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05.知識チートをかました!……早見さんが

 それで、この世界、色々不自由なものはあるけれど、結構つらいのは甘いものがないこと!

 ほら、疲れてたりすると、甘いもの食べるといいとかいうじゃん?

 それに、やっぱり時に甘いものって食べたくなるよね。

 でも、ないんだ。甘いもの……


 訓練の合間に、お菓子とお茶が配られたことが時々あったんだけど、お菓子の見た目はよくあるビスケットとかその(たぐい)だったんだ。でも、初めてそれをかじった時、俺たち全員一瞬絶句。

 だって、しょっぱかったんだもの!

 甘いものだって思い込んでたから、違和感がひどかったこと。

 聞けば、砂糖も交易品で、このところ全然入ってきてなくて、蜂蜜が少し手に入るだけ。

 それも、お菓子に使えるほど取れなくて、王侯貴族がたまの贅沢として時々一口ずつ大切になめたりする程度なんだそうだ。

 果物の類は、ちょうど時期を外していて、乾燥したものがあったんだけど、ドライフルーツって普通甘いと思うんだ。でも、すごく酸味が強くて、甘いと言えば甘いんだけど……どこかにえぐみがある甘さというか。見た目より、美味しくなかった。


 で、そのしょっぱいビスケットを用意してくれた侍女さん―王女様付きで、フローラさん―も、しょっぱい味には慣れているらしく、“しょっぱい”と騒ぐ俺たちを不思議そうな顔で見ていた。


 「私にとっては、物心ついてから食べていたのって、これですよ? 勇者様たちの世界では、塩が効いているわけではないんですか?」


 当たり前のようにそう言われ、4人とも言葉が出なくなった。

 たまたまそれを見ていた早見さんは、あっさりこう言った。


 「……諦めるんだね。元の世界の常識を、こっち(異世界)に持ち込んじゃいけない」


 仕方なしにソレを食べていたら、だんだん慣れてきて、普通に食べられるようになったけど。元々まずくはなかったし。

 ちゃんと、バターとか使ってるから、風味はよかったし。

 つまり、フローラさんが物心つく前から、魔族との戦いは続いているということだ。なるほど、かつての暮らしを取り戻すためにも、俺たちが魔族をやっつける必要があるってわけだ。

 やってやるぜ! と思うんだけど、きついもんはきつい。

 それでも、魔物討伐によってレベルアップを図る日は、近づいてきている。


 よく、魔族が魔獣や魔物を操っていたりするラノベとかがあるけど、この世界では魔族と魔獣や魔物はまったく別個のものだそうだ。

 だから、魔物などが多く出現する森なんかには魔族もあまり立ち入らないらしい。だからこそ、それが緩衝地帯になって、何とか戦線が持ちこたえているらしい。

 ちなみに、動物のような姿をして、動物並みの知能しかないものは“魔獣”、人間に近い姿をしていたり、動物の姿でも知恵が回るものは“魔物”と呼ばれるという。

 普通の動物と魔獣の違いは、魔力を持ち、それを攻撃に応用してくるかどうかだという。

 それと、これはお約束みたいなもんだけど、魔獣や魔物は、体内に魔石を持っているそうだ。この魔石が、少し加工することで魔法を使う時のMP代わりに使えるそうで、今でも魔石の買取は行われてるんだって。

 そして、俺たちはその森に入り込んで、魔獣や魔物を討伐するということになるのだそうだ。

 その際、レベルアップしておいた方が安全だからと、早見さんもくっついてくることになった。

 他の人たちは『こっちにくっついてのパワーレベリングだ』と言ってたが、そうじゃないと思うな。

 もちろん早見さんが、みんなの前で正体を現すことなんてないだろうけど、こっそり手助けしてくれそうな気がする。


 そうやって過ごしていて、そろそろ本当に魔物討伐に出かけようかって話が出始めたころ、城に勤める文官の人たちに、突然感謝された。俺が。

 訳がわからなくてぽかんとしてたら、『早見さんを連れてきてくれたこと』に感謝してるのだとわかった。


 なんで~?

 そう思って詳しく聞いてみたら……あの人、やらかしていた。いわゆる知識チートってやつを。

 報告書などの書類の書式(フォーマット)をわかりやすいものに統一し、さらに細かい計算の新しいやり方を伝授してくれて、それを使うと今までの数倍の速さで計算が出来るようになったのだという。

 何やったんだ、あの人。

 早見さんを捕まえて聞いてみた。そうしたら……


 「この世界、公式な書類でも全部手書きだから、その人その人で癖があって、統一性が全くなかったんだよ。それで、見出しを付けたり、段落分けをしたりして書式を整えてあげたら、みんながそのやり方をまねて書類を書き始めてね。おまけにこの世界、四則演算が確立されてなかったんだ……」


 何でも、すべての計算を足し算と引き算で計算していたそうだ。

 掛け算なら、同じ数字を何度も足し合わせ、割り算なら何度も引き算を繰り返す、というやり方で。

 一応、算術盤というそろばんみたいなものもあったそうなんだが、それで専門職の文官がうんうん言いながら計算している脇で、早見さんが筆算でちょこちょこ計算―書いたり消したり出来るミニ黒板みたいなものに、チョークのようなもので書いていた―し、結果は早見さんのほうが圧倒的に早かったらしい。

 ……そりゃ、掛け算や割り算使ったほうがいい場面でも、全部足し算と引き算でやってたら、時間かかると思う。


 それでどうなったのかと言うと、希望する文官すべてに掛け算九九を教える羽目になったんだそうな。


 「若い人なら結構早く覚えたけど、ある程度年いった人はどうしようもなくてね。寝ている間に暗示をかけて、睡眠学習状態で無理矢理覚えさせた」


 何やってんの、あんた!! 睡眠学習って何!?


 「仕方ないだろう。そのくらいやらないと、一朝一夕では覚えられない人が多かったんだし。言っておくけど、僕らが暗記したのは小学生の時。頭が柔軟で、いくらでも覚えられたし、一度叩き込まれたものは、大人になっても忘れない。だから使える。だけど、この世界の人たちはそうじゃないんだ」


 なんだか少し疲れたような顔で、早見さんは頭を掻いていた。

 言われてみれば、確かにそうなんだけどさ……

 でも、そうやって九九を覚え、掛け算や割り算が出来るようになった文官の人たちは、計算速度が飛躍的に早くなり、早見さんにそれはそれは感謝したんだそうだ。

 なんでそこまで関わることになったのかと聞いたら、早見さんは答えた。


 「君たちの為だよ」


 はい?


 「今まで、君たち―僕も含まれてはいるけど―の滞在費は王族の人たちの個人資産から賄われていたんだ。それを、正式に国庫から予算を組んで支出するように変更するための手続きを手伝っていたんだよ。一連の出来事は、その過程で起こったことなんだ」


 あ~やっと話が見えた。

 それで、早見さんは文官の人たちとしょっちゅう会っていたのか。


 「パソコンなしでの事務作業は、結構きつい……」


 早見さんが、大きく溜め息を()く。まあ、そうだろうね。

 そうだ、聞こうと思ってたんだ。


 「早見さん、よく海外ドラマで、時代物とかファンタジー作品の登場人物が、羽ペンとか使ってたよね。ここでも、使ってるの?」

 「……使ってるよ。僕も使った。でも、夢を壊すようだけど……ボールペンのほうが使いやすい……」


 溜め息交じりにそう言われ、俺は思わず遠い目に。

 そりゃそうだわな。文明の利器は偉大ってことか。ふっ……


 そうそう、俺たち勇者4人組は、早見さんからOKをもらって、タメ口で話している。

 一応表向きの理由として、『君たちに守ってもらう足手まといだから』と言ってたが、本音は違うと思う。

 こちらの世界の人たちとは、お互い丁寧な言葉で話しているから、気を抜きたいんだろうな、きっと。


 で、何で早見さんまでレベルアップをすることになったのかと言うと、これは城詰の文官の人の話なんだけど、早見さん、ものすごく事務処理能力と交渉力が高いんだそうだ。

 ……まあ、元の世界では弁護士だもん。ある意味本職だ。


 宰相様―ヨハン・アンブロジウス・フローリンって名前―が、早見さんの能力をものすごく買ってて、『異世界人でなかったら、自分の補佐官に任命したかった』と本気でぼやいていたらしい。

 それで、戦闘に関しては足手まといかもしれないが、旅先での交渉などにはこれ以上の適任者がいない状態だそうだ。

 旅をするうえで、交渉役は間違いなく必要だが、城の人間は手が離せず、『早見さんを同行させよう』って話になったらしい。同じ異世界人だし。

 そのことを、他の勇者3人に話してみたら、三者三様の反応になった。


 「え~もし戦闘になった時、お前が責任持って守れよな」

 「まあ、いざとなったら私も頑張るけど、あなたもちゃんと守りなさいよ」

 「わたし、何なら代わりに守ってあげてもいいよ。その代わり、風間さんがしっかり戦ってね」


 それぞれ、火村、水谷さん、土屋さんのセリフだ。

 女の子たちのほうが、積極性があるのは、ナンデカナ……

 実際は、本当の意味では足手まといになることはないんじゃないかって思ってる。

 早見さん本人も、こう言ってたし。


 「僕のことは、心配しなくていい。いざとなったら、()()()()()()()()()()


 すっげえ不安になるの、気のせいじゃないよな……


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