05.早見さん、ゾンビ相手に無双する
「……なあ、ちょっと一時停止しよう。嫌な予感するから」
俺がそう言うと、誰もが足を止める。
「確かにな。すっげえ臭いがきつくなってきたし」
火村を筆頭に、俺の“直感”を信じてるみんなは、身構えつつ前方を見つめる。
そして、なんだかネチャッとした感じの足音がいくつも重なりだし、ソレは姿を現した。
小鬼だけじゃなく、元は人だろうと思われる体格の、ボロボロの服を着たゾンビが、ぞろぞろとやってきたのだ。
その数、両方合わせてざっと50体ぐらいはいた!
ちょっと!! 数多過ぎ!!
しかも、まだ奥から足音が近づいてる気配がする!
「うわっ!! いくらなんでも、全部吹っ飛ばすのは無理だぁ~!!」
火村が、悲鳴に近い声を上げる。すでに、結構MP消費しちゃってるもんな。
全力の<火球>でも、一発では小鬼2、3体が限度。人間サイズだと、2体は無理だろう。
あの数じゃ、火村のMPが尽きるほうが早い。MPポーションはまだあるけど、飲んで回復してる余裕はないだろうな。
バルトロさんまでもが、逃げたほうがいいという雰囲気になった時、前に進み出てきた人がいた。早見さんだった。
「ちょっと!! 早見さん、何やってんの!?」
土屋さんが、焦り声で早見さんを下がらせようとした。その時だった。
早見さんが、右手の人差し指と中指を揃えて伸ばし、腕を横に構える。直後。
「とぁぁぁーーー!!!」
鋭い気合の声とともに、早見さんが真横に腕を振りぬく。その途端。
数メートル先のゾンビたちが崩れていく。倒れ伏し、腐肉の塊となり、迷宮の床に吸収されて消えていく。
一撃で、およそ2/3のゾンビが崩れ落ちた。
「てゃぁぁぁ―――!!!」
間髪入れず、再度腕を今度は斜めに振り下ろしての次の一撃。
それは、ちょうどヘッドランプの明かりの中に姿を現した第2陣のゾンビを巻き込んで、一気に大半が崩れ落ちる。
「てぇぃぃ!!」
もう一撃、今度は斜めに振り上げる。
それで、ゾンビは完全に全滅。床に吸収されて消え去った。
あとには、唖然としたまま固まる勇者3人とバルトロさんが残った。俺は、内心“あ~早見さんだもんな”と思っただけ。まあ、ちょっと遠い目になっちゃったはずだけど、あまりのことにぼーっとしてるように見えたみたい。
「……僕の霊能力、こちらの不死者にも効くみたいだね」
顔色一つ変えずに、早見さんがつぶやく。
あ~やっぱりそういうことですか……
「ちょ、ちょっとあんた! 今のは一体、なんじゃ!!」
バルトロさんが、顔色を変えて早見さんに向かって怒鳴るような声を上げている。怒ってるんじゃなくて、驚きすぎて、ああなっちゃってるんだな。
「僕は、元の世界では本業のほかに、悪霊などを浄化する“霊能者”としても活動していました。その力を、試しに使ってみたのですが……充分通用しましたね。なるほど、胸騒ぎの正体は、これか……」
早見さんの答えに、水谷さんがぽつりとつぶやく。
「……そういえば、前に早見さんのステータス見たことがあって、確かに“霊能力”って出てたけど……ここまですごいなんて、思わなかった……」
でしょうね。俺だって思ったもん。『この人、霊能者としても化け物だ』って。
で、結局このことがきっかけで、早見さんに対する見方がガラッと変わった。
戦闘力のない足手まといから、『対不死者の専門家』へ。
不死者だらけのこの坑道を進んでいくのに、これ以上の“戦力”は存在しないってわけ。
だって、あれだけの数のゾンビをあっさり全滅させただけじゃなく、本人が全然消耗してる気配がないんだもん。
結局そのあと、早見さんを先頭に、坑道を進むことになる俺たち。
その後も、数体ずつ小鬼や人間らしいゾンビが現れるんだが、早見さんが、短く『てぃ!』と軽く気合の声を発しながらそろえた指を素早く振ると、あっと言う間に崩れていく。
その後ろを俺たちは、一応後ろを警戒しながらも、とことことついていく。
気分は、ホラーハウスのアトラクション。
だって、目の前であっさりやられてくんだもん。
そんなこんなで、するすると奥まで来ちゃった俺たち。
そして、目の前に一見別な坑道の入り口に見える大きな穴が見えてきた。
「ここじゃ。この穴をふさいでほしいんじゃ」
バルトロさんの言葉に、土魔法を使える面子がさっそく魔法をかけようとする。
「ちょっと待った! ここは、迷宮側に一歩入ったところから地面を浄化しておかないと、あのゾンビたちが土壁をひっかいて、そのうち壁に穴を開けてしまう。霊気の道を消しておかないと、今回の騒動の二の舞になる」
早見さんが、穴の奥を睨みつけながらそう言った。
あの~それって霊能者としての判断ですか? 俺、霊気の道なんて“視えない”けど、早見さんはそのぉ……“視える”わけですね?
とはいえ、そんなこと言われても困るっていうのが、正直な心境。
「そもそも、おかしいとは思わないか? 最初に魔物が現れた時は、普通に小鬼とか出てきていたというんだろう? なら、なぜ今出くわすのが不死者、それもゾンビばかりなんだ?」
あれ、そういやそうだな。
なんでだろう?
「……これは推測なんじゃが、迷宮のほうに、何か起こったのかもしれん。それで、迷宮がゾンビどもに乗っ取られた形になっとるとかな」
バルトロさん、それ、すごい嫌な推測なんですけど……




