12.いきなりの警告
翌朝、きっちり旅支度を整えた俺たちは、特別に早めに届けられた最後の朝食を食べ、出発することになった。
ついでに、餞別代りに俺が内心気に入ってた蔓を編んで作った蓋つきの箱がもう1つ渡され、昼に食べてくれと言われた。なるほど、弁当か。
町に入った時と同じ姿になり、部屋を片付けて出来る限りきれいにすると、集会所を出て町の外へ。クリスは、相変わらず早見さんの左脇腹に引っ付いている。
本格的に店とかが開き始める前の時間だったので、まだ町には人が少ない。
騒がれたくない俺たちにとって、ちょうどよかった。
朝の、少しひんやりとした空気の中、俺たちは町の外へ。
例のつり橋を渡り、さらに山の上へと向かう道を歩き出した。
道はほどなく、獣道へと変わる。
周囲の木々の高さも、なんだかちょっと低くなってきているような。
「でも、このあたりの山なら、山頂まで森林限界が来ていないから、まだ大丈夫だよ」
早見さんが言う。
「森林限界って、何?」
俺が聞き返すと、早見さんが笑いながら答える。
「気象条件や何かで、高木が育たなくなる限界標高のことだよ。日本だと、北に行くほど高度が低くなる傾向があるけど、富士山あたりだと2500メートルから2800メートルぐらいだそうだ。このあたりの森林限界がどのくらいからわからないけど、中部日本より涼しい気候みたいだから、2000メートルいかないかもね」
つまり、この山はそれより低いってことか。
それを聞いて、他の3人も納得したようにうなずいた。
それも、俺たちは山頂を目指すんじゃなくて、峠を越えるんだから、もっと低いところを歩いていく。
標高だけなら、小学生が遠足で登る山と、大差はないって思う。ただ、ちゃんとした登山道がないっていう問題はあるけど。
それでも、まあまあ順調に歩いていたら、不意に変な感覚に陥った。
まっすぐ歩いているつもりなのに、気づくと同じところをぐるぐる回ってるんじゃないかって感じる。
人の背丈くらいのところから三つ又にわかれている、妙に特徴のある木を3回くらい見たんだよね。
「……ねえ、この三つ又の木、さっきも見てない?」
土屋さんの問いに、火村以外の全員がうなずく。
「あれ、そうだっけ?」
……火村、歩くのに夢中になってて、周囲をちゃんと観察してなかっただろ、お前。
「どうも、三つ又の木から先で、ぐるっと回っている気がする。まっすぐ進む方法を教えるから、やってみてくれないか」
早見さんはそう言うと、“まっすぐ進む方法”を教えてくれた。
方法は、難しくない。
適当な長さのロープを2本用意する。
そのうちの1本の両端を2人で持って、進みたい方向に1人が進む。
ロープがぴんと張ったら、もう1人が2本目のロープを持って先に進んだ人のところへ行き、もう1本のロープの端も持ってもらう。
3人目はさらに進み、ロープがぴんと張るところまで来たら、1本目のロープと2本目のロープが一直線になるように位置を調整する。
そうしたら、出発点にいた人が進み、前の人のところに来たら、1本目のロープを放してもらい、先に進む。そして、3人目の人のところまで来たら、その人にロープの端を持ってもらい、さらに先に進んでロープがぴんと張るところまで来たら、前のロープと一直線になるように位置を調整。
あとは、同じことを繰り返すだけ。
勇者組は4人いるので、交代しながら進むことが出来るわけ。
まず、火村と女の子2人でやってみることになり、さっそくその3人でロープを使い、直線に進み始める。
あたりは、まばらに木が生えていて、ところどころに藪がある感じのところで、見通しはいいとは言えないけど、悪いまではいかない。
だから、何とかまっすぐ進むことが出来る。
それを始めて、それこそ10分か15分くらいしか経っていない頃だった。
「……上空から、相当なスピードで気配が近づいてきている。ざっと10体ぐらいか」
早見さんが、俺の耳元でぼそりとつぶやく。
えっ!? 何それ!?
「有角族?」
思わずと言いかけた俺に、早見さんは首を横に振る。
「有角族でも、魔物でも、まして人族でもない。今まで、感じたことのない気配だ。しいて言うなら、獣人の気配に似ているな」
あ、そうか。早見さんは、まだリーフ王国の王都にいるとき、獣人にも会ってるって言ってたもんね。……俺、まだ全然会ってないのに……
それはともかく、上空から近づく気配は、俺たちの進行方向からで、途中で別れて俺たちを取り囲むように展開し始めたそうだ。
……ヤバくね?
そして、それは来た。
「止まれ!! それ以上進むなら、攻撃する!!」
突然響く、若い男の警告の声。全員ビクッと足を止めた。
もっとも、俺と早見さんは、『やっぱり来たな』って感じで足を止めたんだけど。
でも、声が聞こえた方向は、上空じゃなくて前方の藪の向こう。まるで、地面に立っている者が怒鳴ったみたいに聞こえた。
「これは、君が使った<幻音>みたいなものだ。風魔法で、音源の位置を偽っているんだよ」
早見さんが、小声で伝えてくれた。なるほど。
でも、上空には、何にも見えないんだけど。
「おそらく<幻術>の一種を使って、どこにいるのかわからなくしているんだろうね。僕は、気配を感じ取れるから、どこにいるかほぼ正確にわかるけど」
……あなたは別格! 普通の人は、気配を感じ取って正確な場所の把握なんて、出来ないから。
俺と早見さんがそんなことを話していると、火村が声が聞こえたほうに向かって怒鳴った。
「いきなりなんだっ!! オレたちは、山越えをしたいだけだ!! 通り抜けるのもだめなのかよ!?」
「喧嘩腰で話をしてはいけない! もめるだけだぞ!!」
早見さんがいさめるが、ちょっと遅かった。
俺たちの周囲に、狙いすましたように矢が付き立った。1本も命中しなったのは、どう考えてもわざと外したんだろうな。
3人とも焦って顔をこわばらせてるけど、刺さった矢の角度が、どう考えても打ち下ろしだって気が付いてるのかな。
俺は、早見さんから“実は上空にいる”って聞かされてるから、すぐに気が付いたんだけどさ。




