21.森を探索!
翌朝、俺が目を覚ました時、女の子2人と早見さんは起きていたが、火村はまだ寝てた。
「おはよう。顔を洗ってくるといいよ。まだ、寝てる人のほうが多いから、今なら混んでないから」
早見さんにそう言われ、水場に足を運ぶ。
もちろん、水道なんかない。あらかじめ汲み置きしてある大甕の中の水を、柄杓で少しすくって口を漱ぎ、いつも使ってる串の先を細く裂いたものを使って歯を磨き、さらに口を漱いでから、もう一度すくってそれを反対の掌に受け、それで顔を洗って布で拭いた。
本当は、ちゃんと歯ブラシと歯磨きを使って磨きたかったけど、最近はさすがに慣れた。
俺が戻ると、火村も起きてきていたので、俺と入れ替わるように水場に行く。
辺りは、朝食のポトフもどきを煮ているんだろう匂いが漂い始めていた。
しかし、それしか出てこないから食べてるけど、あのポトフもどき、いい加減飽きてきた。
話を振ったら、他の3人も同意してくれた。
「しっかし、よく飽きないよな、あれ。特に味付けが変わるわけじゃないのにな」
火村が、溜め息交じりにつぶやく。
ここへ来る途中、止まった宿の食事のほうが、まだ味のバリエーションがあった気がする。ハーブが効いていたり、バターが溶かし込まれていたりしたから。
……スパイスは入ってないんだけど……
「あれしか食べたことがないのなら、別な味付けがあると知らない可能性が高い。僕たちは、元の世界でいろいろな味付けを知っているから『なんだか飽きる』と思うけど、これ以外の味を知らなかったら、飽きるも何もないだろう?」
「え、だって、途中の宿では、ちょっとは違う味付けがあったよ」
俺が思わずそう言うと、早見さんが苦笑する。
「食事を作っている炊事係が、同じ味付けしかしないなら、そして違う味付けものを食べたことがないのなら、違う味は知らないよ」
それに、いつ戦になるかわからない状況なら、味の工夫をするよりは、手早く作れて配膳が出来るものになるのは仕方がない、と早見さんが付け加えた。
「何なら、僕たちで何か見つけて味変してみるかい?」
昨夜の残りがまだあるから、それで試してみるのはアリだよ、と言われ、俺たち4人で顔つき合わせ、考えた。
どうせ敵側は、物資不足で身動きが取れない状況になっているはず。
逆に、やけになって突っ込んでくる可能性もあったけど、昨日こちらが善戦したことで、闇雲に突撃したら危険だということも学習しているはずだから、そうそうやっては来ないだろう、とは早見さんの弁。
……妙に確信を持っているような言い方だったのが、なんだか気になるんだけどな。
この人に関してはもう、諦めてるというか、なんというか……
そもそもこの人がいれば、まず不意打ちは不可能だもんな。
とにかく、しばらく敵は攻めてこないだろうということで、周辺の探索が出来る環境になった。
近くにある、魔物や魔獣がうろつく森にもちょっとだけ入ってみて、そこに生えてる植物の中で、有用なものを探してみようということになり、辺りの偵察を兼ねて俺たち4人で出かけてみることになった。
うまく、ハーブやスパイスの代用品が見つけられれば、食料事情がマシになるはず。
ばらばらに行動してはいけない、と早見さんに厳重に言い含められた後、俺たちはきちんと身支度をし、陣地を出発した。……万が一に備えて、俺の頭の上にはクリスが引っ付いている。これで、いざっていう時も、早見さんと連絡が取れる。
敵陣へ向かったときにも通った、踏み固められた道の両脇に、黒々とさえ見える森が広がっている。
左右に広がる森を抜ける、ただ一ヶ所の道がここ。
ぼやぼやしていると、この道もいつの間にか森に飲み込まれてしまうため、定期的に森の木や藪を刈って、森が繋がってしまわないようにしているのだと、聞いた。
それでも時折、魔獣や魔物がうろうろすることがあるというから、気を付けないといけないんだけど。
もっとも、森からあまり出てこないらしいから、森のほうを気を付けていれば大丈夫だそうだけど、俺たちは今からその森の中に入っていく。
あまり奥へ行くつもりはないけど、【鑑定】をする組と、周囲を警戒する組にわかれて、それぞれが互いの視界に入る状態で探索することに決めた。
女の子たちが【鑑定】組、俺と火村が警戒組で、水谷さんや土屋さんが森の植物を鑑定しまくっている間、俺と火村が周囲を警戒。
しかし、ちょっと風が吹いただけで、木の葉や草むらがざわざわ音を立てるんだから、何だか神経が休まらないよなあ。
ちょいと横目で火村のほうを見ると、あいつも緊張感をにじませた顔で、周囲を見回してる。
いっそ何か出ていてくれた方が、思いっ切り暴れられるからいいか、とか思ったり。
それじゃ、きっとダメなんだろうけど。
【鑑定】組が、時折『うわぁ』とか『いけそう』なんてつぶやきを漏らすのを聞いて、もしかして良さそうなのが見つかったのかなとも思うけど、いちいち聞くわけにいかないので、最後に何が見つかったか訊こうと思っていたら、火村がいきなり身構えた。
「なんか来る! 気を付けろ!」
火村がそう言った直後、ちょっと離れた茂みから小鬼3体と、小鬼と似てるけど体格が人間と変わらない大きさのヤツ1体が飛び出してきた。
「うおぉぉぉ!!」
火村が吼える。俺も剣を抜いた。
火村の得物は斧槍だけど、今いる場所だと取り回しが悪いので、火村が今、手にしているのは小剣だ。
長剣使ってる俺のほうが、一撃の威力がデカい。
「俺がデカい方を狙う! お前は小鬼を頼む!」
「了解!! 全部きれいに片付けてやるぜ!!」
火村が小鬼に突っ込み、俺は素早く回り込んでデカいヤツに切りかかった。
唸り声を上げながら、デカいヤツは錆が浮いた長剣で、俺の剣を受け止める。
その剣、絶対人族から奪うなりなんなりしたヤツだな。手入れをまともにしてないから、錆が浮く状態になってるんだ。
俺たちは、自分たちの武器の手入れの仕方もしっかり教わったからな!
「こんのやろーっ!!」
怒鳴りながら自分に気合を入れて、剣を振るう。
思いっ切り叩きつけたら、相手の剣が折れた。思った以上に、錆が内部まで浸透してたみたい。
それに驚いて隙が出来た相手に向かって、すかさず切り付ける。
相手の肉に剣が喰い込む感触は、いまだに慣れ切っていない。それでも、それをしなければ仲間に危険が及ぶんだ!
俺の剣は、一撃で相手の左肩から斜めに食い込んだ。人族なら致命的な傷になり得るところだけど、そいつはまだ唸りながら、折れた剣を俺に向かって振るってきた。
素早く離れる俺。
緑っぽい血を流しながら、そいつは俺に向かってきたが、さすがに動きが鈍くなっている。
俺は剣を腰だめに構え、敢えて全力で突進した。
相手の剣が俺に振り下ろされるより早く、俺の剣が相手の体を貫いた。
さすがに相手の動きが止まる。
剣に相手の重さがかかったのを感じて、俺は相手から離れた。相手はそのまま頽れる。
ふと見ると、火村も小鬼をすべて打ち倒していた。
倒れた相手を【鑑定】すると、『ホブゴブリン』と出た。




