24.また出撃するぞ!
しばらくして、強行偵察に行ってたメンバーが帰ってきた。それこそ、怪我一つせずに、無事な姿で。
聞いてみると、例の『魔法の射程の外から、斜め上空に向かって矢を大量に放って攻撃する』ってヤツをやって、向こうが態勢を立て直す前に一気に離れ、安全な距離を保ちながら様子を見、帰ってきたという。
確かに強行偵察だわな。
しかも、相手は少数のこちらをまともに迎撃出来なかった、ということになるわけで。
やっぱり、物資の喪失って影響大きいんだな。
でも……ちょっとした疑問が俺の脳裏に浮かんだ。
なんで敵は、飛び道具を使わないんだろう?
考えてみれば、弓矢を使ってたのは、人族だけ。相手は、魔法しか使ってなかった。
みんなに話したら、『確かにそうだ』とそろって首をひねったんだから、不思議だよね。
すると、例のごとく早見さんが、念話を飛ばしてきた。
(要は、“かつては使っていたんだけど、人族との戦いで必要性を感じなくなった”っていうのが真相らしい。今まで、馬鹿正直に真正面から矢を射かけることしかしてこなかったみたいだからね。盾を構えていれば、充分防げる攻撃だったんだ)
……それって、人族側が馬鹿だったとしか思えないんだけどな……
(どうやら、有角族との戦いが始まる前は、“花戦争”しかしてこなかったらしいんだ)
あの~『花戦争』って何?
(ああ。ちょっと特殊な戦争でね、『互いに話し合って対戦場所を決め、戦力を出し合って行う』試合のような戦争だ。だから、戦いはその1回で決着。勝ったほうが、相手に対して自分の要求を通す、ということをする)
そりゃ確かに、試合みたいだな。
(でもね、戦争には違いないから犠牲者も出るし、勝ったほうだって損失がないわけじゃない。そして、真正面からぶつかり合うことしかしてなかった。そういう戦い方しか知らなければ、戦術が進歩するはずもない)
言い方はなんだけど、そんな戦争だったとはねぇ……
(だから、有角族に電撃戦をされて、あっと言う間に当時隣接していた国が落とされた。それが15~16年前。最初の数年は、本当に破竹の勢いで有角族が人族の国々を占領していった)
だろうねぇ……。どう考えても、敵のほうが実力ありそうだもん。
(でも、10年ほど前から、進撃のスピードが落ちてきた。そして、リーフ王国が直接の当事者となってから、一見相手の侵攻を食い止めているように見える。実際は、敵がこちらが疲弊するのを待っているような、そんな戦いぶりになっているように見えるんだよ、僕にはね)
……? どういうことだろう。確かに、ここの陣地の攻防戦なんかは、相手が遊んでるように見える感じではあったけど……
(だから、自由行動がとれるようになったら、有角族が占領している地域に入り込んで、調査する必要があるんじゃないか、と思うんだ。相手の行動が、どうも引っかかるんでね)
俺が早見さんの考えにちょっと考え込んでいたら、水谷さんが口を開いた。
「でも、相手が弓矢を使っていないなら、こっちはそれを徹底的に利用すればいいんじゃない?」
「そだな。オレたちだって、魔法の射程を伸ばせるんだ。相手の魔法が届かないところから、撃ちまくれば安全だもんな」
「そうよね。直接武器で殴り合うより、ちょっとは気が楽だし……」
火村や土屋さんが、同調する。
「けど、今回のことで、弓矢が役に立つって気づいて、弓矢を使い始めるかもしれないぞ」
俺がそういうと、早見さんが首を横に振る。
「いや、そう簡単には使えない。弓兵を育てるのは、時間がかかるんだ。銃なら、それの操作に慣れれば使えるようになるが、弓矢の場合、弓を引けるだけの筋力や、引いた状態で姿勢を保てる体幹が必要になる。それが出来るまで鍛え上げるのは、簡単なことじゃない」
あ~そういうことがあったか……。そりゃ、そう簡単に弓兵って養成出来ないわな。
「だから、一度弓兵の養成をしなくなっているなら、弓兵部隊を編成するのは至難の業だ。かつて弓兵だった者だって、弓を引く鍛錬をしていなければ、筋力だって落ちている。目標に命中させる感覚だって、鈍ってしまっている。ここ数ヶ月で弓兵を、なんて無理だ」
弓矢を含めた飛び道具って、発射してから目標に命中するまで、必ず重力に引かれて軌道が下に落ちていく。
だから、目標より上を狙わないと、命中しないんだ。素早く相手との距離を測り、どのくらい落下するかを計算するってマネが出来ないと、当たらない。
その感覚が、鈍っているはずだってわけだ。
ちなみに早見さんが伝えた“斜め上に向かって撃つ”というやり方は、いわば“下手な鉄砲数撃ちゃ当たる”じゃないけど、圧倒的な数を撃つことによって『面制圧』を狙ったもの。
狙い撃つんじゃなくて、敵軍のいる場所に多数の矢を落下させることによって、相手に被害を及ぼすやり方なんだ。
大量の矢が在庫としてあったからこそ、出来た作戦だな。
その後、俺たちが昼食を食べ終わったころ、なんだか再度陣地の中が騒がしくなった。
すると、エッシェンバッハ隊長から、呼び出しがあった。今度は褒章じゃないよね。
「……おそらく、再度の出撃だな。相手の陣地を攻めるのに、今がチャンスと見たんだろう」
早見さんが、冷静に告げる。
ということは、今度は俺たちもほかの連中と一緒に出撃か?!
俺たち勇者4人は、一瞬顔を見合わせ、どうしようもないので呼び出しに応じた。
すると、すでに出撃部隊が集まりつつあった。
部隊編成の最中みたいだったけど、俺たちは遊撃隊として、部隊が押されているところに随時加勢することになった。
まあ、もともと連携なんか取れてるわけじゃないから、俺たちの扱いは遊撃だろうけど。
しかし、昨日戦ったはずなのに、また出撃か……
「……まあ、今が押せ押せの状況だってことは、オレだってわかるぞ。偵察部隊の攻撃に、ろくに対応出来なかったんだろ? だったら、今行くべきなんじゃねって思うわ」
火村はすでに、乗り気になっている。それに引っ張られるように、水谷さんも土屋さんも、準備を始める。
なんせ俺たちは、すべてのものを空間収納に入れてあるから、その中からチョイスするだけ。その場で準備が出来る。
特に嫌な予感もしないから、俺も準備を整えたんだが……早見さんに言われたことが、ちょっと引っかかっていた。
『自分が危険な目に遭うかもしれない時に働く』
早見さんはそう言っていた。つまり、ほかの人が危険にさらされるかもしれない場合でも、俺が巻き込まれなければ、嫌な予感はしないってことだ。




