05.野営中での話し合い
で、早見さんの推測では、こんな小さな村に結界が張ってあるのだから、大きな町にはもっと強力な結界が張られていても不思議じゃないそうだ。
結界で人の行き来が制限されていたら、そりゃ情報は伝わりにくいよな。
向こうの伝書鳩みたいな連絡方法はあるそうだけど、個人が簡単に持ち歩ける連絡手段じゃないしな。そもそも、飛ばしちゃったら終わりだし。
どう考えても、緊急連絡用に一羽、ぐらいなもんだろう。
それに、その鳥が結界を抜けて外に飛び出していけるかどうか、わかんないしなあ。
それ考えると、無線って便利だよな。もちろんケータイも。
……今スマホは、ほぼほぼただのカメラと計算機だけど。バッテリー切れたら、終わりだし。
今日の夕飯担当の火村と土屋さんが、魔獣の肉を串にさして焚火で焼いたり、乾燥野菜と一緒に煮込んでポトフもどきを作ったりしてる。
俺たち4人の中で、一番料理に対するセンスがいい土屋さんと、母親とともに料理をしていて料理が趣味だった水谷さんがシェフ役をやり、俺と火村がその補佐って形で料理当番をすることになった。
土屋さんは、器用にポトフもどきに味付けし、肉にハーブを混ぜた塩を擦り込んで串焼きにしている。
その間火村は、言われるままに薪をいじって火加減をしている。
最近は、ちょっと太めの薪を一晩持たせることが出来るようになり、やたら火をぼうぼうと燃さなくてもよくなった。さすがに、これだけ野宿を重ねてくれば、否応なしに覚える。
出来上がった料理を、みんなで分け合って食べると、これからのことをさらに話し合った。
この先、大きな町なども見かけるだろうけど、結界のことを考えると、そうそう近づけない。でも、情報収集はしたい。どうしようか。
そこでも、知恵を出したのは早見さんだった。
「町の結界も、夕暮れまでに戻らなければならないという制限がついているだろうと思う。なら、近隣の村と町の中間点に、青空市場が立っていても不思議じゃないんじゃないかな?」
それぞれの住処から、少し時間を過ごしても日帰り出来るくらいの位置に、町の住人や村人などが、それぞれの産物を持ち寄って青空市を開いて取引してるんじゃないか、っていうんだ。
……ありうるかも。
「そういう場所を見つけられたら、そこにいる人たちからなら、話も聞けるだろうし、持っていれば便利なものも手に入るかもしれない」
早見さんは、そういうところで話を聞きたいなら、なおさら結界の中に入ってはだめだといった。
自由が利かなくなる可能性があるから、ってことだけど、俺は最初にぶっちゃけられているから、人族なのに結界を自由に出入りしたら、目を付けられるはずだって知ってるけど。
でも、ほかの3人は、俺たちぐらい魔力があれば、結界が張られていても出入り自由だって知らないんだよねえ。
結界の中に入ったら、出られなくなるって思ってる。だから、入っちゃダメなんだと。
「でも、ほんとにそういう青空市場があったとして、幻覚で見た目を誤魔化せるようになってないと、入っていくことも出来ないのよね」
水谷さんが、確認するように早見さんの顔を見る。
「その通りだね。面と向かって話をすれば、この世界の人にとって、見たこともない黒目であることはわかってしまうからね」
そう言った後、早見さんは少し考えて、とんでもないことを言い出した。
「本当に幻覚を使いこなせるようになってから、っていう前提になるけど、いっそ有角族の姿になるというのも、一つの手だとは思う」
「「「「はいっ!?」」」」
一瞬ぽかんとする俺たち。しばらくして、何とか再起動。
「な、なんで、有角族に!?」
一番早く我に返った土屋さんが、信じられないといわんばかりの表情で問いかける。
「理由はあるよ。だって、結界で人の行き来が制限されているんだから、旅をしている人族そのものが、ほとんどいないはずだ。そんな中で、人族が集団でうろうろしていたら、不審に思われても不思議じゃないよ」
そういやそうだった……。めんどくせぇ……
「少なくとも、まともに街道を歩くなら、人族の姿のままではリスクが高い。今迄みたいに、人里や街道に近づかないままでいるなら、誤魔化せるけどね。けど、それを続けると、情報収集が出来ない。なら、移動中だけでも有角族の姿になっていたほうが、まだ注目されない」
『市場などで情報収集するときには、人族の姿になればいい』と、早見さんは続けた。
確かに、幻覚を纏うことにするなら、そういう切り替えも出来るっちゃ出来るわな。
でも、今のところ光魔法を覚えたのは、魔法が得意な水谷さんだけ。
せめて、あとひとりは使えるようにならないと、負担が大きそうだ。
「……考えてみれば、敵地に入り込んでるのよね。なら、慎重に行動するしかないってことよね……」
水谷さんが、溜め息交じりにつぶやいた。
そういうことなんだが……なんだって有角族は、結界なんぞ張ってるんだろうな。
さすがに早見さんも、情報が少ないために、点と点がうまく繋がらないらしい。
だからこそ、情報収集が不可欠なんだけど、今はそれをやりたくても出来ないって状態なわけだ。
改めて現状を確認して、水谷さんじゃないけど、溜め息つきたくなる。
「よぉし! オレ、決めた! 光魔法、オレも覚えるぜ!!」
「「やめてっ!!」」
女の子2人が、同時に叫ぶ。
「あなたは、全体の盾役なんだから、余計なこと考えないで!」
「魔法だったら、わたしか風間さんのほうが、素養があるから!!」
次々に突っ込まれ、火村が“なんで~?”という表情で2人を見る。
「……火村くん、適材適所って言葉を知ってるかな? 君の役目は、積極的に魔法を覚えることじゃなくて、手にした武器で目の前の相手をなぎ倒すことだ。そもそも君、細かい調整が苦手だろう?」
早見さんにまで、冷静に突っ込まれてる。
確かに、火村の魔法って、ちょっと大雑把なところがある。命中精度はそこそこあるんだけど、たまに誤爆したり、出力調整をしくじって狩りの獲物を黒焦げにしたりしてたもんなあ……
狩りの獲物に、オーバーキルしてどうする!? と何度か突っ込んだしな。
それはともかく、今後、どういう行動をとればいいのか、ちゃんと考えないと……




