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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.2 戦乱の先へ

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20.また早見さんがいろいろと……

 「近代戦のほうが、そういう意味ではひどいぞ。当たり前のように、一般市民が巻き込まれるからね」


 ああ、そうだよなあ……


 俺たちが納得しかかったところで、早見さんがさらに付け加えた。


 「ただね、均衡が破られて敵軍が押し寄せてきたら、こちらの世界のほうが被害がひどくなる。敵地での略奪や暴行は当たり前だから」


 うわぁ、そうなるか!


 「どうしてそうなるんだ?」


 火村が、顔をしかめながら突っ込む。


 「敵地での略奪は、物資の補給でもある。食糧なんかは、()()調()()のほうが効率がいいだろう? それと、やはり兵士と言うと男が圧倒的に多いからねえ。戦場まで出向いてくれるプロの女性なんて、そうそういないからね」


 早見さんの言い方はかなりぼかしてはいるが、言いたいことはよくわかった。俺だって男だもん、やっぱり、溜まるものはあるわけで……


 それを聞き、女の子2人は嫌そうに顔を歪めた。

 そういう反応になるのも、なんとなくわかる気がするが……


 「日本だって、戦国時代はそんなもんだったはずだぞ。だから対抗手段として、敵軍の進路に当たる村なんかは、わざと田畑を焼き払い、必需品だけ持って山に逃げ込んで避難するっていうのを、当たり前にやってたそうだ。そうやって、命を守ってたんだよ。おそらく、こちらの世界でも、同じようなことはやってると思う。こちらの世界の教会とか領主の館が要塞じみているのは、そういう場合の地域の人々の避難場所になるからだ」


 言われて、そういやそうだったと思い出す。

 街中で見かけた教会―とはいっても多神教の世界なんで、教会だって複数あるのが当たり前だった―は、結構しっかりした作りだった。特に、田舎町の教会ほど、やけに頑丈な造りになってる感じだった。

 王都からここまでくる間に立ち寄った、いくつかの街の例しか見てないけど。

 ただ、日本の戦国時代は、武者の数が少ない、つまり落ち武者なんかだったりすると、逆に農民が落ち武者狩りとかしてたそうだけどな。下剋上だなあ……

 それはさておき。


 「だから、僕は思うんだ。君たち勇者がやるべきことって、敵を打ち負かすことじゃない。ゲリラ戦を仕掛けて人族側が不利にならない情勢を保ちながら、最終的には停戦に持っていくことなんじゃないかと」


 真面目な顔で、唐突にそんなことを言いだした早見さんに、俺たち4人は思わず顔を見合わせた。

 停戦て……

 10年以上も続いてる戦争を? 俺たちが止める?


 「ちょっと待ってくれよ! 停戦って、オレたちがそんなことしなきゃいけないのかよ!?」


 火村が、戸惑いと焦りが入り混じったような顔になる。

 ただ戦うだけでもすでにいっぱいいっぱいになってるってのに、そんなこと言われたら、そりゃ戸惑うっていうか、焦るよな。


 「なんでそこまでしなきゃいけないのよ! わたしたち、ゲリラ戦しながら帰る方法を探すんじゃなかったの?」


 土屋さんも、なんで? って顔だ。


 「早見さん、何か考えがあってそんな事言い出したんだろうけど、無茶言わないで!」


 水谷さんも、理解出来ないという顔で言い返す。


 「確かに、ほんとはそこまでする義理はないとは思うよ。でもね、君たちがこの世界に召喚されてきた理由って、何だった? それを本気で放り出して、行方をくらませでもしたら、責められるのは王家の人々だ。国の屋台骨がぐらつく。前に言っただろう、人族側も一枚岩じゃないって」


 早見さんの表情が、真剣なものになる。


 「君たちは頼まれたはずだ。『勇者として人族を守り、魔族を打ち倒し、魔王を討ち果たしてほしい』と。それって、言い方を変えれば『戦争を終結させてほしい』だよ。恒久的な停戦に持ち込めれば、それで使命は果たされるんだ」


 人族にとっても有角族(ホーンド)にとっても納得出来る、落としどころを見つけ出し、戦争を終結させる。そうすれば、本当に思い残すことなく、元の世界に帰る手順を見つけ出して帰ることが出来る。

 早見さんはそういうのだ。


 「でも、前にあなたは言った。『すべてを放り出して逃げ出したっていい』って。あなた自身が示した選択肢の一つよ。それなのに、今更それは選んじゃだめってわけ?」


 水谷さんが、険しい顔になって問いただすように言う。


 「ああ、言ったよ。でも、あの時と今では状況が違う。あの時君たちは、実戦を経験してなくて、いわばまだ()()()()()()()()。だから、期待値はそこまで高くなかったはずだ。そりゃ、王家は責められたと思うけど。でも今は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。そうして期待させておいて、それを裏切ったなら、王家が負うダメージはより大きい。それに、勇者召喚賛成派の中が割れる」


 純粋に勇者の力を願った人々と、力を持ってるならそれを利用して自分たちの犠牲を減らせばいいと考えている人々が、ぶつかる可能性があるというんだ。


 「だって先方は、君たちが逃げ出したくなる理由がわからない。だって、王家の人々の目の前で、『魔族を打ち払い、魔王を斃してほしい』って願いを、承諾したんだろう? それを今更、“いやになったから逃げました”とは考えないと思う。ならどう考えるか。純粋派は『利用派が何かプレッシャーをかけたのではないか?』と考え、利用派は『純粋派が甘ちゃんで、勇者を鍛えきれなかったから逃げたのだ』と考えるのではないかと思う。そうなったら、どうなるか……」


 ……それは、収拾がつかなくなりそう……

 それを聞き、さすがに思うところがあったのか、皆黙りこくった。


 「いきなりこんな話をして、混乱させたことは謝る。でも、停戦への道を探る事が、君たちが取れる最善の道だと思うんだ。じっくり考えてほしい。今日はもう、これ以上このことについては触れないから、また日を改めて考えてくれればいい」


 早見さんは、俺たちに休むように促した。ゆっくり休んで、心身を少しでも癒してから、改めて考えればいいと。


 周囲はいつの間にか、昼間の戦いが嘘のように静かになっている。誰もが、今日の傷を癒し、明日以降の作戦行動のために休養を取っているんだろう。

 ちゃんと食べて、じっくり休んで、心身を回復させないと、それこそ持たないから。


 それを見て、火村も水谷さんも土屋さんも、とりあえず休む方向でごそごそいつも寝ている場所に横になっている。

 それを見て、俺も休むことにした。

 明日、考えよう……


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