01.嵐の前の静けさ?
この話から、新章スタートです。
いよいよ、有角族の本拠地に近づいていくことになりますが、私が書くことですから、また余計なドタバタが挟まると思います。
それでもいいよ、という方、頑張って書き続けますので、よろしくお願いします。
もし、更新が滞るようなら、「詰まったんだな」と笑ってスルーし、お待ちいただけると幸いです。
俺たちが、シレアの町に滞在することを決めて、半日。
朝方の、食事会という名の尋問が、火村のやらかしで一気にすべてぶっちゃけるという方向に振り切れ、改めて町のお偉方と顔を合わせることになり、なんだか疲れた。
もちろん、対応してたのは早見さんなんだけど、俺たちも、否応なしに付き合わされたからなあ。
おまけに、薬が効いてた火村が、さらにぼそりぼそりと余計なことをつぶやいてくれて、俺たちが間違いなくリーフ王国によって召喚されたことや、最前線から敵を押し返したこと、占領地から、年に1度若い女性が連れ去られていることなどが、知られてしまった。
さすがに、俺たちの本名まではばれてないけど。火村のヤツが、そもそも名乗ること自体を、すっかり忘れてたせいでもある。女の子たちの名前を呼ばなかったのも、普段から―本人曰く、照れくさいらしい―あんまり呼ばなかったからっていう、あほな理由でだし。っていうか、きっちり覚えてたの、早見さんだけだったけどな。
俺たちが召喚勇者だってことはともかく、若い女性が連れ去られていることを、ここの人たちは知らなかったそうだ。
おそらく、そういうことが始まる前に、隠れ里のようなこの町に逃げ込んで、外界との接触を断っていたせいだろうって、早見さんが言ってた。
「ここで、自給自足が出来る状態だったなら、わざわざ見つかる危険を冒してほかの町と接触する必要はないからね。もちろん、情報が手に入らなくなるというマイナスはあるが、他の町だって結界に閉ざされたせいで、他の地域の情報が手に入らなくなっているんだ。なら、自由に周囲の土地に出入り出来る今の状況を守れたほうが、ずっといいはずだよ」
実際、ドワーフが納得して町に住んでいるくらい、しっかりした鉱山が近くにあるそうだしな。
でも、クリスを見た時の、町のお偉いさんの顔は傑作だった。ぎょっとしすぎて後ろに控えてた護衛のお兄さんたちが、一瞬武器に手をかけたもん。
けど、当のクリスが早見さんに懐きまくってて、全然危険な感じがしないもんだから、みんなポカーンとしてたしな。
その様子は、ほとんど“ペットとその飼い主”だったもんな。
しかし、なんで火村のヤツ、ああも余計なこと口走りまくったのかねえ。
水谷さんや土屋さんは、そういうポカはひとつもしてないのに。
「……よく言えば素直、悪く言えば深く考えてない脳筋だから、だろうねえ……」
早見さんが、遠い目をしてつぶやく。
最初の予定と全然違う方向に行っちゃったから、交渉役としては遠い目になるしかないよな。
いくら口を滑らせやすくなるからといっても、余計なことを言うまいと、ちゃんと意識してればそこまでボロボロこぼすことはないみたいなんだけど、あいつ脊髄反射でしゃべってるんじゃないかって思ったもんな。
女の子たちにも、後で文句言われてたしな。『余計なことを言いすぎだ』って。
火村本人は、なんか自覚がないみたいで、いまいちピンと来てない感じだったけど。
それを見ていた早見さんが、深々と溜め息ついてた。
その後、実は一服盛られてたんだってラウロさんから打ち明けられ、謝られたんだけど、はっきり言って、もう今更だった。
盛ったほうも、あそこまでペラペラしゃべってくれるとは思ってなかったそうで。
しかも、口滑らせたのは直接の交渉役じゃなくて、後ろに控えてた勇者本人。それも、大きすぎる独り言。
そりゃ、早見さんも頭抱えたくなるわな……
もう今は薬の効果は切れてるんで、余計なことを言うことはないんだけど……火村のヤツは、そういう意味ではちょっとばかり信用なくしてた。
だって、他に口滑らせた人、いないんだもん。
『脳筋にもほどがある』って、水谷さん怒ってたな。
土屋さんも呆れてたし。
それをなだめたのは、もちろん早見さん。
「まあまあ。薬のせいでもあるんだし、そこまで言わなくてもいいじゃないか」
と言いつつ、火村には釘を刺していた。
「火村くんは、心で思っても、それを独り言であろうとぽろぽろ口に出さないこと。1回頭で考えて、ここで口走っていい内容なのか、ちゃんと見極めようね」
「……ハイ……」
さすがに、これだけ言われれば、いくら脳筋でも反省するか。
これからは、もうちょっと気をつけろよ。
そして、さすがにいろいろあって、疲れたんでそろそろ休もうかって話になった。
外も、そろそろ暗くなり始めてるし。
ホントは、お湯を張った湯船にゆったりつかって、疲れを癒したいところなんだけど、こちらの風呂って、結局“西洋の風呂”なんだよな。
ひとりが寝そべるような姿勢で入る細長い風呂桶に、浅くお湯を張って中で石鹼を泡立てて体を洗い、泡だらけのお湯を抜いて、別に用意したお湯で体を流して終わりってやつ。
幸いこの町は、水は結構豊富だそうで、水の使い方はけちる必要はないそうだけど、それでもな。
「日本式の湯船につかるのは、諦めたほうがいいと思う。あれは、風呂そのものの思想が違うから」
つまり、身体をきれいにするだけのものと、リラックス効果まで求めるものと。
普段シャワーで済ませてても、やっぱり時には湯船にゆっくりつかりたいと思うのは、日本人なら当然なんだけど……ここ、異世界なんだよな……
でもまあ、風呂の前に、まずは夕食ってことで、また仕出し弁当みたいな感覚で、例の編み籠に入った夕食が届けられた。
中身は、昨夜のメニューのメインディッシュの焼肉が、今日は焼き魚に変わってたけど。
これ、川魚なのかな。見た目は、なんだかアジみたいに見えるけど。
ちゃんと身だけになってて、それがおそらくフライパンみたいな鍋で油で焼いてある。
それをまた、パンに挟んで食べる。お手軽なんだもん。
魚の味は、ちょっと味の薄い鮭。まあまあおいしい。身の色自体は、白身だったんだけど。
「……なんだか、鮭みたいな味だな」
火村も、そう感じたんだな。俺だけじゃなかった。
「こういうところで取れたんだから、川魚よね。なんだか味が、川魚っぽくないわね」
「うん、ほんと。おいしいのはおいしんだけど」
水谷さんも土屋さんも、もぐもぐ食べながら顔を見合わせている。
「元の世界だって、サケ科の川魚は存在していたからね。君たちの世界でどう呼ばれてたかはわからないけど、“ヒメマス”とか“ヤマメ”とか“アマゴ”なんかは、全部サケ科だ。もともとは、鮭と同じく海まで下っていたものが、海に降りられなくなって淡水の中で繁殖をするようになった『陸封魚』だからね」
それを聞いて、火村が懐かしそうにつぶやく。
「オレの叔父さんが渓流釣りが趣味で、よく釣った魚を持ってきてくれてたんだ。確かに、“ヤマメ”とか言ってた気がする」
あー、魚の名前なんかはあんまり違わないのね。
それはともかく、例の桃みたいな味の果物をデザートとしておいしくいただいて、夕食を食べ終えた。
その後、やっぱり『<清浄>でいいんじゃない?』って話になって、結局魔法で身ぎれいにして、また部屋に戻って寝ることになった。
俺の部屋には、もうひとつベッドを持ってきてもらったので、もう早見さんに床に寝てもらうってことにはならないで済む。
あれは、ちょっと申し訳なかったもんな。
その夜はそれで済んだんだけど、翌朝、とんでもないことを頼まれることになったんだ。




