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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.3 深まる謎

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26.ちょっぴりホームシックな俺たちが、町を望む

 ここから見える景色は、本当に山の谷間の一角に、満開の桜の木々が固まって生えているようにしか見えない。

 それを見ているうちに、切なくてたまらなくなった。

 早見さんがいるから、いつかは必ず帰れるとは頭ではわかっているけど、実際にはいつ帰れるかわからない。

 元の世界で桜を見たのが、はるか昔のように感じられた。

 しばらく会っていない両親や、姉貴の顔が浮かんでくる。

 急にこみ上げるものがあって、俺は涙をこらえている自分に気が付いた。


 「……ここなら、他人の目はない。泣いたっていい。喚いたっていい。吐き出してしまったほうが楽になるなら、そうしたほうがいい」


 早見さんの言葉に、火村が大声で叫んだ。


 「なんでこんなとこにいるんだよ、オレたち!! 何やってんだよ!!」


 女の子2人は、目に涙を浮かべながら声をそろえた。


 「「好きで勇者になんか、なったわけじゃない!!」」


 うん、それには同意。考えてみると、召喚直後のテンション上がってる時だけだったな、『俺たち勇者だ!』って盛り上がってたの。

 それから現実に直面して、無我夢中でそれに対応してきたけど、あの桜そっくりの光景見てたら、なんだか気持ちが切れてきちゃったぞ。


 今更なんだけど、帰りたいって思うようになった。……ほんとに今更のホームシックか……

 早見さんは、ただ黙ってしたいようにさせてくれた。

 4人で泣いて喚いて、息を切らせて、膝に手をついて下を向いたまま黙りこくって。

 しばらくしてから、早見さんが静かに声をかけてきた。


 「……落ち着いてきたかい。でも、ここじゃゆっくり休憩も出来ないから、休めそうなところまで、移動しよう。お茶でも飲んで、一服して、それから本格的に前進しよう」


 それを聞いて、俺たちは素直にうなずき、それでも何となく後ろ髪を引かれるような思いをしながら、歩き出した。

 あの桜そっくりの木が生えている場所、行ってみたい。そんな思いが、どうしても残る。

 頭の中に、淡いピンクの桜の花が満開に咲いている真下を歩いてるような、幻想が浮かぶ。桜吹雪が舞うのが、見える気がする。


 それから俺たちは、何となく心ここにあらずっていう感じで歩いていた。

 危険な生き物に遭わなくてよかったな……って思ったんだけど、考えてみれば、早見さんがそういう危険は全部排除するだろうなって気が付いたら、何も起こるわけないか、と考え直した。


 少し先に、大体5メートル四方ぐらいの開けた場所があり、そこで休憩を取ることになった。

 例のごとく土魔法で小さなかまどを作り、お湯を沸かしてお茶を入れる。

 お茶を飲んで一息ついたところで、早見さんがまたカ〇ロ飴を1個ずつ配ってくれた。


 そこでふと気が付いた。早見さん、偵察のときに、あの“桜”の様子も見たのかな? なら、アレの本当の姿も知ってるのかな?


 「……ねえ、早見さん。あの“桜”、偵察のときに調べた?」


 小声で、早見さんに訊いてみる。


 「……さあ、ね」


 俺、直感した。これは絶対目にしてる。


 「……どんなだった? 教えてよ」

 「……『知らぬが仏』ってことわざがあるだろう? 知らないほうがいいこともあるんだよ……」


 あ……これは間違いなくヤバいものだったな。うん、これ以上聞くのはやめとこう。


 「もしかしたらこの先、アレの正体を知ることがあるかもしれないけれど、知らないで済むなら、それに越したことはない。美しい光景を脳裏に焼き付けたまま、旅を続けることが出来るんだからね……」


 あ~なんだか納得。確かにアレ、遠目に見てる分には、すっごくきれいだったもんな。

 きれいなイメージだけ覚えていて、あとでそれを思い返して、心を奮い立たせることも出来るってわけか。

 うん、あのきれいな光景だけ、覚えとこ。


 気持ちが落ち着いたところで、改めて後始末をして出発。

 道は再度、左右に背の高い藪が広がった状態になり、見通しが悪い有様になった。

 やっぱり、主に上半身に藪がぶつかる。これって、獣道の印なんだよね。

 大型の(けもの)や魔獣がいない証明でもあるから、ちょっとは安心材料になる。


 先頭の火村は、とうとう我慢出来なくなってきたらしく、小剣を抜いて薮を切り払い始めた。今迄は、手で払いのけるだけだったんだけど、いよいよ藪がひどくなってきた感じだもんな。


 そうやって、薮を開きながら進むことしばし、だいぶ日が傾いてきた頃、どうやらもう少し先でまた開けているらしい雰囲気になった。

 それに気が付き、俺たちは頑張って前進した。

 そして、薮を抜けた俺たちは、すごいものを目撃した。


 いきなり、空間が開ける。

 俺たちの目の下に、ものすごい光景が広がっていた。

 周囲を山に囲まれた、切り立った台地の真ん中。下を流れる川から、100メートル以上は落差のある断崖の上に、小さな町があった。

 1ヶ所だけ見える、つり橋みたいな入口があり、町を挟んだ反対側には、畑らしい緑の区画が見える。例の、“パンの木”らしきものが植わっているのも見えた。

 つり橋を渡る手前の斜面にも、段々畑らしい区画があった。ちゃんと、人が暮らしてるんだって気配が感じられるのが、ちょっと感動。

 何となく、本当にマチュピチュを彷彿とさせる感じ。

 よく見ると、家々のところどころにうっすらとした煙が何本か見える。

 町の中にも川が流れているらしく、断崖の縁から滝が流れ落ちて、下の川に合流するのが見える。


 なんだ、この絶景というか、すげえ場所にある町。

 俺たちが今まで歩いてきた、尾根を越える峠道は、緩やかに下りながら町まで続いているみたい。


 「……町だ! こんなとこに町があるなんて!!」

 「すごい……。崖の上に建ってる町だわ!」

 「絶景!! こんな山の中に、町があるなんて思わなかった!」


 俺も、事前に町があるらしいと聞いてはいたんだけど、こういうところだったとは思わなかった。


 「すっげえなぁ……。なあ、あの町、行ってみないか?」


 俺の問いかけに、皆目の色を変えてうなずいた。


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