19.勇者たちの独り言 その4
今回、また勇者視点です。
3人の奮闘ぶりをどうぞ。
―土屋視点―
拠点を囲む堀の近くの藪の中に潜んで息をひそめていたら、拠点の向こうからすっごい爆発音が2回聞こえた。
気のせいか、空気が震えたみたいに感じるほどだった。
あれ、風間さんが魔法で作った<幻音>だよね。
直後に中の人の動きがバタバタと派手になって、わたしたちが潜んでる側が静かになってく。
これは、決行だよね。
わたしたちはそっと薮から出て、堀に近づいた。
拠点から漏れる明かりで、多少は見えてるけど、深さは全然わからない。でも、幅は大体2メートルぐらいだから、何とかなるかも。
呼吸を整えて、頭の中に橋の形をイメージする。
そして腕を伸ばし、魔力を巡らせる。すると、堀の近くの土が盛り上がり、幅が1.5メートルぐらいの土の壁がせりあがる。
それを少しアーチをつけて向こう側へと伸ばしていく。見る間に、堀を超えて石壁のすぐそばにまで近づける橋が出来ちゃった。
うん、ちゃんと、作れたじゃない、わたし。
すぐ後ろにいる2人に振り返ると、2人ともうなずいた。
よし。
橋の厚みは50センチぐらいある。これなら、人が乗ってもびくともしなさそう。わたしが先頭で、さっそく橋を渡った。土の地面を歩いてるのと、大差ないね。
今度は、石壁だ。
ちょうど近くに、わたしの目の高さまでの大きさがある石があった。ほかのところの石に比べて、別格に大きい。これにしよ。
これを変形させるのは……そうだ、砂にしちゃえばいいんだ。石が細かく砕けると、砂になるもんね。
わたしはまた、頭の中に石が細かくなって砂になるところをイメージして、魔力を巡らせる。
わたしのすぐ目の前で、ちょうど人がくぐれるぐらいの大きさで、石の真ん中が砂になって崩れ、穴が開いた。
力技で崩したわけじゃないから、ほとんど音もしない。うん、我ながら完璧!
さ、中に入ろう。
……これからやることって、実はほぼ放火魔なんだけどね。
* * * * *
―火村視点―
目の前で、土屋さんが土魔法で堀に橋を架け、石壁に使われてた大石に穴を開けた。音も静かだったから、中の連中が気づいた気配はなさそうだ。
よし、行くぞ!
さっきは土屋さんが先頭だったけど、今度はオレが先頭で、石に出来た穴をくぐった。
あちこちに松明の明かりがあるせいで、あたりの様子はそこそこわかった。
まあ、火薬のない世界だから、あちこちに火があっても、大丈夫なんだよな。
中の建物は、見た目石とか煉瓦で作られてる感じ。
結構しっかりしてて、そう簡単には壊せないように見える。
オレは、近くの建物に近づくと、分厚い板に補強材を打ち付けたもので閉じられた窓を触った。
あ、これ下がくっついてなくて、斜めに持ち上げてつっかえ棒で止めるタイプっぽい。お城にいたころ、そういう作りの窓、あったもんな。
ならば、とオレは力を入れて窓を持ち上げてみた。もちろんそこそこ重いし、力任せに一気に開けたら、中に誰かいたらすぐにばれるから、少しだけ。
中は明かりがなくて、人はいない感じ。どうやら、倉庫かなんかみたい。
なら、ちょうどいいか。
オレは、アイコンタクトで女子2人に来てもらい、オレが開けた窓を閉じないように2人で支えてもらって、中に<火球>を全力で撃ち込み、すぐさま窓を閉める。
窓を閉めたほうが、火が付いたことに気づくのが遅れるんじゃなかっていう、作戦だ。
とにかくさっさとそこを離れて、隣の建物へ行く。
そのうち、何となく焦げ臭いような臭いがしてきたから、燃えだしてきてるんだろうな。
隣の建物も、同じように中は真っ暗。
なら、同じようにやっちまえ!
というわけで、同じように<火球>を撃ち込み、とっとと逃げる。
どうやら、この辺りは倉庫が並んでるみたいだな。
ラッキー!
倉庫だと思った建物には、片っ端から<火球>を撃ち込むぞ。
いくつかの建物に、<火球>を撃ち込みまくって、ふと気づくと、あれ? 意外と火の手が上がってない?
でも、今更戻って確認するのもなぁ。
そのうち、どうやら異変に気付いたのがいるらしく、数人が小走りにやってきて、一番最初に火をつけた建物に近づくのが見えた。
見つかったらやばい。
オレたちは急いで物陰に隠れた。
* * * * *
―水谷視点―
物陰に隠れて、様子をうかがう私たちの目の前で、最初に工作した建物の前にやってきた5~6人の人影は、中に入ろうとしているらしくて、ドアの前に集合した。
確かになんか焦げ臭い臭いがするけれど、燃え上がる感じじゃないから、私もなんかおかしいと思ってたんだけど。
ひとりがドアに手をかけ、開けた。
その途端。
ズ ガ ァ ン ッ !!
それはほとんど爆発音。ドアからオレンジ色の炎が爆発的に吹き出し、ドアの前にいた人全員を飲み込んだの!!
何あれ!? 何が起こったの!?
私たちは息を飲み、あまりのことに硬直した。
炎に巻き込まれた人々は、その勢いで飛ばされ、火だるまになってのたうち回っている。
建物は、あっと言う間にあちこちから炎が噴き出し、一気に燃え上がる。
それを見たのだろう人々が、さらに駆け寄ってきて、水魔法で火だるまになっている人たちの火を消そうとする者、建物の火を消そうと水魔法や氷魔法をぶつける者など、たちまち騒然となったわ。
さらに、その隣の建物を確認しようとした者たちが、やはりドアを開けた途端に同じように爆音とともに炎が噴き出したのよ。
もう、あたりは阿鼻叫喚となっている。見ているこっちも、なんだかショックというかなんというか、つらくなってきちゃった。
「……ねえ、もう脱出したほうがいいんじゃないの?」
私は、一緒に隠れている火村さんと土屋さんに声をかけた。
私たちは、もう充分に被害を出してるはず。さらに人が集まってくれば、そのうち私たちが隠れていることに気づくはずだわ。
そうなったら、うっかりすると囲まれてしまう。
その前に脱出したほうが、安全だわ。
私の思いが通じたか、2人ともうなずいてくれた。
激しく燃え上がる建物のほうに気を取られ、私たちにはまだ気づいてない。
物陰からそっと出ると、土屋さんが開けた穴に向かって足音を殺しながら出来る限りの速さで移動する。
あと少しで穴まで戻れるというところで、後ろからバタバタとこちらに走ってくる複数の足音が聞こえた。
「侵入者だー!!」
はっとしてそちらを見ると、10人ぐらいの有角族の兵士が、手に手に武器を持って走ってくるのが見えた。
「ヤバ! 見つかった!!」
火村さんが、焦ったような声でつぶやくなり、足音を殺すのをやめて走り出す。私も土屋さんもそれに続いた。
でも、ああ、なんて運が悪いの!
進行方向からも、武器を構えた4~5人が走ってくるんだもの!
「うわ~挟まれちゃった!」
土屋さんが、悲鳴に近い声を上げる。
皆、武器に手をかけ、切り結ぶ覚悟を決める。そうしないと、血路は開けない。
もしかしたら、誰か帰れない人が出るかもしれない。でも、やらなければ、全員が帰れなくなる。
その時だった。
向かう方向から走ってきていた者たちの先頭が、いきなりつんのめるように転んだ。すぐ後ろにいたほかの者たちも、巻き込まれて次々転んでいる。
「突っ切るぞ!!」
火村さんが、一気に全力疾走になった。私たちも続く。
立ち上がろうとしている者たちに向かって、あえて目立つ斧槍をしまったままにしてた火村さんが、小剣をふるう。血しぶきが飛んだけど、もう、そんなことにかまってはいられない。
通路いっぱいに転がっている人たちを踏みつけるようにして通過、土屋さんも、武器の短槍を使って相手を切り付けたんだか殴りつけたんだかしていた。
そこを通過したところで、私は振り向きざま思いっきり光魔法を放った。
光球が、一瞬にしてあたりが真っ白になるほどの閃光を放つ。
私自身は素早く向き直ったので、背後に閃光があふれても何とかなったし、火村さんや土屋さんはこっちを見ていなかったので大丈夫だった。
私たちは何とか追っ手を振り切り、石に開けられた穴をくぐって外に出ると、土屋さんが再度土魔法で穴をふさぎ、土の橋を渡って堀を超えると、その土の橋も消し去って、あとは全力でその場を離れた。
野営地には、風間さんが先に戻っているはず。野営地の痕跡は、彼が消してくれているはずだから、合流したらすぐに移動しないと。




