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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.3 深まる謎

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04.この人は違うよな、やっぱ……

 早見さんが見学したっていう蜜採り(ハニー・ハント)は、シーズン最初のものだったんだそうで、専業の蜜採り人(ハニー・ハンター)の一族にとっても、秘術がちゃんと受け継がれているか、確認する時期でもあるらしい。

 

 「ちゃんと蜜は採れたけど、5名で作業して、うち1名が魔法で治療する必要があるほどハチに刺されてた……」

 

 早見さんのぶっちゃけ話に、思わずドン引きになる俺たち。それ、秘術失敗ってこと?

 

 「いや、そういうわけじゃないよ。秘術があったからこそ、その程度で済んだって感じみたいだから。一般人が徒手空拳で挑んだら、下手をすれば死者が出てる」

 

 だ・か・ら、そういうことをサラッと言わないで!

 みんな、さらにドン引きしてるぞ。

 けど、蜂蜜が貴重品だってこと、よくわかった。採るのも命がけならそりゃ、量も少なきゃ値段も高いわな……

 

 「……この異世界って、ぱっと見よくあるファンタジーって感じなのに、中身全然違うのな……」

 

 火村が、ぼそっとつぶやく。

 そだな。よくある異世界って、魔法はあるけど、そのほかは割と俺たちの世界と同じようなものがちゃんと揃ってたりするもんな。

 馬がちゃんと馬だったり、紅茶があったり、ワインがあったりとかね。

 ここは違うもんな。

 

 「それに、前から不思議だと思ってたことがあるの。そうやって、なんかずれてる世界なのに、魔物とかは結構私たちがファンタジーでよく知ってるようなのが出てくるでしょ? それが不思議」

 

 水谷さんが疑問を口にすると、土屋さんも口を開いた。

 

 「わたしも、なんか変だなって思ってた! “馬”はわたしたちが知ってる馬と違うのに、小鬼(ゴブリン)小鬼(ゴブリン)なんだもん」

 「確かに! あと、人食い鬼(オーガ)もそうだったっけな!」

 

 火村まで同調した。確かにそう言われると、不思議なんだよな。

 すると、早見さんが『あくまで自分の推測だが』って前置きして、こんなことを言い出した。

 

 「きっと、僕たちの意識に自動翻訳が合わせているんだと思う」

 「「「「何それ!?」」」」

 

 つまり、“馬”が、俺たちの世界の馬と全然違うのに“馬”とされるのは、同じ役割を(にな)っている家畜だからだ、っていうんだ。

 もし、“牛”の役割をしている家畜がいたら、そいつは“牛”と出るだろうし、“犬”の役割をしているなら、そいつは“犬”と出るはずだと。

 だから、俺たちの世界にいないザウードラなんかは、音がそのまま聞こえる。

 魔物の場合、俺たちが無意識に(いだ)くイメージに極力近い存在が、その名称で聞こえるんじゃないかって。

 

 「だから、あくまで僕たちの耳に“小鬼(ゴブリン)”と聞こえるだけであって、現地の人々がその名で呼んでいるかはわからない。そういうことなんだと思うよ」

 

 なるほど……。自動翻訳って、便利かもしれないけど、なんだか余計なお世話をしてくれてるような気もするな……

 

 とにかく俺たちは、村の近所を離れて、さらに進むことにした。

 結界の性質がわからない限り、危険は冒せないって判断だ。

 “黒髪の者たち”の情報は、絶対有角族(ホーンド)の本国のほうにも行ってるはず。だから、警戒してるはずなんだ。

 

 「それにね、普通は敵の情報を探るため、間諜(スパイ)を潜入させるものなんだ。おそらく、リーフ王国だって、潜入させただろう。それでも、情報が流れてこない。間諜(スパイ)すら、情報を流すことが出来ない状況になっていると思ったほうがいい。完全に姿を偽れるようになるまで、うかつに人と接触はしないほうがいいと思うよ」

 

 どうなっているのか、全然わからないけど、有角族(ホーンド)の支配地域に入ってきたからには、正体がばれたりしないように、行動しなくちゃいけない。

 

 ただ、もう一度村から離れたところで野宿の準備を整えたところで、俺はこっそり早見さんに訊いてみた。

 『あの結界、どんなものだかわかってたりする?』って。

 

 「……あれはね、入る分には特に問題はないんだ。ただ、出るときに制限がかかってね。結界の(かなめ)になるものがおそらく村の中にあって、それに登録じゃないけど、存在が認められたものは短時間なら結界の外に出られる。ただ、日が暮れるまでに帰らないと、身体が動かなくなる呪いと言うか、そういうものにかかる。そして、二度と帰れなくなる」


ぎょっとする俺に、早見さんはさらに続ける。


 「こういう世界の人々は、一生生まれ育った村から出ない人が大半だ。だから、突然村に戻れなくなるなどいうことになったら、下手をするとアイデンティティが崩壊する。だから誰も、結界がもたらす制限に逆らおうとはしない。外から入った者は、出ようとすると体が動かなくなるようだね。だから、まったく出られなくなる……」

 

 ……それ、結構ひどくね?

 

 「村人なら、そこまで困らないんだよ。畑には、普通に出かけられるんだから。近くの森に採集に行ったり狩りに行ったりする人が、時間制限で(あわただ)しい思いをするくらいでね。ただ、自給自足の生活では、手に入れるのが難しいものもある。それは行商人が運んでくるんだけど、結界に支配されない有角族(ホーンド)の行商人しか、村々を回れないんだ」

 「それで、『行商人に化けて間諜(スパイ)が動き回る』ってことが出来ないわけか」

 「そういうことだよ」

 「でも、なんで有角族(ホーンド)は結界に支配されずに済むんだろね? 何か、識別出来るようなものが備えてあるの?」

 「いや、純粋に魔力の高さだ。ある一定以上の魔力があれば、力づくで結界を抜けられるのさ。だから……君たちは、おそらく結界の張られた町や村であっても、出入りは自由だと思う。ただ、確実に目を付けられるだろうから、うかつなことはしないほうがいいよ」

 

 そういうことですか。

 でも、そうなると……早見さんはどうなの? 身体(依り代)は魔力ないよね?

 

 「僕の場合は、<念動(サイコキネシス)>で体を動かせるから。結界からある程度離れれば、身体の自由は戻ると思う」

 

 力技の(きわ)みだわな……

 ……やっぱり、この人に常識は通用しないってよくわかった。


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