を綻ばせる。

「友達って、魔女がそんなに沢山居るものなの!?」

「居るわよ。火炎の魔女とか眠りの魔女とかイバラの魔女とかが有名ね」

私は聞いたことがないので、おそらくは魔女の間では有名というやつなのだろう。

「あ、そうだ。ジェシカを狙う良くない者っていうのは?」

具体的にどんな者達なのかを聞こうとすると、フレデリカは右手に三本の指を立てた。

「無垢の魂を好むのは三種類居るわね。まず、呪いに縛られた魔女の配下『傀儡』」

フレデリカの薬指が曲げられる。

「最も厄介なのが私達魔女が信仰の対象としている『悪魔』と呼ばれる存在」

フレデリカの中指が曲げられる。

「それから、その辺に普遍的に存在している『魔女』」

フレデリカの人差し指がフレデリカ自身を指していた。

「フレデリカが狙ってる訳じゃないんでしょ?」

「そうね、無垢の魂を与えて奪う理由は持っていないわ」

私は気が緩み、笑みを浮かべていた。

「なんだ、良かった!フレデリカは良い人なのね!」

フレデリカは口元を隠すように手で覆い小さく笑う。

「貴女はとても素直なのね。魔女裁判を受けたというのに……その純粋さは貴女の美徳ね。大切にしなさい」

そうして、フレデリカの手が私の頭に添えられた。

子ども扱いである。

とはいえ、推定1000歳以上と15歳では扱いにも無理ない気がした。

私は大人だから我慢する。

大人だから。


「うーん、ジェルン遅くない?」

フレデリカも私の言葉に同意の様子だった。

「少し辺りを見てくるにしては長いわね」

運悪くアポストロフィ教会関係者に遭遇してしまったのではないかと気が気でない。

「そう言えば、どうして魔女はアポストロフィ教に狙われているの?」

背教者だからといって何か教会の不利益になるような事をフレデリカがするとは思えない。

ただ、女神アポストロフィに対する信仰が無いだけなんじゃないのだろうか。

東洋では自由信仰というものもあるし、余所の神を信仰しているだけで背教者とはならない筈だ。

「魔女の心臓を食べると寿命が伸びたり難病が治るのよ」

フレデリカの指が胸元を撫でる。

「そんな話聞いたこと無いよ?」

「教会関係者が秘匿しているからよ。勿論、魔女も迂闊に口を滑らせてないからなのは間違いないけれどね」

私は口をギュッと紡ぐ。

「今は私と貴女、それからジェシカの3人だから構わないわ」

口を綻ばせ、また発言する。

「教会はなんで秘匿なんてしてるの?」

「貴族や王族に御神薬であるとして高値で取引されてるからね。彼らは長い時間を統治する若さと健康な体が欲しいという訳」

そのためにフレデリカは狙われているのだという。

疑わしい才覚の持ち主は魔女なのではないかと狙われるキッカケとなってしまうということである。

「私を食べても美味しくないよー」

「そうね、魔女でもないただの人間だった貴女の心臓は一緒に火土葬でもされているんじゃないかしら?」

「ふえーん!」

今になって死んだことに対する悲しみが押し寄せてきた。

改めて死んだというのをフレデリカに決定されたからなのかもしれない。

その時だった。

「帰ったぞ」

ジェルンが帰ってきたのだ。


「遅くない!?」

壁をすり抜けようとしたら、壁にぶつかってしまった。

顔が痛い。

存在感が増すと物にも直接触ることが出来るらしい。

これは、ジェルンの言った通りに外に出ないで正解だったかもしれない。

死んだ私の姿が見付かってしまうかもしれなかったからだ。

「何してたの?」

「少し墓を暴いてきた所だ」

部屋の扉をフレデリカが開くと、私の死体をジェルンが抱えて持ってきていた。

「俺の体は燃えてしまったが、エリーゼの体はそうではない……保存さえ出来れば、俺がジェルンの中に入れた様に、この体にお前が再び入る方法があるかもしれない」

よほど可笑しかったのか、フレデリカが盛大に吹き出した。

「ふふふ、教会の墓を暴いてきたってことよね?関係者が居てもおかしくないのに、全く……よっぽど彼女の事が大事なのね?」

フレデリカは私を見ていた。

「それなら、そのエリーゼの死体は私が責任を持って預からせてもらうわ」

炎を操ったフレデリカなら、死体を冷やすなど朝飯前なのだろう。

「生前の体に宿る死霊なんて聞いたことが無いけど……私達魔女みたいに特例があるかもしれないものね」

「あまり期待はしすぎるなエリーゼ」

悲しみとは違う感情で涙が溢れてくる。

自分の亡骸とジェルンの双方を抱きしめる。

「ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!!」

ジェルンの気持ちが嬉しくて、私は力いっぱい気持ちのままに抱きしめる。

ジェルンはそっとエリーゼの背を撫でた。


「いつか絶対に体に戻る!」

掌を握りしめてガッツポーズ。

「外の様子はどうだったのかしら?」

フレデリカが訪ねると、ジェルンは顎に手を当てる。

「街はいつも通りだった」

誰かが魔女裁判を受けたとしても、当たり前の様に日常に戻り日常を過ごす。

私達は広い世界の1人でしかない。

影響力も無いのだ。

家族や友人といった身近な人達は悲しんでくれただろうか。

願わくば、彼らが健やかな暮らしが出来ることを祈るばかりである。

「それから、新しく魔女を探す運動が始まっていた」

ジェルンはポケットから紙を取り出す。

「街の掲示板に張り出されていたものだ」

『魔女狩り推進運動』と明記されている。

「学校や教会などの公共事業に魔女狩りの文化を浸透させるつもりらしい」

「あんまりだよ!」

フレデリカはその紙を裏返した。

「他の魔女が残したサインが有るわね」

炎で炙ると裏面に地図が浮かび上がる。

1点に丸が付けられていた。

「場所はアルファ地区の教会跡ね……日時は指定されてないけど、そこで何かあるのかもしれないわね」

魔女同士の秘密のサイン。

なんだかとても格好良いと思った。

「私の代わりにエリーゼとジェルンに行ってきてもらおうかしら」

「なぜ!?」

寝耳に水だった。











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