21.気晴らしキャンプ
とにかく、ちゃんとタープを張って休むところを作り、ぱっと見そこに人がいるのがわからないように、周囲の木の間にクリスに糸を張ってもらい、そこに引っ掛けるようにそこらの葉っぱや草をむしったやつをくっつけ、カモフラージュする。主に、俺と早見さんとクリスで。
遠目には、森の薄暗さもあって、そこにいくつもタープが張られているなんてわからなくなった。
「別に、落ち着くまで何日も居たっていいんだよ。無我夢中でやったことでも、我に返って愕然とすることは、人間ならあって不思議じゃないからね」
早見さんが、3人にそう声をかけ、気持ちが落ち着くまで休むように促している。
ちゃんと、長期滞在しても大丈夫なように、いろいろ整えたしね。
そこまでやって初めて、髪を染め直す精神的な余裕が出来た。
みんなが、前に染めていたのと同じ髪色になったところで、やっと『見つかっても誤魔化せそう』という気持ちになった。
でも、俺以外の3人は、やっぱり何となく元気がない。
そこで早見さんが、詳しくは話せないけど、かつて自分も同じような状態になったことがあるので、何となくでも理解出来る。本当に無理する必要はないのだ、と言い出した。
「……同じような状態って、何があったの?」
気になったんだろう、土屋さんが問いかけてくる。
「……本当に、詳しく話せないんだよ。ただ、自分はこの世からいなくなったほうがいい、と思い込むほどおかしくなっていたことがあったんだ……」
それを聞き、3人とも一瞬驚いた顔になり、そのまま黙りこくった。
……俺も、ちょっとばかり驚いた。結構、シャレになってない感じじゃね?
結局、3人ともそれ以上は早見さんの過去に触れようとすることはなくなった。何となくだけど、聞いたらヤバいんでは? という予感がしたんだよな。
それから3人は、思い思いに気晴らしになることを始めた。
火村は、食料調達も兼ねて狩りに行き、水谷さんと土屋さんは2人で顔つき合わせながら、空間収納から取り出したノートに何か書きつけている。
その女の子たちの様子を見ながら、なぜか何となく嫌な予感がする。なんでだ?
「……あの2人見てると、何とはなしになんだけど、嫌な予感がするんだよねえ」
早見さんまで、微苦笑しながらそう言った。
あの2人が書いてる内容、なんなんだろうか?
で、たまに2人してこっちをチラ見するのも、すっげえ気になるんですけど……
俺と早見さんが、2人して何となくもやもやしていると、火村が割りと陽気な声を上げながら帰ってきた。
「いい獲物が取れたぞー! 肉が美味いやつだぞー!」
意気揚々という言葉そのものっていう感じの火村が、額にうっすら汗をかきながら、空間収納から目の前に獲物を出してきた。
元の世界の鹿くらいの大きさで、見た目は巨大モルモットというやつで、こいつの毛皮は上質で、肉も牛肉みたいな風味のかなり美味いヤツだった。
火村は嬉々として、解体作業を始める。
火村は、この解体作業が結構うまい。
ダガーと呼ばれる大ぶりのナイフを使い、結構器用に皮を剥ぎ、肉と骨、内臓を切り分けていく。
内臓は食べないほうがいいので、まだ腹の中にあるうちに野営地のそばを流れる小川に流した。あとは、川の中にいる生き物や、川べりに住む生き物が、きれいに片付けてくれるはず。
肉の塊にした後、今日食べる分を小さく切って串に刺しておき、残りは少し薄めに切って塩を擦り込んで干したり、燻製の用意をする。
この世界、実は燻製もなかったんだけど、早見さんがやってみようと言い出して、実際野宿しているうちにやってみたら、結構うまくいったんだわ。
で、自分たちの保存食として作っておくことになったわけで。
せっかく、新鮮な肉が手に入ったんだしね。
え、熟成? 出来るわけない。腐らない温度で保管しておく場所はないし、空間収納は時間が停止しちゃうしな。
鮮度のいいお肉として、取っておくことも出来るけど、干し肉にしたりすれば、例えば青空市なんかで人と接触した時に、取引材料として使えるんじゃないか、っていう話になったんだ。もちろん、言い出しっぺは早見さん。
で、燻製の道具は、当然お手製。
ぶっちゃけ物資を入れていた木箱のうち、手ごろな大きさのやつをいくつかもらってきていたんで、それの隙間を粘土でふさいで煙が漏れないようにし、蓋を工夫して出し入れが出来るようにしてから、実際にやってみた。元の世界で、段ボールを使って簡易燻製器を作ってるのをテレビで見たことがあって、それを木箱で出来ないかやってみようって工夫した結果だ。
金網くらいはそれっぽいのがあったので、それを使い、本来は香炉か何かだったんだろうな、という陶器の器に木くずを入れて火をつけ、煙を出す。
いくつか試してみて、一番それらしい味に仕上がったヤツをチップとしてストックしてある。
保存性をよくするために、それなりに時間をかけて燻してみる。
並行して干し肉も作った。水魔法を使って脱水してみると、割と簡単にしっかりと乾燥出来る。
ただ、アイデアを出したのはやっぱり早見さんで、しかも『人に対して使えば、かなり強力な攻撃になるのでは?』なんて爆弾発言までかましてくれていた。
え~と……いわば脱水だよな。それを人に使ったら……どっかの特撮か何かに、人があっと言う間にミイラになるシーンがあったような……。つまり、それがリアルで起こる、と?
うわ~ちょっとそれ、ホラーじゃん。
誰もが同じことを考えたみたいで、他の3人も眉間にしわが寄ってたりする。
まあ、何とか気を取り直して、出来上がった干し肉と燻製肉をしまい、焚火であぶった肉を、夕食にする。
食べられる野草なんかも【鑑定】で確認して、いろいろ工夫しながら野菜不足にならないようにしてる。
本当は、ちゃんと農家が作った野菜食べたいんだけど、また青空市みたいなのを見つけないと、無理だろうな、って思ってる。
今日一日気晴らししてたせいで、だいぶ明るくなってきた他の面子だけど、どうせ慌てて移動する必要はないのだから、という早見さんの発言で、もう少しここで腰を落ち着けて、魔法の練習なり武器の鍛錬なりしようってことになった。
水谷さんの光魔法で幻術が扱えるようになるまで、うかつに接触出来ないってのもあるしね。
ああ、なんでこの世界、黒髪黒目がいないんだぁ!?
その夜、みんなが寝静まり、俺と早見さんが見張りをしているとき、俺はふと気になって聞いてみた。……あんなこと聞かされることになるなら、聞かなきゃよかったとあとで思う羽目になったんだけど。
「……早見さん、『この世からいなくなったほうがいい、と思い込むほどおかしくなっていたことがあった』って言ってたよね。詳しく話せないって言ってたけど、なんか気になって。こんなに冷静沈着な人が、そんな風に思ったこともあったんだって考えたら、ほんとに何があったのかなって……」
俺としては、また“詳しく話せない”って言われると思ってたんだ。それならそれで、もう聞かないでいるつもりだったんだけど……




