02.えっ!? ダンジョンアタックぅ~?
朝方、俺たちが朝食を食べ終わったのを見計らったかのようなタイミングで、オズヴァルドさんが俺たちを訪ねてきた。
そして、開口一番こう言ったんだ。
「実は、あんたたちに頼みたいことがあって、やってきたんじゃ。迷宮を何とかしてほしいんじゃが」
「「「「「迷宮!?」」」」」
嘘!? この世界、迷宮があるのぉ?!
すかさず、早見さんが冷静に続きを促した。
「迷宮を何とかする、とは、具体的にどうしてほしいのでしょうか?」
「実はの、10日ほど前になるか、わしらの仕事場の鉱山のひとつで、落盤が起こっての。巻き込まれた者はいなかったんじゃが、坑道の壁が崩れて穴が開き、そこから魔物が湧き出してきたんじゃ。どうやら、近くにたまたまあった迷宮と、偶然つながってしまったらしい」
その場にいた連中は何とか全員無事に避難出来たらしいんだけど、それ以降、坑道内を魔物がうろつくようになって、ろくに採掘が出来なくなってしまったらしい。
規模は小さいけど、もうひとつ鉱山があるそうで、今のところ採掘にはそこまで困ってないらしいんだけど、入れなくなってしまった鉱山は、鉄鉱石を中心に、いろいろな資源が掘り出せる優秀な鉱山なんだそうで、このまま入れない状態が続くと、困ったことになるんだそうだ。
「わしらドワーフとて、戦えんわけじゃない。じゃが、戦いに慣れているわけでもない。兵士の経験があるものなど、わずかじゃからな。それに、今のところ魔物が外に出てくる様子はないが、出てきてしまったら厄介なことになる。それで、勇者であるお前さんたちに、坑道の穴をふさぎ、再び安心して坑道に入れるようにしてほしいんじゃ」
なるほど。そういうことなわけね。
俺たち勇者4人は、お互いに顔を突き合わせ、どうするか相談した。
でも、答えはすぐに出た。行ってみようって。
やっぱり、迷宮に行ってみたいって気持ちが、みんなあったんだよな。
でも、早見さんがさらに問いかけを続ける。
「魔物がうろつくようになったと言いますが、どんな種類の魔物なんですか? 坑道内での、遭遇頻度はどのくらいですか?」
「うむ。一番多いのは小鬼とそれの同類というか、亜種のヤツらじゃな。しかしな、時に動く骸骨も出てきたというから、油断せんほうがいいと思う。ああいう不死者の類は、厄介な性質を持ってることがあるんじゃ」
……不死者て、マジで存在してたんだ。
なんだかどんどん、いわゆるファンタジーになってく気がするぞ。
今までだって、その要素がなかったわけじゃなかったけど、どっちかって言うと、もっとリアル寄りの“戦争での戦力”って認識を早見さんに突き付けられてたからなあ。
俺、思わず勇者仲間の3人の顔を見た。
火村はそれでも『迷宮に行きたい』って顔に書いてあったし、水谷さんと土屋さんは『ちょっと慎重になったほうがいいかも』って顔してた。
「それと、魔物とどのぐらいの割合で出くわすか、じゃが、そうさな。先日様子を見に入った連中の報告だと、小半刻(約30分)の間に2,3回魔物に出くわしたそうじゃ」
「なるほど、矢継ぎ早というほどではなくても、そこそこ遭遇していますね。疲労が溜まってもゆっくり休息を取っている暇はないかもしれません」
なんか、早見さんが結構重要情報を聞き出してるぞ。
「おい火村。行きたいのはわかるが、ちゃんと準備したほうがいいぞ。いきなり吶喊して、後で困るの俺たちだからな」
「そうだよ。そもそも、わたしたち坑道っていうか、洞窟っていうか、そういうところに入ったことないよ。その準備、したほうがいいよ」
「そうよ。慌てて飛び込むほど切迫してるわけじゃないみたいだし、何が必要か確認して、ちゃんと装備を整えてから入ったほうがいいわ」
「……そこまで言うなら……準備する」
しぶしぶという感じで、火村がうなずいた。
なんせ、迷宮に入ったら、どのくらいで依頼をこなせるかわからないんだ。ペース配分もわからないし。
ただ、オズヴァルドさんからの提案で、例の“落盤で生じた穴”までの案内人をつけてくれるそうだ。
実際、坑道はいくつも分岐してたりしてるので、うっかり迷ってしまったら、出てこられなくなってしまうかもしれないそうだ。
坑道の構造を知っている案内人がいないと、そもそも“穴”にたどり着くことも難しいだろうって話だそうだ。
実際俺も、そう思う。どこを見ても、同じように見える坑道の中なんか、見分けつかないよ、マジで。
「それと、やっぱりただ働きは何なので、報酬も用意するつもりなんじゃが、お前さんたちにふさわしい報酬がなんだかわからんでの。成功報酬と言ってはなんじゃが、一段落ついたところで、どんな報酬がいいか、打ち合わせるつもりじゃ。それで、納得してくれんかの?」
オズヴァルドさんがそう言って、早見さんも俺たちもうなずいた。
俺たちだって、いきなり報酬と言われても、何が欲しいかよくわからないもんな。
話はそこで終わって、午前中準備を整えて、午後から坑道に入ることになり、また迎えに来るから、と言い残して、オズヴァルドさんは帰っていった。
ちなみに、オズヴァルドさんの話によると、この世界の迷宮がどうして出来るのか、よくわかっていないらしいんだけど、唯一わかっているのが、迷宮の中では、死体が残らないのだという。迷宮に吸収されてしまうらしい。残るのは、魔物の魔石ぐらいで、それさえも長時間は残らないらしい。
そういうところは、よくあるファンタジーの迷宮なんだよな。
その後、俺たちは、自分たちが何を持っているのか、改めて空間収納にしまってある装備品を確認した。
ランタンの油は残り少なかったけど、水谷さんが光珠をランタンの中に入れて持ち歩く方法を発明してたから、まあいいか、ってことになった。
他に、俺たちは王城を出立するときに、いろいろなものをもらってた。
けど、ごちゃごちゃとした状態で、物資の運搬も引き受けてたから、何をもらったのかはっきり覚えてないんだわ。保存食やポーションの類はもらった記憶があるんだけど。
何をもらったのか、改めて確認してみたら……
『魔獣除けの香』『MP代わりになる魔石』『魔よけの力がある銀の矢じりが付いた矢』などなど。
結構もらってたんだなあ。
で、当然迷宮に行くなら、役に立ちそうなものばかりだ。
他に、あったらいいものはないか、鉱山用の道具を売っている店に行ってみることになった。
オズヴァルドさんから、話が通っているはずだし。
というわけで、初めて建物から外に出て、みんなで町を歩く。
ぱっと見、リーフ王国の町とそんなに変わらない感じだけど、全体的に道もちょっと狭く、全体的にこじんまりしてる印象があるな。
それなりに人通りはあるけど、俺たちのほうを見ないようにして歩いてる人たちもいる。
ただ、街中を例の“色違いのチョ〇ボ”に乗ってる人がいるのが、目新しいというか。
それでもまあ、教えられたとおりに道を行くと、ほどなく店が見えてきた。
外見の印象は、もう質実剛健というか、無骨というか。
飾り気が全くない建物に、つるはしとスコップがクロスしてる看板がかかっている。
うん、いかにもそれっぽいお店だねえ。
……っていうか、こっちでもああいうの、使われてるんだねえ。
「そういうものだよ。“収斂進化”じゃないけど、同じような用途に使うものなら、同じような形になっていくものだ。こちらの世界の“人”が、向こうの人間である僕たちと、身体構造が同じようなら、使いやすい形も同じようなものになるはずだからね」
早見さんの説明に、みんなフーンとばかりにうなずいている。
考えてみれば、武器なんかも俺たちの世界の中世ヨーロッパの武器にそっくりだったんだから、それは当然か。




