14.話し合い(?)開始
明るくなったのは、それから間もなくだった。
だんだん手元が見えるようになったところで、朝食の準備をし、みんなで食べる。
ホントは、新しい食材とかほしいところなんだけど“店で買う”という普通のことが今のところ出来ていないせいで、狩りの獲物の肉に、森で見つけたハーブの類で風味付けをして食べたりしてる。
塩はたっぷり持たせてもらったから、まだまだ余裕なんだけど、味のバリエーションが限られてくるというか、なんというか……
ああ、しょう油が懐かしい……
もっとも、すべて今更なんで、皆諦めて食べてるけど。
食事が終わって野営地を引き上げたところで、もう一度様子見に丘の頂上へ行ってみる。
木の陰から様子をうかがうと、領主のお屋敷が、何となくだが人の動きがバタバタしてるような気がする。
そりゃそうか。いきなり矢文なんてものが撃ち込まれてれば、絶対バタバタするに決まってる。
あとは、本当に昼頃に東門に来てくれるか、なんだけど。
そればっかりは、その場になってみなきゃわからない。一応、早見さんが夢に介入して意識を操作するって言ってたけど……
「どうやら、矢文は無事に届いてくれたみたいだね。あとは、昼頃に僕たちが東の門のところで待っていれば、結果がわかる」
早見さんは、実際に交渉となったら、自分に任せてほしいと言った。
「君たちは、フードを被って顔を隠したまま、後ろに並んでいてくれればいい。僕が一歩前に出て、交渉する。その際、僕は顔出しするから、クリスに顔を誤魔化してもらわないといけないけど」
「なんで私たちは顔を出さないままなの?」
怪訝そうな水谷さんに、早見さんは答える。
「全員に、クリスの幻術をかけてもらうには、ちょっと時間的制約がある。『魔族に顔が割れないように顔を隠している』と言っておけば、そこまでおかしくは思われないさ」
確かに、クリスが離れている状態だと、10分程度しか持たないもんな。
早見さんひとりで、なおかつクリスがどこかに引っ付いたままなら、幻術もそのまま持続出来るし。
で、その時には顔の印象が変わるように、クリスには頑張ってもらうということだった。
確かに、早見さんの顔、美形すぎて悪目立ちするもんな。
試しにやってみようってことになって、またクリスが早見さんの顔の上半分に糸をかけ、見た目を変える。
すると、前に試しにやってみた時と目の色は同じだけど、何となく間の抜けたような顔になった。
目の感じが違うんだ。早見さんの目は切れ長だけど、なんかたれ目で愛嬌のある印象の目になっているから、雰囲気が違うんだ。
……うわぁ……目の印象が変わるだけで、これだけ違うのか。
まるっきり別人じゃん。
「……目の印象って重要なのな。全然違う人に見える」
火村が、一瞬ぽかんとなりながら、早見さんの顔を見ている。
水谷さんも土屋さんも、へぇ~みたいな顔でうなずいている。
誰も、同じことを思うんだな。
でも、これだけ印象が変わるなら、早見さんの素顔を見たとしても、別人だと思われる。
「私、光魔法でこのくらい別人になるように、幻術を使えるようになる。なって見せるわ」
水谷さんが、決意も新たに宣言した。
うん、頑張ってください。俺も、何とか使えるようにならないか、試してみるから。
……火村は余計なこと考えるなよ。お前の魔法、おおざっぱなんだもん。
というわけで、時間を見計らって町の東門に向かうことにした俺たち。
俺たちは、一応<清浄>の魔法で旅の汚れを落とし、ちょっとは小ざっぱりとした感じになると、町へと向かった。
リーフ王国でもらった、それぞれの精霊神をイメージした色のマントをきっちり羽織り、フードで顔を隠す。
早見さんだけは、マントのフードで顔を隠さず、代わりに左脇腹に張り付いたクリスの光学迷彩で顔の印象を変えている。マントをきっちり前合わせにしているんで、隻腕であることもほとんどわからない。
そうして東門にたどり着いたころ、開かれた門の向こう、町中になる場所に、一人きらびやかな服装で、くすんだ金髪の30代半ばくらいの男性が、武器や金属鎧に身を包んだいかにも騎士だという感じの者たち10人前後を従え、こちらを見つめていた。
俺たちの先頭の早見さんからは、門を挟んで距離10メートルもない。
まあまず間違いなく、あれが領主様御一行だろうな。
ホントに来るか、ちょっと不安だったけど、早見さんが“夢に介入”したせいで、ここに来る気になったんだろうな。
「お前たちが、『魔族と戦うために、リーフ王国により選ばれし勇者』たちか?」
領主様らしい男が、大声を張り上げる。
「はい、その通りでございます。大変不躾な文を送り付け、失礼をしたと心苦しく思ってはおりますが、ことは重大であるため、あのような手段を取りました。ここに失礼をお詫びいたします。背後に揃いしが、リーフ王国により選ばれし勇者たち。私は、勇者に仕える交渉役にございます」
早見さんが、一応お詫びの文言を言うが、軽く頭を下げただけで、あとはすっと背筋を伸ばして立ち、その立ち姿はなかなかに決まってる。
後ろ姿で見てるから余計に、向こうの法廷でもこんな感じなのかな、と思ったりして。
「……勇者に仕える?」
隣の火村が、疑問形でぼそっとつぶやくのが聞こえた。
……気持ちはわかる。だって早見さん、実質リーダーだもん。
女の子たちも、フードに隠れてよく見えないけど、何となく生温かい目で早見さんを見てるんだろうな、って感じる。
“勇者に仕える”はないわーって俺も思う。
ただ……その後の話し合いはものの見事だった。
「なぜ、勇者という者たちが、顔を隠している?」
「魔族に、顔を知られないためでございます。如何に、能力優れた勇者といえど、数で押されればどこまで抗えるかわかりません。ならば、魔王が住まう城に行きつくまで、それと気づかれずに済むのならば、それに越したことはございませんから」
立て板に水っていうのか、まあ相手に畳みかけるように話すわけで。
そんな調子で領主様、なんかいろいろしゃべらされてた。
領主様の名前はカール・ヤン・バウアー。伯爵様だそうだ。
当然、俺たちの名も名乗ってる。偽名のほうだけど。あの、微妙な偽名を全員分、すらすら告げた早見さんの記憶力、すげぇ。




