29.これって軟禁に近いのでは……
3人の案内で、俺たちは町の集会所みたいな2階建ての建物に到着した。
町には、事前の予想通りに宿はないけど、この集会所の2階に寝泊り出来る部屋があるそうだ。
途中、道端に誰もいなかったのがちょっと気になるんだが。
「ひとまずここに泊まれるので、ここで過ごしてほしい。あんたたちを信用しないわけじゃないが、万一ってのがあるからな」
匠の長であるラウロさんから、暗に『この建物から下手に動くな』と言われ、もう仕方なしに俺たちは全員中に入る。
長の人たち3人と護衛の守備兵も入って、1階の広々とした部屋に全員で集まった。
ここで改めて、事情聴取というか、いろいろ聞かれることになった。
そこで、なぜ途中の道に誰もいなかったのかがわかった。
俺たちが橋を渡ってきたことで、いわば『非常事態宣言』みたいなものが出され、家に閉じこもってしまっていたらしい。
……そこまで警戒されるか……
早見さんが中心になって、話をした結果、俺たちの身体能力を確認したマンディス隊長の口添えもあり、何とか信用してもらえた。
それでも、住民とうかつに接触はしないでほしいと言われた。
住民の中には、戦火を逃れてここにやってきた元難民だった人たちがいるから、ということだった。
まあ、トラウマ抱えてる可能性もあるもんな。
その後、町の関係者は出ていき、後には俺たちが残った。
食事は後で届けるから、この建物の中なら、自由にしていていいと言われて。
さすがに、外から鍵をかけられたりすることはなかったけど、なんか間違いがあったら閂でもかけられて閉じ込められそう。
「……なんか、思ったより歓迎されなかったな……」
火村が、何となくぶすっとした顔でつぶやく。
水谷さんも土屋さんも、同じような表情でうなずいている。
「……まあ、間違いなく余所者だからね、僕たちは。有角族のスパイが混ざっている可能性だって、否定出来なかったんだろうね、向こうは。僕たち自身はそんなことはあり得ないとわかっていても、それを証明するものなんか何もない。だからだろうね」
早見さんが、苦笑の混じった顔でそう言うと、3人とも納得出来ませんという顔ながら、しぶしぶという感じでうなずいた。
俺も納得してるわけじゃないけど、余所者を警戒する気持ちは、何となくわかる。
「おそらく、難民として流れ込んできた人たちから事情を聴いて、警戒心がほぼマックスになってるんだと思う。それがまだ緩んでいないんだ。相手だって、<幻術>が使えても不思議じゃない。それで惑わされた経験があるなら、絶対に警戒する。人族だからと、無条件に信用したりはしない」
早見さんの言葉に、皆『あぁっ』という顔になった。もちろん俺も。
俺たちだって、目の色を誤魔化すために使ってるじゃないか。連中が、角を誤魔化すために使ってたって、全然不思議じゃない。
それで、俺は早見さんに訊いてみた。
「……ねえ、<幻術>を見破る方法って、あると思う?」
「あると思うよ。まず、それを見ている者が、<幻術>であることを強く疑い、真実を見極めようとする場合だ。これは、意志力と魔法の勝負となる。あるいは、魔法による術破りを試みることかな。これは、魔法同士の威力勝負になる。とにかく、前提としては『相手が<幻術>を使っているかもしれない』と疑えるかどうかで決まる」
なるほど、確かにね。
「僕たちは、この町に長居する必要もないだろう? そりゃ、新しい情報が手に入ればそれに越したことはないけど、この状態じゃ、難しいかもしれない。ならば、必要な装備や物資を手に入れたら、出発したほうがいいんじゃないかな?」
早見さんは、この町にそういう意味では期待してないっぽい。
やっぱり、早めにこの山を越えて、先に進むほうがいいって思ってるんだろな。
「……でも、ちょっとだけ疑問なのよね」
不意に、水谷さんが口を開いた。
「前に、私たちが軍事拠点を襲撃したあと落ち込んでた時、『落ち着くまで何日も居たっていいんだよ』って言ってたわよね? でもそのあと『この世界にいる時間を、出来る限り短くしたほうがいい』とも言ったわよね? なんだか、矛盾してない?」
「それは、日数の問題だよ。野営地に滞在するなら、せいぜい1週間くらいだろう? 実際はもっと早く移動したしね。でも、山を迂回するとなったら下手をすれば月単位での迂回になる可能性があった。しかも、敵に見つかるリスクもその分上がる。だから、山越えのほうがいいと判断したんだよ」
そう言われてしまうと、さすがに何も言えなくなる。
俺たちが帰るときに、こちらで過ごした時間はチャラには出来ないとも言ってたし。
だから、数日の遅れなら目をつぶるが、数週間から月単位の遅れはダメだって判断なんだな。
<幻術>の力が上がって、長時間全身を誤魔化せるようになるまでは、どうしたって街道沿いなんか歩けないし。なら、山越えで時短を図るっていうのも、まあ正しい判断ってことだな。
で、そういうことを言った当の早見さんは、クリスにじゃれつかれてなんか一緒に遊んでるっぽい感じになっていた。
それを見たほかの3人は、なんか毒気を抜かれたような顔してたけど。
それはともかく、この建物の中なら、<幻術>を使わなくても済むはず。
ということで、目元にかけていた<幻術>を解いて、ある意味素顔になった。
……改めてみると、やっぱりこれだけ色の濃い、遠目には黒く見えるほどの濃い茶色の目をしてる人って、いないんだよな、この世界に。
明るい茶色ならいるんだけど。
「けど、全部自力で何とかしろっていうのかな。お風呂とか、ベッドメイキングとか、自分たちで段取りしろっていうのかなあ……」
土屋さんが、ちょっとうんざりしたような顔になる。
あ、それはある。手分けして確認した結果だけど、キッチンらしきものはなかった。あとで食事は持ってくるって言われたから、それはいいんだけど、風呂らしきものは一応ないことはなかったが、浅いタライみたいな桶にお湯を溜めて体を洗うっていう感じのものだった。
ただ、王宮にいたころも似たようなものだったんだけど、お湯を用意してくれたり、体を洗うための石鹸や、身体を洗ったりぬぐったりする布を用意してくれたりする人がいた。
でも、ここには誰もいない。
要は、『自力でやれ』ってことなわけだ。
「……言いたくはないけど、運ばれてくる食事にも気を付けたほうがいいかもしれない。毒を盛られることはないだろうけど、眠り薬とか、自白剤じゃないけど、つい本音をぽろっと言ってしまいたくなるような薬が混ぜられている可能性は、考えてもいいかもね」
早見さんが、物騒なこと言いだした!
いくら可能性の問題だからって、それは……




