09.相談事も独擅場だなあ……
その後、みんなと合流して、届けられた朝食を食べる。
届けてくれたお兄さんたちも、すごく雰囲気が良くて、なんだか和やか。
やっぱり、成果を出すのって大事だね。
そうやって食べている間に、町のお偉いさんたち3人が、全員揃ってやってきた。
3人が3人とも、落ち着いた感じになっている。
オズヴァルドさんに至っては、いきなり早見さんのところにやってくるなり、両手で早見さんの右手をがっしり握った。
「いやぁ、あんたゾンビをあっさり全滅させたんだってな! すごいじゃないか!!」
きっと、バルトロさんの報告をいろいろ聞いたんだな。あれ、見たまんま報告したら、早見さんが無双しただけだもの。
「あ、いや。試しにやってみたら出来た、というだけで、それほどでも……」
早見さん、謙遜してるつもりなんだろうけど、俺以外の勇者3人が、シラーッって顔で見てるぞ。
俺も、何となく生温かい目で見ちゃいそうだ。
あれだけすごい勢いで無双されて、おまけに全然消耗してる気配もなく終わって、内心みんな絶対『不死者に対しては化け物』っていう認識があると思う。
早見さん、あなたにとっては“大したことない”ことでも、傍から見るととんでもないんだよ。この“霊能力”に関しては。
確かに、こっちの世界の不死者に効くかどうかわからないで使ったのかもしれないけど、最初の一撃でわかったんじゃない?
あとは、無双状態だったじゃん。
でもまあ、見てたらオズヴァルドさんがあまりにも激しくブンブン振ってるもんだから、早見さんが明らかに『ちょっと痛いです』って顔になった。
それを見たカプアさんが、慌てて止めてた。ラウロさんも加わって。
さすがに二人がかりで止めにかかれば、オズヴァルドさんも気が付くわな。
「おお、すまん。つい興奮してしまってな。また鉱山に入れるようになったもんで、浮かれてしまったんじゃ」
「気持ちはわかるが、お前さんの馬鹿力で腕を振ったら、相手は痛いだろうが」
言われたオズヴァルドさん、手を離した。早見さんの手、赤くなってるし。マジで痛かったんだろうな。
でも、鉱山命といってもおかしくないドワーフが、また鉱山に入れるようになったんだ。つい興奮しちゃったんだよね。
早見さんも、それがわかってるせいか、ちょっと苦笑っぽい表情になってるけど、文句は言ってないもんね。
「それにしても、わしも見てみたかったの、ゾンビを次々と斃していく様を」
オズヴァルドさんが、好奇心を押さえきれないって感じで何度もうなずく。
カプアさんもラウロさんも、同じような反応になっている。
そうだよね、俺たちもあれはすごいって思ったもん。
「……確かに、早見さんすごかったよな。オレ、マジでこの人何なんだって思ったんだぜ」
火村まで乗っかりやがった。
まあ、じかに見てたんだから、仕方ないけどな。
「ほう、バルトロから話は聞いとるが、そんなにすごかったのか?」
オズヴァルドさん、ますます興味津々という感じになっていく。
「しかしな、今別に不死者が現れて問題になっている、なんてことは、ないからなあ。実際に行ってみて、坑道がそうなっていたとわかったのは結果論で、しかもすでに解決済みだ。いくら、見てみたいからといってもなあ……」
ラウロさんが、頭をかく。
そうだよね。
特に問題にもなっていないなら、わざわざ力を披露するなんてこと、やろうとしても出来ないもんな。
結局、この話題はこれっきりになって、この後俺たちがどう行動するつもりか、って話になった。
当然、人族が“魔族”と呼んでる有角族の本国へ行くことは決まってるんだけど、その前に、この戦争が始まった始まりの場所に行く予定なんだ。
それを聞き、カプアさんが腕を組んでうなる。
「……考えてみると、確かに何がきっかけでこの戦いが始まったのか、よくわかってないんだ、我々も。いきなり戦いに巻き込まれて、気が付いたらこういう状態になってたって感じだったからなあ……」
だろうねえ。
いきなり、難民と化した人たちがどっとなだれ込んできて、その対応をしている間に、事態は動いていたってわけだもんね。
「ところで、あんたたちの報酬なんだが……何がいいかな?」
ラウロさんが、俺たちのほうを見ながら尋ねてくる。
そういや、報酬のこと何にも決めないで行っちゃったんだっけ。
まあ、何がいいか、よくわからなかったっていうのもあるし、俺たちも何が欲しいか、漠然としてたもんな。
「……そうですね、報酬のことは、ちゃんと詰めてなかったですね」
早見さんが、苦笑気味な調子で応じる。
一応、必要な道具の類は、前払いされてたんでお金のことは気にせず買えたけど。
どうやら、俺たちの実力を測るつもりで、ちょうどいいから依頼を出そうって話になったらしい。
だから、初めから成功報酬のつもりだったんだけど、それじゃあまりにもなんだから、道具の購入は俺たちの懐が痛まないようにしてくれたみたいだけど。
ただ、報酬といっても、いろいろ難しい。
だって、俺たち自身、お金はそこそこ持ってるんだもん。使う機会がなかったともいうけど。
他の町の有力者に紹介状を書いてもらうなんてのもあるけど、あまり使い道がなさそうだしねえ。
ここで、その本領を発揮したのは、やはり早見さんだった。
俺たち勇者4人の、何となくの要望を丹念に聞き取って、町のお偉いさん3人の考えも聞き取って、誰もが納得する結論に導いたんだから。
「それでは、我々への報酬として、金貨30枚とヒールポーションとマジックポーションそれぞれ15本ずつ。そして、お三方連名での我々全員分の身分証明書。以上で、よろしいですね」
早見さんの確認の言葉に、3人ともうなずいた。俺たちとしても、特に文句なし。
お金は、それこそ“あっても邪魔になるものじゃない”ってやつで、これから受け取るポーション類は、さすがにリーフ王国からもらったほとんど最上級クラスのものと比べたらちょっと落ちるけど、この町の人たちが入手出来るものとしては最高ランクのもの。
そして身分証明書は、人族と接触した時に、俺たちのことを信用してもらうのに、必要なものとなるはず。
なんせ、万一のことを考えて、リーフ王国では身分証明になるものを、わざともらわなかったんだ。
ただの旅人のふりして、情報収集しつつ進んでいく予定だったんだ。
それが出来ない状態だったとは、思わなかったもんなあ……
今更だけど、身分証明書が手に入ったのは、これからのことを考えるとよかったんだろうな。
お偉いさんたちが帰った後、俺たちはこれからの予定を考えた。
疲れを取るために、もう1日ゆっくりした後、町を出て山を越えることになったんだ。




