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勇者として異世界召喚されたんだが、巻き込まれて一緒に召喚された人が実はヤバかった件  作者: 鷹沢綾乃
Act.2 戦乱の先へ

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12.やっぱり軍師出来そうじゃん

 「中世ヨーロッパだと、弓を射るより馬上槍(ランス)を構えて突進するランスチャージが行われてたからなあ」


 もちろん弓兵はいて、弓の撃ち合いから戦いは始まったんだそうだが、馬上から弓を撃つのではなく、歩兵の一部が弓兵団を形成していた。

 時に、戦いの雌雄を決するために、軍勢のトップ同士の華々しい一騎打ちで、勝敗を決めたこともあったそうな。

 他にも、試合形式で馬上槍試合が行われてたこともあったそうだが、マジで死者も出るガチ試合もあったらしい。


 そんな話をしているうちに、徐々に辺りがうっすらと明るくなり、東の方の空が白んできた。

 そして……いやな予感がすごく強くなった。

 あ……これは来るわ、敵襲。

 辺りを見ると、すでに人が慌ただしく動いていた。

 と、ここで早見さんが、土屋さんに声をかけた。


 「この土壁の上のほうに、穴をあけてくれないかな。別に大きくなくていい。矢を放てれば、それでいいから」


 一瞬面食らったような顔をした土屋さんだったが、早見さんにさらにこう言われ、納得したような顔になった。


 「君たちの世界にも、“お城”はあっただろう? 狭間(さま)というのを聞いたことはないかい? 内側を大きく、外側を小さく作ってある壁穴で、そこから矢や銃で敵を狙い撃てる場所だよ」

 「あ、それなら、わたしの地元に昔のままのお城が残ってて、遠足でそこに行った時に、そういうの見たことあった!」


 そういや、ここの土壁はただの土壁で、そういうの、全然なかったな。

 どうやら、敵がやってきたところで、堂々と出て行って戦うってことをやってたらしいんだ、これが。

 だって、一部のいかにも後方支援ですって連中を除いて、中に残るつもりがなく、外へ出ていこうとしてるんだって、素人目にもわかるんだもん。

 そりゃ、押されるに決まってる。


 「……出撃していって、いいのか? 相手のほうが、力が上なんだろ?」


 火村が、当然の疑問をぶつけてくる。

 でも、外に出撃していくことに、誰も疑問を持ってないらしい。


 「……そういうものだと、思い込んでいるだけだと思う。新しい戦術が、考えられていないんだよ」


 更によく見ると、出撃しようとしている連中の中にも、温度差があるような感じに見えた。

 やたら張り切ってるのは剣や槍を持ち、盾を持っている連中と、ザウードラに乗ってる連中。

 弓矢を持ってる連中は、なんだか元気がないように見える。

 何でだろうと思っていたら、早見さんが事情を訊いてきた。

 何でも、あまり役に立たないということで、重要視されてないらしい。


 「……唯一、魔法より射程の長い遠距離攻撃なのに、頭が固いな……」


 頭痛をこらえるような表情で、早見さんがぼやく。

 要は、相手も盾を持っていて、大半が防がれてしまうから、ってことらしいんだけど……


 「撃ち方次第で、やりようはあるんだけどな」


 そう言うと、早見さんは弓兵の隊長格の人のところで行った。

 俺も、ちょっと気になったので、ついていった。


 「ちょっと質問なんですが、斜め上空に矢を放ったとして、大体同じところに落下させることは出来ますか?」


 早見さんの問いかけに、隊長格の人は出来ると答えた。


 「出来るかと言われれば出来るが、どういう意味があるんだ?」

 「それが出来れば、相手に打撃を与えることが出来るかも知れませんよ」


 早見さんの言葉に、隊長格の人は溜め息をついて(かぶり)を振る。

 今まで散々相手に矢を射かけて、ろくな打撃を与えられなかった。だから今では、弓兵はほとんど後方支援に回されているという。


 「盾を貫けなかったから、ということでしょう? でも、()()()()()()()()矢の威力は、普通に弓を撃った場合より、はるかに高いのですよ」


 早見さんの説明に、俺はなんかすごく納得した。

 普通に弓を撃つと、いくら有効射程内であっても、発射してから徐々に速度も威力も落ちていく。

 重力に引っ張られるんだから、当然だ。

 でも、上空に向かって打ち、放物線を描くような軌道で矢が飛べば、落下時の加速度が加わり、まっすぐ撃つより威力が増すのだという。

 そういや、前に『三国志』がドラマ化されたやつのDVDを見たことがあったけど、まっすぐじゃなくて、斜め上に向かって矢を放ってたな。


 早見さんの説明に、隊長格の人の表情が明るくなる。自分たちも、戦力になり得るというのが、前向きな気持ちになったらしい。

 そして、土屋さんが作った狭間(さま)のことを知らされ、“遮蔽を取ったうえで敵を攻撃する”物だと教えられていた。


 「射撃というのものは、遮蔽を取れた方が絶対的に有利です。あれだけ狭い穴なら、魔法ですら直撃させるのは難しいはず。土壁に守られながら、攻撃が出来るんですよ」

 「……なるほど」


 ただし、味方が飛び出していって、乱戦になってしまったら、これらのことは活用出来なくなる。

 だから、まず弓兵が攻撃して、敵に多少でも打撃を与えた後に、出撃してもらったほうが絶対に効率はいい。

 自分も一緒に説得するので、部隊の指揮官に提案してほしい。


 早見さんにそう言われ、隊長格の人はうなずき、二人揃って今にも出撃しそうな連中の指揮官のところへ行った。

 これって、新しい戦術になるんだろうか。なるんだろうな。

 早見さんが何も言わないところを見ると、敵軍はまだ、近くには来てないようだし、話し合いの余地はあるのかな。


 しばらく話をしていたけど、やがて早見さんが戻ってきた。


 「とりあえず、提案は通った。『試しにやってみろ』的な感じだったけど、いきなり出撃するのはやめてもらえたよ」


 初撃となる斜め上空への射撃は、とにかく数を撃つことが必要ということで、どのくらい在庫があるのか、確認に行ったら……

 アホかというくらい、矢を詰めた箱がうずたかく積まれてた。

 どのくらい使ってなかったんだよ、弓矢!


 早見さんはもちろん、一緒に様子を見に来た勇者仲間の3人も、呆れたような顔になる。


 「……猪か、ここの連中は……」


 思わずだろう、そうつぶやいた早見さんの顔は、もはや生温かいという表情になっていた。

 ただ、“猪か”という言葉が妙にツボっちゃた俺、噴き出すのを何とかこらえたせいで、腹筋がおかしくなりかけた。

 火村は噴き出しかけて口を押さえていたし、水谷さんや土屋さんは、肩が震えている。

 しばらくして、笑いの発作は収まったんだけど、早見さんの指示で、大量の矢の在庫が外に運び出され、いつでも撃てるようにスタンバイされるのを見て、俺たちも動き出さないと、と思った。


 それにしても、なかなか敵がやってこないな。

 明るくなってきたら、すぐ襲ってくると思ったのに。

 それを早見さんに言ったら、こういう答えが返ってきた。


 「おそらく、先制攻撃を行うはずだった5人が、帰ってこなかったせいだろうね。それが、予想外のこととして受け止められたんだろう。5人が帰ってきて、どれだけの被害を出せたかの報告がなされれば、間髪入れずに攻め込む予定だったのが、再検討する必要が出て、出撃が遅れているんだな」


 はー……この人ホントに、軍師は出来ないの? すっごく冷静に分析してるじゃん。


 その時、見張りをしていたらしい人物の、叫ぶ声が聞こえた。


 「敵襲!! 敵襲!!」


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