25.パーティー内恋愛禁止!?
「まあ、迂回することは出来るだろうけど、その分余計な時間がかかるはずだ。別にあわてる必要はないけど、時間がかかればかかるほど、こちらの世界のしがらみが出てくる可能性がある。それでもいいのかな?」
「しがらみって……?」
今度は水谷さんが、怪訝な顔になった。
しがらみって言われても、俺だってピンと来ないぞ。
「この世界で過ごせば過ごすほど、何かのはずみでこの世界の人々と深い結びつきを得てしまう可能性が上がる。そして、君たち自身親睦を深めること自体はいいことだが、必要以上に親密になるのはやめたほうがいい」
「どういうことだよ! 仲良くなっちゃ、いけねってのかよ!」
今度は火村が、不服ですと顔に書いてある表情で大声を出した。
「仲良くなっちゃいけない、とは言っていないよ。ただ、恋愛感情は持っても表に出すな、ということさ」
それを聞き、3人が3人とも眉間にしわを寄せる。
けど、早見さんはさらに続けた。
「忘れているかもしれないけど、君たちはお互いが異世界人なんだ。帰る方法が見つかったら、それぞれが自分の世界に帰っていくんだ。その時、お互い好きあって、別れたくないと考えるようになっていたら、どうする?」
「「「「……」」」」
「どうしても別れたくない、なんてところまできていたら、この世界に残ってここに骨を埋めるしかない。どの世界へ行ったって、相手にとっては二度と故郷に戻れないことは確定なんだ。相手だけに、それを押し付けるなんて、フェアじゃないだろう?」
早見さんが、みんなの顔を順番に見ながら、言い聞かせるように告げる。
……だよな。俺と早見さんは同郷だけど、他はバラバラなんだもん。
で、3人はというと、改めて気が付いたって顔をしている。
今まで、一緒に頑張ってきたせいで、かえって互いが異世界人だってことを忘れてたっぽいんだよな。
そして、帰るときには、みんなバラバラに元の世界に帰ることになる。だから、せいぜい片想いで済ませろってことなわけだ。
そういや、そうなんだよな。仲良くすること自体は、いいことなんだけど……
早見さんにはっきり言われた3人、改めて考え込んでいる。
「だから、この世界にいる時間を、出来る限り短くしたほうがいいんだ。何年もかけていたら、帰るときだって、その分年を取った状態で帰ることになるんだよ」
あの山脈を迂回するなら、相当な大回りになる。山脈を越えるなら、時間を短縮出来る。あの山脈は、そこまで険しくはないから、本格的な登山装備がなくても、山越えは出来るはずだ、と早見さんは続けた。
それを聞いて、俺も含めた勇者組は、顔突き合わせて相談を始めた。
どうしたもんか、と話し合っていたんだが、結局行ってみるか、ということになった。
……俺は、早見さんから『山の中に有角族に支配されていない町がある』って聞いてるから、うまい方向に行ったな、って思ってるけど。
街道自体は、山脈を迂回するように延びているようだ。なら、山へ向かうのも街道からはずれることになるから、俺たちとしては特に問題ないわけだ。
俺たちは、まっすぐ山脈に向かって歩き出した。
見えてるんだから、割とすぐに到着するんじゃないか、と思ってたんだけど、麓にたどり着くまで、結構かかった。
山が見えだしてから、半日かかったもん
でも、いよいよ地面が上り坂になり始め、山に入るんだな、というところで、俺たちは改めて山を見上げた。
どう見ても、途中から道が険しくなっているんだろうな、って予感がする。
とはいえ、本格的な登山装備は必要ない……ていうか、持ってないんだから、そんなもんが必要なら、山越えなんてとても無理だ。
さらに言うなら、なんか獣道みたいなはっきりしない踏み跡しか、そこにはないってことが問題だった。
……考えてみると、山の中にある町って、自給自足出来るっぽいんだよな。なら、わざわざ降りてきて、有角族に見つかるリスクを冒すわけはないかって思う。
とにかく俺たちは、山登りを始めた。
その道はって言うと、幅が1メートルもない踏み跡みたいな感じで、胸から上には結構藪が当たる。
早見さん曰く『こういう“道”は、人の背丈より低い動物が行き来して出来た獣道で間違いないだろうね』ということだった。
魔獣じゃないのが、幸いか。魔獣だったら、もっとでかいはずだから。
「魔獣が作った獣道なら、それこそ見た目は人が行き来して出来た道とほとんど同じだろうと思う。大体、ガタイがでかいんだから、薮を押しのける面積が、人と大差ないだろうし」
早見さんがそう付け加えると、みんながうなずいた。
下手すりゃ、人よりでかいヤツいるもんな。なら、普通の(?)獣道をたどってる限り、魔獣に遭う可能性は低いってことだな。
そうやって歩いているうちに、だんだん藪がまばらになってきて、道の片側がけっこう急な斜面になってきた。
そこそこ藪があるから、誤って滑落しても途中で引っ掛かりそうだけど。
小学生の頃の遠足で登った山よりちょっと急だな、という感じの道をみんなで登っていくと、しばらくして前方が急に開けた。
そこは道が大きく斜面を回り込んでいるところで、下の谷筋がよく見えた。
そして、その谷の一角に信じられないものを見た。
「桜だ!」
そう叫んだのは、俺だったのか火村だったのか。
そう、淡いピンク色に染まったその一角は、満開の桜の木々そのものだった。
ほとんど無意識に谷に降りようとした火村を、早見さんが肩を掴んで止める。
「落ち着きなさい! あれは桜じゃない! 遠目に、そう見えるだけだ! 大体桜なら、夏も間近なこの季節に咲くはずないだろう!!」
早見さんに怒鳴りつけられ、火村はハッと振り返って早見さんのほうを見た。
「遠目に見るから、桜そっくりに見えるだけだよ。ここは異世界だ。遠目に桜そっくりだろうと、近づいてみれば全然違うものだったなんて、充分ありうることだ。ここで見ている分には、きれいで、桜を思い起こさせる姿。なら、ここで見るだけにしたほうがいい。ここなら何の危険もなく、安全だ。それでいいじゃないか」
早見さんに言われ、火村は心なしかしょんぼりしながらうなずく。
火村だけじゃない。水谷さんも土屋さんも、同じように少し肩を落として見えた。
……正直俺も、我に返ってがっかりというか、しょんぼりというか。




