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第二の人生
島には1ヶ月ほど滞在することにした。最後の旅ということで豪勢にいきたいし、貯金を全部使い切るにはそれ位の期間が必要だったからだ。フェリーを降りて島へと一歩を踏みだす。むわっとした暑さが全身を襲ったが、それ以上に潮風が心地よかった。自分が全く知らない島で一ヶ月を過ごすのは、第二の人生を生きるようで少し心が弾む思いだった。
レンタサイクルで宿泊予定の民泊宿へと向かった。見慣れない景色の中を自転車で駆けていくのは非常に気持ちの良いことだった。守の居ない灯台、海の家、駄菓子屋、岸から少し離れた防波堤、様々なものをフェリー乗り場から宿までの短時間で知ることが出来た。しかし、今自分が知ったことは島全体の内でもほんの一部であることがなんとなく察せられ、泣いている蝉の数を数えられないように、この島のすべてを知り尽くすのは無理なのではないかと、私は思うのだった。