23.新しい魔法に目覚めたぞ
森の中の野営地で、しばらく過ごした。
火村はなんだか、斧槍さばきがかなりうまくなった気がする。
水谷さんは、短い間だけど幻術が使えるようになった。
土屋さんは、なんと闇魔法に目覚めた。
闇魔法ってなんだって思ってたんだ。まさかいきなり、半径10メートルのエリアを闇に包むなんて、思わなかったよ。
ホントに“闇”じゃんか。
なんでこれが精神操作系になるんだ? って思ってたら、早見さんがまた突っ込んできた。
「なぜ闇魔法が精神操作系なのか。いきなり闇に閉ざされて、どう思った? 一瞬びっくりして、ちょっと不安を感じなかったかい? その心の動揺を誘うものが、精神操作の入り口になるんだよ」
あ~そういうことか……
だから、心を動かす精神操作系……
「……出来ればわたしも、光魔法のほうがよかったかなあ……」
一応、どちらでもいいからと魔力を巡らせていたらしいけど、目覚めたのが闇のほうだったってことで、土屋さん、苦笑気味だ。
俺も何度も魔力を巡らせていたんだけど……どうも俺も、光じゃなさそうな感じ。
闇かなぁ。
火村は、水谷さんの幻術を見て、どうやらまた魔法のほうの訓練をやりたくなってきたらしい。
うんうん言いながら、魔力を巡らせる訓練を始めた。
……お前は無理しなくていいぞ。新しい系統じゃなくて、火魔法の精度を上げろ。
そのほうが有用だ。
と、不意に何かの回路が繋がったような、不思議な感覚があった。
この感覚は、なんだ? 何か、目覚めつつあるのか?
俺、必死に感覚を研ぎ澄ませていった。
そうしたら……
俺の指先から、小さなパチッっという音を立てて、青味がかった白い光が飛び出した。光魔法? いや、これ、光魔法じゃない。
光魔法の光なら、きれいな白なんだ。それに、音だってしないし。
この光は……
「風間くん、それは電撃系じゃないか? 風魔法の延長線上にあるものだと思うよ」
えっ!? 電撃系!?
これって、電撃なのぉ?!
「な、なんでお前が、電撃系なんかに目覚めてんだよ1?」
焦ったような声で、火村が怒鳴る。
そりゃそうだよな。あいつだって、新しい魔法の系統に目覚めないかって、頑張ってたんだから。
俺が、全然別系統の力に目覚めて、泡食ったんだろうなあ。
「火村くん、君は火魔法のバリエーションを広げる方向で行ったほうがいいんじゃないかな? 何も、火の塊を飛ばして攻撃するばかりが、能じゃないだろう?」
早見さんに言われ、火村は憮然とした顔になった。
とはいえ、早見さんの言ってることは、それこそド正論。何でもかんでも『ファイヤー!!』で済ませるわけにもいかんだろうよ。
「でも、なんで風間さんが電撃系? 風間さん、風でしょ? 風が、なんで電撃なのよ?」
土屋さんが、なんだか口を尖らせて不満そうだ。……目覚めたのが闇魔法だったのが、もしかして納得いってない?
「四大精霊である火、水、土、風の中で、実は天候操作につながる要素が一番強いのが、風なんだ。よく、天気が急変する前兆として、“冷たい風が吹く”ということが起こるだろう? 天候急変とは“雷”、つまり雷撃。雷の正体は電気だから、電撃ということになる」
早見さんの解説に、みんな何となく納得したような顔になる。
……風って、天候操作につながるのか……
言われてみれば、風だけが、屋外での自然現象だもんな。火はその辺に自然にあるものじゃないし、水や土は、それこそそこに存在しているだけだ。
風だけが、時に物を吹き飛ばしたりするようなことが起こる。
もちろん、実際にはいろいろな要素が絡まってるわけだけど。
俺は、もう少し丁寧に念を込め、さっきちょこっとだけ出た小さな電撃を、大きく育ててみようと思った。
あれが本当に大きくなれば、その破壊力は半端じゃないぞ。
それに、さっきは狙って出したわけじゃない。狙って出せるようにならないと、使えるようになったとは言えないからな。
結局、土屋さんが闇魔法に目覚めたのを皮切りに、俺が電撃系に目覚め、火村は……早見さんの叱咤激励によって、炎を壁状に吹き上げるいわゆる<炎の壁>を使えるようになった。
うん、魔獣はともかく、気の荒い獣に襲われる可能性が低くなるな。
不意を打てば、敵への牽制にも使えるはずだ。
……火村自身は、新しい系統の魔法を覚えたかったらしいけど、充分役に立つんだから、いいじゃんか。
水谷さんの<幻術>も、だんだん効果時間や効果範囲が広がってきた。この調子なら、次の町に着くころには、マジでしっかりみんなで色々聞き込み出来るようになるかもしれない。
特に、俺たちの黒い目をちゃんと誤魔化せるようになると、相当違うもんな。
髪の色は、一応染め粉で変えているけど、落ちやすいから、全部まとめて<幻術>で誤魔化せればそれに越したことはないもんなあ。
みんなの精神状態がだいぶ落ち着いてきてから、いよいよ有角族の国へ向かって、出発することになった。
普段は染め粉で髪を染めただけにしているが、町や村に近づいたら<幻術>で姿を変えることになった。
さすがに、丸一日姿を変えたまま、なんてところまではいかないから。
水谷さん曰く、全員に<幻術>をかけて、大体1時間ぐらいで効果が切れる感じだそうだ。
そのくらい持てば、青空市で買い物をしたり聞き込みをしたり、いろいろ出来る。
まあ、丸一日持つようになれば、有角族に姿を変えて、堂々と街道を進めるようになるんじゃないか、って思うんだけどね。
人族が誰も旅してない土地で、人族の俺たちが目立つところをうろうろするわけにいかないからなあ。
俺たちは、野営地を引き払い、出来る限り人が滞在した跡を消したあと、出発した。
気晴らししたせいか、ここに来たときはなんとなくどんよりしてた3人も、すっかり落ち着いている。
どうせ、街道を外れたところを、森や藪を縫うように進むのは変わらないんだ。胸張っていこう。
俺が自分を励ますためにも、あえて口に出してそういうと、それを聞いた3人が、軽く肩をすくめて見せる。
「その意気だよ。出来るだけ、目撃者がいないルートをこれからも歩くことになるんだから、騒がず、だからと言ってしんみりする必要もないから楽しく、歩いていけばいい」
早見さんが、そう言って微笑む。
さすがに見慣れてきたからか、早見さんの笑顔に変なリアクションとるのはいない。
うん、昔からの格言『不美人は三日で慣れるが、美人は三日で飽きる』というのは、本当なんだな、って思う。この場合、“飽きた”んじゃなくて“慣れた”なんだけど。
俺たちは、東へ向かって歩き出した。




